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国分酒造 焼酎イノベーションの系譜(7)-『安田』

【安 田】

2013年10月 発売

安田杜氏の造りの技術を集大成した一本。
特徴的なライチの香りで専門家にも高い評価を得て、
いわゆる「香り焼酎」の先駆となった。

杜氏生活20年目を迎えた安田は、これまで培った自身の酒造技術のひとつの結節点として、「蔓無源氏」による芋100%焼酎の製造を思い立った。

『いも麹芋』をベースに新たなチャレンジを融合させ、ライチなどの果実系の香り高い作品を生んだ。それは「香り焼酎」といわれる新ジャンル創造の先駆となったのである。


2017年4月、日本政策投資銀行が”香り焼酎”ジャンルの隆盛を予言。
『安田』を研究レポートで取りあげ、「画期となる可能性を秘めた焼酎が誕生」と評価。

日本政策投資銀行・南九州支店が、2017年4月に『新しい焼酎の時代 -香り高いプレミア焼酎と本格焼酎前線再北上の可能性-』と題する調査研究レポートを発表した。

このレポートは、「本格焼酎の新しい発展方向性がみえてきた。香りの選択と集中による高付加価値化である」とし、「画期となる可能性を秘めた焼酎が誕生した」との言葉で、『安田』を詳しく紹介している。

「清酒が味なら、本格焼酎は香りである。香りの研究を応用することによって、香りに特徴を持たせることができるかも知れない。そして、そのような方向性を示す商品が誕生しているのである。ライチの香りを有する国分酒造の安田である」の一文が目を惹く。

芋焼酎の今後の方向性は「香り」であると喝破した、実に時代を先取りしていたレポートと言わざるを得ない。


さつまいも特有の香り成分、モノテルペンアルコールへの着目。
それが安田杜氏の酒造技術の集大成と重なって「香り焼酎」の原点となる。

日本政策投資銀行のレポートが次代の芋焼酎のあり方とした『安田』の風味は、どのようにして生まれたのか。

芋焼酎には他の焼酎にはない、さつまいも特有の香りがある。その香りはモノテルペンアルコールという成分に由来し、柑橘香や果実香として開く。

研究の結果、モノテルペンアルコールの値は、米麹焼酎よりも芋麹焼酎が高く、白麹焼酎より黒麹焼酎が高い傾向にあり、また芋の品種によっても値が大きく異なることがわかった。

『安田』は、その条件に合致した芋麹焼酎×黒麹焼酎で、さらに熟成された「蔓無源氏」芋を使用するにより、独特の香りをまとって誕生した。

安田杜氏が研鑽した焼酎造りの集大成作とする由縁である。


芋焼酎と白ワイン、それぞれ共通する意外な関係。
『安田』は他の国分酒造製品と比べて、モノテルペンアルコールの量が極めて豊富に。

鹿児島県工業技術センターで『安田』の分析を行い、ライチなど柑橘系の香りとなる「シトロネロール」の値が断然高い結果となった。

まずモノテルペンアルコールだが、芋焼酎特有の果実香・柑橘香につながる成分で、お酒の中では、白ワインやグラッパなどにも含まれている。

これは、さつまいもとぶどうが、同じ香りの成分を持っているためである。

本稿作成の2021年6月時点での数値。

芋焼酎に含まれるモノテルペンアルコールには、リナロール、ゲラニオール、シトロネロールなど5つの成分があり、『安田』は、全ての成分が、かなり高い値を示しているが、中でも、シトロネロールが断然高い値を示している。

モノテルペンアルコールは、使う芋の品種によっても値が大きく異なる。一番の代表格で、さわやかな果実香と評される”リナロール“は、コガネセンガンではあまり高い値は出ないが、ハマコマチ、ジョイホワイトなどでは高い値を示すことが明らかになっており、最近では、ハマコマチなどを使った芋焼酎も増えている。


特徴的なライチ香の由来は、モノテルペンアルコールの「シトロネロール」にあり。
これまで「芋イタミ臭」と否定されていた香りに、価値の転換を見いだす。

『安田』の最大の特徴香である“シトロネロール”は、果実香・柑橘香と言われる反面、専門家からは芋イタミ臭とも言われて、やや刺激のある果実香・柑橘香と言える。

これは、「蔓無源氏」の芋を貯蔵させることにより、非常に高い値が出るようになった。芋を貯蔵するという考え方は、前にも述べた通り、初年度(2012)の『安田』の仕込みで、傷んだ状態の芋が入荷したという経験が大きかった。

一方で、数値が高ければいいというものではない。

3年ほど前発売した『安田』は、シトロネロールが現在の2倍以上、また、ゲラニオール、ネロールについては5倍以上の値を示した。さすがにこの時は、あまりにも刺激的な香りが強すぎて、お客様からもクレームをいただいたことがある。

本稿作成の2021年6月時点での数値。

現在の『安田』は、芋の貯蔵方法を工夫し、2~3週間ほどじっくりと貯蔵する中で、できるだけ芋が痛まないように、貯蔵庫内の通気を良くするように工夫して熟成させている。


小林:米麹は使わず、麹も掛け芋も全量100年前の品種「蔓無源氏」を使った芋100%焼酎ですね。

芋焼酎は通常、収穫後フレッシュな内に仕込むのを良とされるけど、この『安田』は熟成させて使う。

芋焼酎造りは、仕込みの早い蔵ではお盆明けから始まり9月には蒸留開始、12月までそれが繰り返される。ただ9月に蒸留された焼酎よりも、後半に蒸留された焼酎の方が、複雑味や力強さもあって、私はその時期の新酒を発注していたんです。

なぜ味が違うのかと思うが「寒さかな?」としか思い浮ばなかった。

そんな疑問を抱えていた時、ある方が「芋の植え付けは始めと終わりにそんなにタイムラグは無いが、収穫は100日も違う場合もある。早い時期に採れた芋より長く畑にあった芋の方が身と皮の間、つまりフグなら”とうとうみ”、動物なら脂肪の厚みが違う」とおっしゃった。

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笹山:『安田』は、「蔓無源氏」の芋を2週間から3週間ほど貯蔵させて、11月中旬から12月下旬頃に仕込みます。

5年目の『安田』の仕込みを行った2016年秋から、「蔓無源氏」の芋の貯蔵庫を作り、貯蔵への取り組みを本格的にはじめました。

農家では、収穫したいもを種芋用として数カ月貯蔵しますが、気温10℃~15℃で湿度90%程度の場所が理想とされています。特に10℃以下の場所に置くと痛みが進むという話を聞いていたので、10℃以下にならないように、冷え込む12月は、断熱材入りの貯蔵庫のシャッターを閉めて、温度が下がらないように気を付けました。

ところが、2016年・2017年の仕込みでは、芋の貯蔵時はできるだけシャッターを閉めていましたが、「蔓無源氏」は貯蔵中にかなりの水分を出し、芋の表面が濡れたせいで、腐敗する芋も結構出たんです。

結果的に、2016年・2017年仕込みの『安田』は、モノテルペンアルコール値が非常に高くなりすぎて、キツすぎて飲めないというご意見もいただきました。

小林:「そうか!芋焼酎造りでは天地の蔓を切り落とすが皮は剥かずに使うのでその部分が味に影響するのか!」と、疑問がさっと晴れたのです。

芋を熟成させると糖度が上がるのは分っていたけれども、糖度だけなく皮と身の間にも要因があるのかと思う。あの香りを狙って造るというのは、中々出来るもんじゃない。

ところで、「蔓無源氏のいも麹芋」という商品名では、蔵や酒屋は良いけども、飲食店さんだとお客さんや店の人がそれまでの『いも麹芋』と「蔓無源氏のいも麹芋」の二つでは混乱するかもしれないと思ったんです。

長年かけて少しずつ収穫を増やして行かれた農家さんの努力と安田杜氏のチャレンジ精神の集大成の作品でもあるので、名前を『安田』と命名された。

国分酒造の焼酎は26度と言う度数が多いのを疑問に思う方もいるでしょうね?それは『いも麹芋』を初めて仕込んだ時の原酒が26度だったので、それを記念して26と言う数字にこだわっていると聞いてます。

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笹山:2018年の仕込みから、気温が10℃以下になるのは覚悟の上で、夜中もシャッターを開けて、通気を良くするようにしました。

結果的には、通気が良くなった関係で腐敗する芋がかなり減少し、また10℃以下になることもありましたが、気温低下に伴う芋の痛みはほとんどありませんでしたね。

そして、モノテルペンアルコールの値も落ち着き、マイナスに感じるお客様の声も減りました。

ただそれでも、『安田』は、他の焼酎に比べてモノテルペンアルコール値が非常に高く、特徴のある風味に仕上がっているのは間違いありません。

ちなみに、『安田』の名付け親は、小林さんです。

2013年の発売前に、小林さんに名前の候補をいくつか見せて相談したのですが、小林さんからの回答は「絶対に『安田』がいい」とのことで、『安田』に決まりました(笑)。

(8)に続く。


一部画像は「めぐりジャパン」さんの記事より承諾を得て転載させていただいております。

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