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或る「早良の醤油蔵」伝 ヤマタカ醬油(5) -21世紀のBig Bangとヤマタカ太陽系の謎を探索する!-

醬油天文学、長年の疑問→ なぜ、海王星や冥王星がないのだ?!

1.過去20年に渡る、ヤマタカ太陽系宇宙の爆発的拡大を探る

伊万里市の酒販店で一升瓶を見かけた20年前の件と関連するのだが。福岡市内というか、2000年以前に私が住んでいた福岡市南部域のスーパーなどでヤマタカ醤油を見かけることはほとんど無かったと思う。

また、生粋の早良人である家内の話だと、21世紀に入った当初でも区内北側ではヤマタカの商品はあまり見かけなかったという。ミレニアム前で家内の実家で使っていたのは西新の「松十醬油」だった。

しかし、現在では早良区を中心に市内と周辺の行政区にある量販店において、ヤマタカ醤油はほとんどの店で店頭化されている状況である。どうして21世紀に入って、ヤマタカ太陽系宇宙の爆発的膨張が見られたのだろうか?

私:「20年前では、ヤマタカ醤油の量販店などにおける店頭化はまだまだ進んでいなかったと記憶しています。当時私は西区姪浜に住んでましたが、『木星』を買うために金武地区の商店に出向いて購入していたんですね。現在では、それこそ置いていない店を探す方がたいへんな状況ですが、店頭化が進んだきっかけとは一体どういうことだったのでしょうか?」

社長:「えーとですね、今はもう無いですけど、いつだったかな、寿屋さんからお話をいただいたんですよ、店に置きませんかと。ただねえ、価格競争に巻き込まれたくないんですよね。だから正直乗り気ではなかったんですが、説得されて。価格を抑えにきたら、即商品は引き揚げてさせてもらいますとお断りしたんですが。それで店頭に置かれ始めたんですね」
私:「なるほど」
社長:「取引始める前では、寿屋さんとしては、醬油の調製に使う添加物のことで難色を示してきたんですね。もちろん国が認めてるものを使ってるんですけど。それでなんとか折り合いがついて販売が始まったわけです」
私:「はい」
社長:「そうしたら、お客様にご支持いただいて、お陰様で醬油がとても売れ出したんですよ。寿屋さんも商品が売れるなら文句はないわけでね、それで何も言わなくなった」
一同:(笑)
社長:「それから、他のお店さんともお付き合いが広がっていったんです」

寿屋といえば、一時期は九州を席巻した流通企業だったが、その後凋落。2001年12月には、ついに熊本地方裁判所に対し民事再生手続き開始の申立てを行って小売業界から姿を消した。

しかしながら、寿屋のスーパーの多くがイオンに吸収されてマックスバリュに衣替えしたことが遠因なのか、地域差はあるものの、マックスバリュなどイオン系のお店でヤマタカ醤油の店頭化が目に付く。気になるところだ。

特約店制度による小商圏時代から、大手や地場の流通チェーンを通してさらに広域の消費者と繋がっていく時代へ、ヤマタカ醤油は上手くシフトチェンジ出来たと言えるのではなかろうか。

2.ヤマタカ醤油太陽系の惑星群に、隠された新事実が?!

醬油天文学において何かと話題の、木星、火星、水星などのネーミング。これが一体どういう理由から命名されたのか、ぜひ観測したいと思っていた。

私:「ヤマタカさんと言えば、木星、火星、水星など、醬油のネーミングですが。これらの惑星たちの名称の由来はなんなんでしょうか。そしていつ頃から採用されたものでしょうか」
社長:「これはね、あの、私の二番目の姉がね、よー聞いとったちゃけど、爺さんからねえ」
私:「このネーミングは相当古い時代なんですね」

社長:「ええ、古いんですけど。とりあえず姉から聞いた話では、私の父、先代が『折角醤油屋するんやったら、一番を目指そう』やないかと言ったという、そんな話で、『夜空にいっぱい星があるけん、それを目指そう』と言って名付けた、という話は姉がしてましたね(笑)」

先代、とてもロマンチスト、である。

ヤマタカ醤油公式サイトより、醬油太陽系の惑星序列

カネ:「(上記配列図を見ながら)並びとしては、これは月火水木の順で並んでるんですよね。間にうまくちがあって・・・」
社長:「実は”金”、金星があったんですよ!」
三人:「ええええ?」

驚いた! ”金星”があったのだ!! どうして金星がヤマタカ太陽系からの軌道を外れて、「うまくち」という自由浮遊惑星が大接近してきたのか?

社長:「元々、金星としてあったんですけど、あの、表示法違反というか、金銀銅とか、ああいうのを付けたらダメですよ、というのが昔あったもんでね。それで”金”で無くなって”うまくち”に変わったんです。はははは」
カネ:「このうまくちが”金星”だったんですね!」
私:「公取さんの指導ってことですかね」
社長:「ははは」
カネ:「なんでこれだけ”うまくち”なんだろうって思ってましたけど、そういうことでしたかあ」

社長:「昔は、差別化をするために良く見せるような名前、そういう表示はダメですということで。でも今訊いたら、イイって言いよったけどね」
カネ:「”金”を付けちゃダメ、って言ったら、今ならたいがいのもんは全部だめでしょうしね」
一同:(爆笑)

カネさん(右)、K君(左)

社長:「あと”鷹”もダメだったんですよ。ヤマタカのロゴの後ろに、あの鳥の方の鷹を入れて、鷹の絵柄だったんです。その鷹もダメだという話で」
専務:「その意匠は木星のラベルの背景に、少しだけ残ってますね。なんでかなと思っていたんですけど」
私:「ヤマタカ・トリビア、ですね」
専務:「実際、この一覧表には載ってませんけど、『土星』もありますし、地球の『地』も、実はあるんですよ」
三人:「えええ?!」

私:「そのラベルとかはまだ残っているんですか?」
専務:「いいえ。まだ売ってますよ!」
私:「は?売ってるんですか?」
専務:「はい。そこのヤマタカ食堂の横の小売店で。たしか『地』の方が商品としては古いはずです」

またまた驚いた。地球も土星も揃っているのだ! 木火土金水の揃い踏みで陰陽五行説の完成だ。

公式サイトより拝借

カネ:「これ(先の表)は濃いと、薄いの対比になってるじゃないですか、一番旨味が濃くって色も濃いとなると、それが『月星』ですよね。ここから月火水木と並んでますけど、うまくちの”金”がちょうど真ん中になりますね。これって何か法則性みたいなものがあるんですか」
社長:「いや、そういうのは無かったと思いますよ(笑)」
専務:「今の時代になって、買われる方から解りにくい、よく解らないというお声をいただくので、それで作った表なんですよ。先代の当時はもしかしたら”金”が一番薄かったかもしれないです」

私:「ついつい惑星の配列で考えてしまいますよね」
K君:「私もこの表を見て、月火水木と順番が違うなと思って。他の人に訊いたら、それは”曜日”だろうとか色んな意見も出てきて」
一同:(爆笑)

私:「ということで、天文学上の謎が解明されたところで、次ですが・・・」

3.流星となって銀河の果てへ、『五代目当主の道楽醬油』。

今はカタログにないアイテムに『五代目当主の道楽醬油』がある。

ネットで調べたら、最初の発売が12年前の2010年9月だったようだ。もうそんなに経ったんだなあ。

ヤマタカさん自身で栽培した原料を使った2年貯蔵の本醸造醬油ということで、私も気になって蔵に買いに行き、瓶入りのものを2度購入した記憶がある。それから幾星霜、また舐めたいと思っていたのだが、そのあたりも含めて社長にお話を伺ってみた。

私:「質問シートには書いてなかったんですけど、”社長のこだわり醬油”というか、白ラベルに筆文字の商品ってありましたよね」
社長:「ああ、これですね(と、壁に貼られたポスターを指される)」
私:「あ、そうです、これです。『五代目当主の道楽醬油』ですね。先ほど専務にも伺ったんですけど、最近は造られていないとお聞きしましたが」

社長:「あの、もうねえ、造ってないんですよ。えーとねえ、ほんとに最初の分っていうのは、大豆も小麦もうちの手造りでやったんですけど、やっぱりその時つくづく思いましたけど、農家の方は凄いなと思いましたね。当たり前に普通にね、作られてらっしゃるんですけど。うちは設備というか機械が無いもんですから、大豆刈り入れするのも手で、うちの家内と手で引き抜いて干して、で、JAのグリーンセンターかで脱穀機みたいなのを借りてきて、それでやって」
三人:「ほぉ・・・」

社長:「その頃はね、四反の畑があるんで、そこで作ったんですけど。ちょっとしか穫れないんですよ、量として、大豆も小麦も。2年続けましたけど、こりゃもう大変だと(笑)。ま、国産の大豆と小麦を仕入れて、それで何年かくらい仕込みましたかねえ、1年に1回は仕込んでいたんですけど。やっぱり大変ですね」
私:「はい」

社長:「でも、醤油屋としては、やはり一から、自分の手で醬油を造らないといけないと思いましてね。それでやり始めたんです。塩もね、長崎の崎戸の塩を使ってるんですよ」
カネ:「ああ、やっぱり塩は長崎ですか。カノオ醬油さんも長崎とおっしゃってましたね」
社長:「そうですか」
私:「まあ、それだけ社長のお手間が掛かっていた醬油ということで。二度買った私の目に狂いはなかったということですね(笑)」

カネ:「あと面白いなと思ったのが、(ポスターを指しながら)小麦に”チクゴイズミ”を使っているところですよね。一般には”ミナミノカオリ”が蛋白質の含有率が高いんでよく使われれるんですけど、”チクゴイズミ”なのが面白いなと思ったんですよ」
社長:「”フクユタカ”と”チクゴイズミ”ですね、はい」
カネ:「なるほど」

社長:「『五代目当主の道楽醬油』を造った頃は、徹底してこだわり抜いて醬油を造ってやろうと思って、それでコンプラ瓶もね、波佐見まで行ってお願いして作ってもらったんですよ」
K君:「こだわって醬油を造ろうと思われた時に、どんな醬油を造ろうと思われたんですか。色んな、たとえば刺身醤油とか、色んな種類のお醤油があるじゃないですか」
社長:「とりあえず、どの種類を造ろうかということは無かったですね。ただ、九州で言うと甘い醬油が好まれるんですけど、大豆小麦食塩、あとアルコールかなあ、いうなれば”何も足さない、何も引かない”みたいなものが造れたらいいかな、というのと。ま、普通は1年、12ヶ月は寝かせば、発酵して色も付いて商品としては出せるんですけど、これについてはまず2年は寝かせようと思ったんです。それで2年熟成のものだったんですね」

私:「あのぉ・・・もし、もう1回造ってくださいとお願いしたら、造っていただけますか?」
社長:「いやぁ〜、もう1回と言われても、しない!」
一同:(爆笑)

◇   ◇   ◇

流れ星となって、遙か二千億光年の彼方へと去った『五代目当主の道楽醬油』。星に願いを、と念じてもその想い、決して叶うことは望めないようである。

Dream not came true.

(6)に続く

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