国分酒造 焼酎イノベーションの系譜(9) -『クールミント グリーン』
【クールミント・グリーン】
2020年6月 発売
『フラミンゴ オレンジ』に続いて業界に放った
愛飲家に大好評の「香り焼酎」第二弾。
米麹と古典的製法を採用して香りの新境地を拓いた。
「フラミンゴ」の柑橘系から、本作ではバナナやミント系の香りが引き立つ焼酎を目指して、安田は米麹への変更や「どんぶり造り」による新作造りに挑んだ。
バナナやメロンなどの香りと表現される成分「酢酸イソアミル」の量が極めて多い仕上がりとなり、新たな「香り焼酎」として、前作に続いて愛飲家の熱い支持を得た。
『フラミンゴ』では期待したほど上がらなかった、酢酸イソアミルの値。
上げるために安田が考え抜いて採用した製法と、その結果は?
バナナやメロンの香りにたとえられる酢酸イソアミル値が高くなると言われている、”鹿児島香り酵母1号”。
しかし、『フラミンゴオレンジ』の仕込みでは、不思議なことにその値はそれほど高くはならなかったのである。
「ある酒販店からの提案で、芋麹でなく米麹を使用することで酢酸イソアミル値が上がり、より新しい香りの焼酎ができるのではないか」という話を笹山から聞いた安田は、米麹と鹿児島香り酵母1号を使って、新たな焼酎づくりに挑むことにした。
しかしながら安田は、米麹を造って仕込むと、ごく一般的な仕込み方法になるため、風味の違いが出しにくくなるのではないかと予想した。
結果的に出した答えが、米麹を造った後は一次仕込みは行わず、米麹とさつまいもと酵母を同時に仕込む、いわゆる「どんぶり仕込み」の採用だったのである。
さらに、米麹で香りの減殺を懸念した安田は、それをカバーするため、米麹造りに使う種麹には、秋田今野商店の”香気増強用白麹”を使うことで万全を期した。
そして、2019年秋に初めての仕込みを実施。もろみの段階からすでにバナナのような香りが感じられ、減圧蒸留後もさらにバナナやメロンのような香りも漂ってきた。
酢酸イソアミル値を分析してもらうと、8.8という値が出て、一般的な芋焼酎に比べると相当に高めの数値である。
『フラミンゴ』との個性を際立たせるための、様々な工夫と試行錯誤。
2021年4月、2年目の『クールミントグリーン』は酢酸イソアミルが2倍と増加!
そして2020年8月、ついに初出荷の日を迎えたのだった。
さて、なぜ『クールミントグリーン』と命名したのかとよく尋ねられる。
それはバナナのような風味も感じつつも、口に含んだ時の爽やかな甘さをより強く感じたため、この甘さをミントに例えて、『クールミントグリーン』とした。
初年度は発売本数も少なく、また前作『フラミンゴオレンジ』の人気もあって、あっという間に完売に。
しかし、銘柄としてしっかり独立させるためには、『フラミンゴオレンジ』との個性をさらに際立たせ、もっと特徴を押し出す必要があると感じていたのも事実である。
2020年秋に行った2年目の仕込みでは、安田は、米の精米方法を変えたり、もろみの冷却方法、減圧蒸留の方法などにさらに工夫を凝らした。
2021年4月、2年目の『クールミントグリーン』を送り出した。
計測したところ、酢酸イソアミル値は、2020年版のちょうど2倍となる、なんと17.6mg/Lを記録したのだった。
小林:進化の勢いが留まる事ない安田杜氏は、米麹の重要性ももちろん深く理解された方です。
芋麹を使った”フラミンゴ”の時は「酢酸イソアミル」が思ったほど出なかったので、次の『クールミントグリーン』では米麹を選択した。
仕込み方法は、通常の一次仕込みと二次仕込みを分けない「どんぶり仕込み」と言って、蒸米と蒸して裁断した芋を同時発酵させる技法を用いたのです。
昨年は香り成分について狙った結果も出たのですが、そこへコロナ禍があって出荷も遅れてしまいました。今年の出荷分については更に工夫を凝らしましたが、詳しくは笹山さんにお任せするとして、グラフにある様に約倍の数値が計測されたんです。凄いことです。
それと商品名とラベルを見た時、これは世代によるだろうけど、真っ先にロッテのガムを思い出したんですね。法的にはなんら問題無くとも、同じ感想を持った方もいらっしゃるんじゃないかな。
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笹山:『フラミンゴオレンジ』と同様、『クールミントグリーン』のラベルも、東京の女子大生にデザインしてもらいました。
『フラミンゴオレンジ』のラベルデザインが最初に上がってきたときに、このようなラベルは初めてだったので不安もあったのですが、結果的にラベルと味わいがマッチして、いい結果となりました。
余談ですが、『フラミンゴオレンジ』のデザインは、亡くなった小林真央さんが以前ブログに上げていた、”オレンジフラミンゴ”というハイビスカスをモチーフにしています。
『クールミントグリーン』のラベルは、ペンギンが全面に出ています。このデザインを見た時、ペンギンのデザインと”クールミント”という名前で、真っ先に頭によぎったのは、あのロッテの『クールミントガム』でした。
このまま、何も言わず発売することには抵抗があったので、まずは特許事務所に相談したんです。
小林:それで、笹山さんにはロッテさんに仁義を切るべく電話を掛けるよう勧めたんです。するとたまたま電話に出た方が、日頃から国分酒造の焼酎を愛飲していた方だった。そして権限のある方へスムーズに繋げて下さって了承を得た。奇遇ですよ。
2010年以降、新しい登山ルートを探していた業界ですが、国分酒造さんの一連のシリーズを通して、それが今はっきりと見えたのではないでしょうか。
1970年代から1990年代にあった廃業・休業と言う暗黒の時代を乗り切り、またEU諸国からは「同じ蒸留酒なのに酒税がウイスキーは高いが焼酎は安すぎる」という外圧に屈して三段階に分けて同じ税率に合わせた時代。それが、皮肉にも本格焼酎業界始まって以来の大ブームと重なり隆盛を極めました。
ブームはいつか必ず去るからブームであって、やはり過ぎ去ってしまった今、新たな飲み手の開拓に明るい兆しを灯した国分酒造の業績は大である、と私は思います。
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笹山:特許事務所からは、「商標の分類も異なり、ラベルもパクった訳ではないので、大丈夫ではないか。ただ、最悪ロッテさんからクレームが来ることも頭に置いて下さい」との回答でした。
その後小林さんにも相談し、消費者からのクレームも怖いからロッテさんに相談してみればとアドバイスをもらい、電話を入れて確認することにしました。
ロッテ本社に電話をしたところ、出られた広報の女性の方が「国分の焼酎、飲んでいます!」とおっしゃって、びっくり。その後もスムーズに話を進めていただいた印象を持っています。
数日後にこのご担当の女性から連絡を頂戴し、OKとのご返事を頂きました。
日本を代表するお菓子メーカーが、我々のような零細企業の話にも耳を傾けて、しっかりと対応して頂いたことに、とても感謝しています。
(10)へ続く。
一部画像は「めぐりジャパン」さんの記事より承諾を得て転載させていただいております。
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