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What is A24? - 新虎CINEMA LOUNGEメモ

このnoteはなにか

2020年2月19日にCINEMOREさんが主催の新虎CINEMA LOUNGE 〜映画好きのための映画交流会〜 「What is A24 ? 新進気鋭の映画会社"A24"を語ろう!」に参加した際のメモです。

A24から直接日本の配給権を買い付けている成田大四郎さん、日本アカデミー賞受賞(優秀作品賞/優秀監督賞/優秀脚本賞)された藤井道人さん、A24の新作ミッドサマーのポスターを制作し全世界で話題になった大島依提亜さんという、普段なかなかお話が聞けないような方々の、A24に対する愛であったり、現在の映画業界のお話(日本版ポスターのデザイン問題も…!)をお聞きできるというレアイベント。

そもそも、配給会社/制作会社であるA24の特集に集まる観客の方も映画への愛が強い方が多く、質疑応答含めて非常に密度の濃い会でした。

3セッション、しかもかなり情報量の多い内容だったので、なるべく情報量を落としたり内容を変えないように注意はしましたが、あくまでも「書き起こしではなくメモ」であることをご承知おきください🙏
もし誤った表現や記載があればこのnoteを書いた筆者までDMなどでご指摘いただけると幸いです。なお、当日企画者の方からこういった形でのnoteへの投稿許可はいただいております。念の為。

登壇者とセッション

成田大四郎さん - ファントム・フィルム 国際部
藤井道人さん @mickbabel - 映画監督
大島依提亜さん @oshimaidea - デザイナー
(モデレーター) SYOさん @SyoCinema - 映画ライター/編集者
(モデレーター) 香田史生さん - CINEMORE編集長

Talk session 01 どこまで知ってる?「A24」
Talk session 02 映画監督から見た「A24」
Talk session 03 A24最新作『ミッドサマー』とは!?

Talk session 01 - どこまで知ってる?「A24」

ー A24と直接やり取りをして映画の買い付けを行っているファントム・フィルムの国際部の成田大四郎さんに話を聞きます。恐らく、日本で一番A24について詳しい方なんじゃないでしょうか。

A24は2012年8月20日に設立されたニューヨークに本社のある会社で、ダニエル・カッツ、デヴィッド・フェンケル、ジョン・ホッジス(既に退社)の3人で作られた会社です。
元々は北米の配給会社としてスタートしたんですが、最初から(配給権を)買っている作品のエッヂが効いていました。創業翌年の2013年に公開されたスプリング・ブレイカーズ(原題:Spring Breakers)という作品が成功して、そこから映画業界の人達が「A24って面白い会社だね」となったんです。

その後も配給会社としてやっていたんですが、アカデミー賞作品賞を受賞したことでも知られるムーンライト(原題:Moonlight)が最初の制作作品です。この時、Plan Bというブラッド・ピッドが設立、所有している制作会社と一緒に作品を作りました。

A24の特徴として、アナウンスが非常に少ない会社です。シャイといってもいいくらい。プレスからのインタビューを社長が基本的に受けないんですね。
以前、日本のメディアから依頼がありA24を紹介して、特集させてもらうことになったのですが、その際も日本語以外でその記事を出すことはNGだと言われました。アメリカでも取材は基本的に断っているんです。

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ー 日本でOKがでたのは何故なんでしょう。

彼らは日本の市場を大事にしていると思います。
先程もお伝えしましたが、A24は元々北米の配給会社でした。その後、イス・アーミー・マン(原題:Swiss Army Man)というダニエルズという監督2人が作った映画で初めて全世界の配給権を購入したんです。そして彼らは北米は自分たちで、北米地域以外の配給権を他の配給会社に売り始めたんですね。
そこから北米以外のマーケットを重要視するようになったんだと思います。

今でも彼らはピックアップ(配給権を購入)する作品と、自主制作(A24自身が制作会社になる)の両方をやっています。最近だとフェアウェル(原題:The Farewell)はピックアップ作品ですね。逆にWavesは自主制作です。

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ー 成田さんから見て、A24が他社と違うと感じるところとかあったりされますか。

A24の方と会う機会として、映画祭で我々が作品を買付する際にスタッフのみなさんが出ていらっしゃるんです。カンヌ映画祭とか。そこで代表のお二人や制作、配給のトップの方が出てこられるんですが、非常にお若いんですよ、35歳とかです。

彼らとのコミュニケーションは非常にざっくばらんな感じです。買付をする場所自体はカンヌにあるホテルのスイートルームで、お酒とかも用意されているんですが。そこで、まだ出来上がる前のミッドサマー(原題:Midsommar)の説明をしてくれるんです。皆さん年齢が若いし、感性も若い。こういうチームで作品を選んでいるんだろうな、という気がしますね。

ファントム・フィルムはミッドサマーの映像が出来上がる前に日本での配給権をA24から買いました。彼らの凄みとして、まだ新人と言える監督の1本目や2本目、しかも1本目が興行的にミスってしまっていても、良い作品を見つけてくるんですね。そのセンスや感性が凄いんです。
実際アカデミー賞作品賞を受賞したムーンライトのバリー・ジェンキンスという監督も1本目の作品は、興行的には全然成功していませんでした。その監督の2作品目、しかも黒人のゲイを主人公とした映画をA24自身の第一作目の自主制作に選ぶというのが本当に凄い。

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ー 買付するときに、作品になる前の脚本段階で選ぶんですね。

そうですね、前回のカンヌでWavesを脚本段階でA24から買ったんですが、彼らはその脚本の見せ方もとてもおもしろかったんです。
映像もまだない、正に製作中という段階。A24から「台本を読みに来て」と言われてカンヌのホテルのスイートルームに行ったんです。

普通なら紙の台本か、iPadに入ったPDFを見せてもらうんですが、彼らからはiPadとヘッドホンを渡されたんです。iPadに入っている台本には、各シーン再生ボタンがついていて、それを押すとシーンごとに楽曲が再生されて、その曲を聞きながら台本を読むんです。曲のキューによって場面が変わるんです。
それで実際、完成した作品をみたときは「台本通りだ!凄い!」と思ったんですね。こういうことが出来るのもA24の凄いところだな、と思いましたね。

あと、彼らの凄いところとして、一番最初から自分たちで監督を見つけてきて、監督のことを大事に見守っているんですね。監督の人種やバックグラウンドも様々なんですが、A24ファミリーと呼ばれる監督のコミュニティがあって、監督同士が非常に中がいいんです。

ー なんと今日はですね、そんなA24ファミリーのアリ・アスター監督ミッドサマーの監督)からこのイベントのためだけにコメントをもらってきました。

(アリ・アスター監督)A24についてのイベントに参加してくれているみなさん、私はA24が大好きです。A24は沢山の協力とそして自由を与えてくれているんですよね。皆さん、サポートしてくれてありがとうございます。

(アリ・アスター監督ビデオメッセージはここまで)

ー コメントすごいですね。さて今週末にはミッドサマーが公開され、4月の10日からはフェアウェルとWavesが公開されますね。

そうですね、フェアウェルはアメリカに住む中国系の人々と、中国に住む中国の人々のお話で、すごく泣けるいい映画でした。

近年、世界ではダイバーシティや人種の多様性、セクシャリティを重視するという世代になってきていますが、A24はそこに一番フィットしているとお思いますね。ムーンライトも正にそう。そして彼らはそれがトレンドだからやっているというわけじゃないんですよね。

ー ファントム・フィルムさんがミッドサマーを決めた理由というのは

我々がミッドサマーを買うことに決めた理由としては、まずアリ・アスター監督の前作であるヘレディタリー/継承(原題:Hereditary)がめちゃくちゃ良かったんです。
ファントム・フィルムの代表が映画祭でヘレディタリー/継承の試写会を見て、終わったらすぐに「すごくなかった?今の!絶対欲しい!」となったんです。それで「アリ・アスターは凄すぎるので、とにかく買わなきゃ」という感じになり、台本の段階でミッドサマーを買ったんです。

ー 争奪戦みたいになると思うんですが、ファントム&A24ライン、みたいなのが出来ていたんですか。

多分そうですね。パートナーシップみたいにやらせてもらっていると思っています。

他にもファントムフィルムのA24作品の紹介すると去年公開されたザ・ラスト・ブラック・マン・イン・サンフランシスコ(原題:The Last Black Man in San Francisco)という作品があります。ジョー・タルボットという監督なんですが、ほとんど新人みたいなもので、最初はムーンライトのときみたいに誰も知らない作品でした。ただこの作品は全米の監督たちが選んだインデペンデント系の映画祭における新人賞を受賞したんです。

ザ・ラスト・ブラック・マン・イン・サンフランシスコという映画なんですが、ベイエリアというのは元々、ニューヨークのハレームのような街でした。ただ再開発が進み、富裕層が入ってくることで元いた人々の故郷を奪ったんです。おじいちゃんが立てた豪邸を友達と共に頑張って取り返すぞ、という映画なんですが、なんと主演は自分自身を演じているんですね。元々監督と主演の2人の実際のストーリーに基づいたフィクションなんです。これもとてもいい映画で、ムーンライトと同じくブラッド・ピッドのPlan Bと一緒に作った作品です。

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あとはThe Green KnightというA24初のファンタジー映画もあります。非常に豪華な出演陣で、予告編はミッドサマーに似ていますね(笑)

他にはThe Death Of Dick Long。この映画の監督はスイス・アーミー・マン
のダニエルズのうちの1人であるダニエル・シャイナートが撮った映画です。ネタバレになってしまうのであまりストーリーは言いたくないんですが、田舎でアマチュアバンドやっている青年の3人がいて、そのうち1人が死ぬんです。そしてその死因を知っているのは残りの2人。2人は1人が死んだことを隠そうと必死になるんでが、うまく事が運ばない。非常にブラックユーモアのある衝撃的な内容で、とんでもなく狂った、A24にしか作れない映画だと思います。

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ー 残り時間も少なくなったので、会場から質問を受け付けてみましょう。

(質問者)「A24のIn FabricとかThe Lighthouseは日本で公開されるんでしょうか」

In Fabricは日本でやると聞いています。弊社ではないんですが。The Lighthouseは公開予定を聞いたことがないですね。

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(Talk session 01 - どこまで知ってる?「A24」はここまで)

Talk session 02 - 映画監督から見た「A24」

ー 「新聞記者」などの監督をされていて、ご自身もA24が大好きという藤井道人さんです。藤井さんはA24をどうして好きになっていかれたんですか。

A24という会社の存在を認識した2015年のルーム(原題:Room)からだっと思います。その後よくよく知ったらアンダー・ザ・スキン 種の捕食(原題:Under the Skin)とか映画館で見ていたあの作品もA24だったんだ!という衝撃を覚えていますね。

後はGood Timeとかも好きです。ロバート・パティンソンがこんな役をやるんだ!と思いましたね。予告編を見て衝撃を受けたんです。
Good Timeをネタバレなしに伝えようとすると、どんどん落ちていく映画という感じで、非常に映像のセンスがいい。

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ー 社会のスミにいる人を撮るという視点でいうと藤井さんと近いものがあるんでしょうか。

そうですね、スミと言ってしまうとあれなんですが、市井の人、生きづらそうにしている人をテーマにした映画はグッと自分ごとに捉えられるんですよね。

Good Timeでここが強烈だった、というシーンはありますか。

まだ見ていない方もいると思うので難しいんですが、後半のどんどん落ちていくシーンでしょうか。あとは街を走っているシーン。あとファイトシーンがアクションじゃないんですよね、リアルファイト。この映画にしかない生っぽさがあるんですよね。人を殴るパターンの多さとか。Netflixで配信しているので是非見てみてください。

あとはアンカット・ダイヤモンド(原題:Uncut Gems)も好きですね、アダム・サンドラーがとても好きで。最低の人間を演じているんですが、こちらもNetflixで見れます。宝石商のお話です。Good Timeと同じ監督なんですが、こちらのほうがより尖っていますね。シナリオがよりカオスになっていました(笑)
ラスト数十分が好きなんですけど、脚本会議では絶対に落ちるような内容なんですよね。

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ー 実際に映画を作られている人はどういう映画を見ているんですか。

昔は賞をとったお洒落な外国の映画をよく見ていましたね。
最近ではSNSで流れてくる予告編をみて映画をみるようになりました。その中でも暗そうな作品から見ます。

私が惹かれるポイントというのは市井の人を描いていて、シリアスであること。自分の人生に近づけられそうだな、という作品から優先的に見るようにしていますね。

ー A24のフィロソフィーにもシンパシーを感じていらっしゃると打ち合わせでお聞きしましたが、どういう部分でシンパシーを感じられていますか。

「なぜ今、この作品をつくるのか」という時代精神ですね。

ー いつかA24で作品を作られたいですか。

おこがましいですが…そうですね、いつかは。

個人的には、レーベルを作りたいと思っているんです。昔はあったと思うんですが、今はレーベルで映画を選んで見に行くというのが少ないな、と。
自分たちの世代で、もう一度そういった事をやりたいとは思っていて、スターサンズという映画会社からも刺激を受けています。

ー そういったレーベルを作りたいというのもA24に刺激されたんですか。

そうですね、単純にかっこいい。

ー ここでもう一度、アリ・アスター監督からのビデオメッセージです。A24の面白さについてコメントをもらいました。

(アリ・アスター監督)まずテイストが素晴らしいんです。A24はトップの人間が若い社員を信頼している。そして、その社員が持っているテイストが素晴らしい。彼らは映画に真剣に向き合っています。常に監督や作品を探していて、彼ら同士で相互に紹介している。

あと、他の会社との違いは、決めたら徹底的に応援することです。
彼らは興行要素を求めてきませんし、僕たちに全幅の信頼をおいてくれます。自由に作らせるというのがスタンスなんです。
素晴らしい映画に方程式なんてない。選んだアーティストが才能を持っていて、その彼らの映画作りを支えるからこそA24の作品は生まれる。

彼らは大きなスタジオの真似をしません。
興行的に上手くいくかは別問題です。でも、素晴らしいアーティストが作るから、作品はやっぱり面白い。

A24ファミリー(A24作品の監督たち)はニューヨークに住んでいる人が多く、イベントなどでもよく会うし仲がいい。A24にサポートしてもらえることをみんな誇りに思っています。
(アリ・アスター監督ビデオメッセージはここまで)

ー アリ・アスター監督のコメントの中で、A24ファミリーは仲がいいとおっしゃっていましたが、これって結構珍しいことなんですか。

日本では監督同士で会ったりするのは少ないと思います。「誰々が今度これをやるらしいよ」といったような情報交換はしたりしますが、監督同士でより高め合うという環境が日本で多いとは思いません。

ー むしろプロデューサーの方々とよく会われるんですか。

プロデューサーとは企画のブラッシュアップなどではもちろん会いますが、交流が頻繁にあるわけではないですね。

ー なるほど。アリ・アスター監督はA24は自由にやらせると言っていましたが、自由じゃないということが、そもそもあるのですか。

「赤字を出したら出禁、干す」と言われることもあります(笑)
なので興行的に安定した監督が使われることも多いです。ただ、私はこれは「恥ずかしいことだな」と思います。干されないようになるために映画監督になったわけではないので。

見たことの無いものにトライしたい作家と、見たこと無いものを承認できない会議。そういう葛藤は日々ありますね。新しいことをやるチームはもっと出てきてもいいと思います。もっと自由に作っていきたい。

ー A24に日本で一番近い環境というと、どこがありますか。

Netflixだと思います。彼らは本(脚本)が出来てから予算とキャスティングを決めます。これは非常に作家にとって恵まれていること。
NetflixがA24と一緒にアンカット・ダイヤモンドをやったというのはいい話だと思います。

ー ここで藤井さんの最新作である「宇宙でいちばんあかるい屋根」についてお話を聞かせてもらえればと思います。

主演の清原果耶さんとはデイアンドナイトという作品で初めてお会いしました。そこから凄い方だな、と思っていて。

宇宙でいちばんあかるい屋根は、新聞記者とは180度違う作品です。内閣情報調査室も政治的な要素も全く出てこない(笑)
この映画は、大人になってしまった人に向けて作った、15年前を舞台としているファンタジーです。素敵なキャストに恵まれました。あと、まだ発表されていないんですが、おばあちゃんがとんでもない人です。
まだ完成していない、仕上げ段階です。

ー そんなお忙しいところ、今日はありがとうございます。先程Netflixが自由だ、というお話がありましたが、日本で期待できるプラットフォームや会社はありますか。

やはりスターサンズですね。スターサンズと出会っていなければ私は今ここにいなかったと思います。70歳になられるプロデューサー(河村光庸さん)が1人でぶん回しているような会社なんですが、彼がいなければここまで観客の事を考えて映画を作れなかったと思います。

(ここで1つスターサンズ関連の情報が話されましたが、情報解禁前のためこのnoteでは非記載とさせていただきます。)

ー 新聞記者という作品には元々別の監督がいて、変わったというお話を聞きました。

そうですね、色々あって変わることになり、私にオファーがきました。
正直話を聞いたときは「だっせぇタイトルだな!」と思いました(笑)
私自身、新聞読んでないし、政治について語るということもやりたいとは思っていなかったんです。

最初にオファーをもらった翌日に「また会いたい!」と言われて会ったんですが、そこでも断りました。政治について学んでいないし、絶対に叩かれると思ってました。すると「君たちみたいな人に僕らのバトンを受け取ってほしいんだ!!」と宮益坂のカフェでめちゃくちゃ大声で頼まれたんですよね(笑)
そこで、こんなに人に求められるなんて…と思い、賭けでやったんです。
ただ、前にオファーされていた監督は大ベテランの方だったので、多分嘘だったんだとは思いますが(笑)

一昨年の初夏に急にやるぞ、と言われたんです。で、本が無いのに公開日は決まっていた。「本は作るんだ、問題ない」という感じで。

実際作ることになって、どうやっても批判されると思ったので逆に自由にやれたというのはあります。政治について知らないし、興味もない人の目線で作るということで、知ったかぶったりしなくていい。自分の目線で作れた作品です。

(Talk session 02 - 映画監督から見た「A24」はここまで)

Talk session 03 - A24最新作『ミッドサマー』とは!?

ー いよいよ2/21(金)に公開されるA24の最新作『ミッドサマー』。本作のポスターデザインを手がけた大島依提亜さんです。今回大島さんが日本向けに作られたポスター、SNS上で大変好評で、なんとスペインでもトレンド入りされていますね。

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(左からヒグチユウコさんver、大島依提亜さんver、オリジナルver)

スペインを含むいくつかの国では、モンドポスターというファンメイドのポスターが非常に流行っているんです。映画のポスターは同じ作品でも、公開される国によって多少異なります。

私はミッドサマーのオリジナルポスターが大好きです。アリ・アスター監督の絶叫シーンはとてもセンセーショナルで、このミッドサマーのポスターだけでアリ・アスター感が伝わりますよね。

ー 日本版を作られるときには、どういった経緯がありましたか。

本国のポスターのままだと日本でやるときに伝わらない、というケースであれば大幅に変えることもあります。逆に本国が良ければそのまま使うべきだと感じています。日本ならではの意匠を施したい、というような考えはないです。映画のための最良であるべきと思っているので。アメリカン・アニマルズ(原題:American Animals)も象徴的で良かったですね。A24作品ではないですが。

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(左から100%ORANGEさんver、ヒグチユウコさんver、羽鳥好美さんver、オリジナルver)

そもそもモンドポスターというのはファンが勝手に作るものも多いんですが、公式で自由に作るという取り組みをするのが面白そうだな、とは思っていました。ヒッチコック/トリュフォー(原題:Hitchcock/Truffaut)が最初かな。

ベーシックな宣伝用ポスターは別に作っておいて、遊びが入ったものは別で用意しておくと、喜んでくれるお客さんもいるのでいいかな、と思います。
以前であれば1つのポスターに集約していましたが、最近ではSNSなどチャネルが増えたので多角的にやっていいと思います。

海外だとそういった行為が盛んで、ファンメイドのモンドポスターを公式にしちゃうこともあります。マーベル作品のガーディアンズ・オブ・ギャラクシー(原題:Guardians of the Galaxy)とかはDisnyがピックアップして公式ポスターにしていましたね。

ミッドサマーのモンドポスターはファントム・フィルム(日本における配給会社)さんの協力の下やりました。ありがたいことに、A24からの評判も良かったです。
海外の大本(配給会社)がNGを出すこともあると思うんですが、A24は流石というか分かっていて、話をしても「No problem!」と。

A24さんでいうとパーティで女の子に話しかけるには(原題:How to Talk to Girls at Parties)からこの取組を始めました。当時はA24はそこまで日本で有名ではなかった。

パーティで女の子に話しかけるには、やたらゲロとか出てきますよね。

そうそう。由緒正しい環境に宇宙人が出てくるとか。
サイケなカラーリングだったり、ちょっとピストルズ (Sex Pistols)っぽい。リサーチをすると、ただのやんちゃじゃなくて格好いいグラフィックが多くて。

映画関係のデザインが面白いのは、リサーチするときに作品の内容によって全然違うので、新たな発見が多いことですね。パンクな作品であればそういった発見がありますし。

エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ(原題:Eighth Grade)のポスターに関しては、オリジナル版は自撮りしている写真でした。それを日本人にわかりやすくなるものを日本版のポスターでは作りました。

エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へは、映画自体が最高で、Youtuberが作った映画なんですよね。オバマ元大統領が毎年やっているベスト映画にも選出されていましたね。

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(左から大島依提亜さんver、オリジナルver)

オバマさん、映画めちゃくちゃ好きですよね。

オバマ元大統領はかなりのシネフィル(映画通、映画狂を意味するフランス語)ですよね。万引き家族とかThe Riderと同じ年にベスト映画に選出されていました。

監督のボー・バーナム(29)、若いんですよね。アリ・アスター(34)もそうですが新世代の人。実際この2人は仲良しらしいです。ボー・バーナムはYoutuber出身なのに映画的に正しい撮り方をする人で不思議なんです。アリ・アスターは映画学科出身なので分かるんですが。

ちなみにアリ・アスターは日本映画もめちゃくちゃ見ているらしいです。黒澤映画も好きだし、今村昌平さんとかも見ているし、鬼婆が好きだったり。

ー 恥ずかしながら、日本人ですけど見たこと無い作品ですね。

今村昌平さんとか、日本人でも知らない人が多いと思います。凄いクオリティだ!と褒めていました。今村昌平さんのある作品のタイトルがミッドサマーのネタバレになってしまうくらいです。

ちなみにアリ・アスターの短編ってYoutubeで全部見れるんですけど、ひどい短編なんですよ。よくこの人にA24は長編映画撮らせたな、と思います(笑)

ー 私も見ました。凄いですよね。The Strange Thing About the Johnsons。

The Strange Thing About the Johnsonsは近親モノ、しかもお父さんと息子、なんとお父さんの方が性的虐待を受けているというとんでもない映画。

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ヘレディタリー/継承を観たときに個人的には「なんてひどい映画だ」と思いました。それで今回のミッドサマーのお話をもらったときに、ああ、あの監督か!となりました(笑)

ミッドサマーの予告編を流しながら)あ、今のシーン。カメラが一瞬反対になる演出があったじゃないですか、それから俯瞰になるシーン。これはヘレディタリー/継承と共通していますね。撮影監督が同じということで似たやり方があったりします。

他にもあります、例えば食べ物のシーン。ミッドサマーに出てくる食べ物自体は美味しそうなのに、全然美味しくなさそうに撮ったりします。これはヘレディタリー/継承との共通点。食べ物を不味そうにするんではなくて、食べる人の行動で不味そうに見せるという。

あと予告編で足に草が生える一瞬のシーンがあるんですが、あれはトリップ/ドラッグシーン。あんまり見たことがないやり方ですね。村についたときにもてなされていい気分になるシーン。健全な草なんですけど。私はこのシーンをみて緑浴の体験を初めて映画でしたな、と思いました。ものすごく気持ちのいい体験。

ー 爽快感のある映画ですよね。

そうですね。ミッドサマーは形容詞が多い映画だと思いますが、本質はラブストーリーだと思います。彼の作品はギリギリのサブジャンルが続いているんですが、メインは家族ものだったり恋愛ものだったり。アリ・アスターは家族というテーマだけが克服できないと言っています。

ミッドサマーも信仰というテーマ。ヘレディタリー/継承も悪魔崇拝だし、信仰ですよね。違う信仰の人が一緒にいることが難しいというテーマだと思います。

ホラー映画っていうのは過去、倫理とかコード(規範)を踏み外していた経緯があると思っていて。アリ・アスターだけではなくジョーダン・ピールもそうなんですが、今のコードをギリギリ守りつつ、アクロバティックな事をやれる人たちですよね。
アリ・アスターは民族的なことなどをテーマとして考えているので、男女差とかそういったテーマはむしろ小さいじゃん、と考えているんだと思います。

ー A24の特徴だな、と思うことなどはありますか。

撮影の方法として、ハイキーだなと思います。明度高いですよね。ムーンライトとかもそうで、A24らしいな、と思う撮影スタイルがありそうですね、撮影監督はバラバラなんですけど。ヘレディタリー/継承も昼間のシーンに関しては明度が高いし、ハイライトがギリギリ飛ばないくらいにしている。
なんというのか、今っぽい写真と同じお洒落さですよね。お洒落でエモいのがA24。洒落ててクールなんだけど、エモいんです。

ミッドサマーは130分くらいと、少し長い映画なんですが、爽快感があって長さが問題にならない。

ー そして、しっかり感動しますよね。

しますね。叶わぬ恋をした全員に刺さると思います。また、アート性が高く、ホラー映画として見なくてもアート性が高い。そしてあらすじの大枠をとるとスラッシャー映画、グリーン・インフェルノ(原題:The Green Inferno)みたいな。崇高なモチーフにしているのが面白いですよね。

実はつい先程発表があったんですが、ミッドサマーのパンフレットが出来上がりました。実はこれ全ページを抜き型でやってるんです、印刷会社に無理を言って。ビリビリな感じになっています。今回作成させてもらったポスターの絵もパンフレットに載っています。

フォーマット作っていくなかでも、それぞれバラバラな紙なので不安でした。仕上がりが見えないし、1ページずつ検証もできない。終わってから「こうなったか」という感じでした。

ウソつけ!と言われるかも知れませんが、パンフレットではデザイン的に主張してやろう、という気持ちは全然ないんですよね。映画を見た人が「こういうのがほしい」と思うものだけを抽出しています。
例えば、ホラー映画をやるというのは、負のサービスなんですね。 不快さとかを「これほどまでに提供するか」という感じでやる。読み易さとか、見やすさを逆に考えるのはホラーの面白さ。
サスペリア(原題:Suspiria)という作品ではパンフレットの中まで真っ赤にして見たんですが、「見づらい」と言われてシュンとしてしまいました…。

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ー 会場から質問もらいましょう!

(質問者)「日本の洋画ポスターのデザインって、オリジナルと全然違う感じで、ダサくなってしまうイメージがあったんですが、大島さんのデザインは今までの日本の洋画ポスターとは全然違う。引き算のような感じ。制作にあたってのインスピレーションやキッカケがあれば教えてください。」

引き算と言ってくれてありがとうございます。映画のポスターにおける引き算というのは交渉なんですよね。

この話題、よくバズっていることも認識していて、一つ伝えておきたいことがあるんですが、配給会社も我々も決してお客さんを舐めているわけではないんです。どうやったら多くの人に見てもらえるかを真剣に考えています。凄い熟考しているし、プロセスを知っている身からすると侮っているわけではないんだよ、というフォローをさせてください。

とはいえ流石に「(情報やコピーを)入れ過ぎかも」と思うものは、どんどん交渉しています。私は各仕事でファイル名にナンバリングしているんですが、チラシ1枚に対するナンバリングは100を超えます。それくらい真剣に交渉している。実際、A24のポスターを作るときのプロセスでも、めちゃくちゃバリエーション作るし、中には「え、これ?」というものもある。

私自身、アートとデザイン、という分別は好きじゃないんですが、映画のポスターというのは1枚の絵画を作るわけではない。映画なので興行というところからスタートしているんですが、出来上がるもの自体はアート性があるという変なジャンルなんです、映画というのは。その歪さがある故の面白さもありますね。映画を売りたい、という気持ちとのジレンマの中で作っていることは面白いことだと思います。

あとは「日本のポスターはダサい!」と言っている人に知ってほしい話としては、実は海外からそういうオーダーを受けることもあるんだよ、ということを知ってほしいですね。日本側はクリエイティブにやろうとしても海外の配給会社から、そういう圧を受けることもあります。あくまでも興行なので。

(質問者)「本国のイメージを大事にされているとのことですが、ミッドサマーのポスターはヒグチユウコさんの方は主人公が出ているが、大島さんの方は出ていない。そこは相談とかされたんですか。」

何度かコミュニケーションはとっています。サスペリアの時もそうでしたが、ちゃんと対になるようにしたいな、と思っています。

ー そういえば、主人公の女の子よりも妙に気になる女の子が出てくるのも面白いですよね。

確かに。ミッドサマーもその視点で見ると面白いと思います。

(Talk session 03 - A24最新作『ミッドサマー』とは!?はここまで)

あとがき

とても長くなってしまいましたが、以上が「What is A24 ? 新進気鋭の映画会社"A24"を語ろう!」に参加した際のメモです。
今回のイベントでは、A24の過去作品への人気投票やA24関係グッズ争奪ゲーム大会などもあり、A24愛に溢れたとても素敵なイベントでした。CINEMOREさん、ありがとうございました!


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