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【2020 J1 第26節】湘南ベルマーレvs横浜F・マリノス マッチレビュー

1.はじめに

 中7日を空けての試合。今までやってきたことを整理すると共に、新しいことにチャレンジもできますよね。そんな中でお披露目されたのは、懐かしのマルコス偽9番。昨季だとアウェイ浦和戦から見られたものでしたよね。そのシステムがどうなったかを中心に見ていきましょう。

2.スタメン

スタメン

■湘南ベルマーレ

3-5-2の布陣
・前節と同じ先発メンバー
・負傷離脱していた坂と松田天馬がベンチ入り

■横浜F・マリノス

4-3-3の布陣
・最前線にマルコスが入る
・負傷離脱していた仲川がベンチ入り

3.偽9番マルコス

 この試合最大の焦点は、マルコスを最前線に据えた偽9番でしょう。これが生み出すメリットとデメリットについて見ていきます。

■縦にズレを作る

マルコス偽9番

【POINT】
マルコスが下がって守備基準を失くしたところ、中盤が飛び出して強襲

 マルコスは最前線に張るのではなく、頻繁に下がってボールへ関与していました。最初の位置こそフォワードですが、振る舞いはいつものトップ下と同じ。この動きで湘南選手たちの守備基準を失くします。手持無沙汰になったところ、入れ替わりでインサイドハーフの選手が上がってくる。天野が1対1になったシーンは特徴的でした。また、和田が最前線に入ることで、バイタルにマルコスを浮かせることも。クロスバーに直撃したシュートを放ったのは、こうしたことで空間ができたからです。

マルコス偽9番活用

 この試合、ウイングは頑なに外に開いて高い位置を取りました。この動きにより、相手ウイングバックを留める。マルコスとインサイドハーフが入れ替わることによって、中央3バックに対して縦ズレを作り出します。そこにインサイドハーフが入ってゴールへ迫る。こんなことを狙いにしていたのではないでしょうか。

 ただ、これって最前線がサントスでも似たような形になるんですよね。彼よくボールもらいに下がってきますし。それをやらなかったのは、サントスのコンディションが整っていなかった。または、ACLを見据えてマルコスやエリキの立ち位置を試したかった。などが考えられます。ボスの真意はどこにあったんでしょうね。オナイウもサントスも不調で、苦肉の策として用いた可能性はありますが…

■中に誰もいませんよ

偽9番活用なし

【POINT】
マルコスが空けた箇所に誰も入らないとシュートを撃つ人がいなくなる

 本来の持ち場を離れる偽9番は、代わりに誰かが入らないと前線のリソースが補完されません。マルコスが離れることと、誰かがそこに入ることは必ずセットになる必要があります。しかしこれを怠ると、中央に誰もいない状態。ゴールに近いところへ選手がいないのは、相手からすると怖くないですよね。

 また、『空ける→入る』という手間をかけるため、攻撃に時間がかかることもポイントです。どうしても遅攻のような形になりがちなので、丁寧に湘南のブロックを崩すことになります。遅攻で崩せるほどマリノスの連携は自動化されていませんでした。これが前半苦戦した要因の1つでしょう。

4.攻守の切り替えを遅くしたい湘南

■相手の素早い展開を遅らせる

湘南テンポ2

【POINT】
素早く縦へ展開させないことで、攻→守への時間を長くする

 相手にボールを奪われたとき、湘南の選手たちは素早くマリノス選手たちに寄せていきます。これを前線の5人が行うことで、後方の5人が守備準備する時間を創出。なるべく後ろへ下げさせ、縦に速い展開を抑えようとします。

 指宿にボールを入れることが多かった湘南。セカンドボールが拾えるかどうかに関わらず、ボールへの寄せは非常に素早かったです。これはターゲットを指宿に絞ったため、皆が同じ認識を持てたからでしょう。地上も空中もデュエル数が10を越えていたのがその証左だと思います。

■自分たちが攻める速度を抑える

湘南テンポ

【POINT】
すぐ前へ展開せずに繋ぐことで、守→攻の時間を稼ぐ

 攻撃においては、自分たちがボールを奪ってすぐマリノス守備陣の背後へポカーンと蹴るようなことはあまりしませんでした。危なくない範疇で繋ぐことを選択。こうすることで、味方が押し上げる時間を稼ぎます。

 相手に奪われたとき、前線の5人ですぐ追いかけたい。そのためには、味方選手が高い位置に上がげる必要がある。また相手から奪ったときは、ある程度後ろで繋いで時間を稼ぎたい。なので後方に人数を揃えてから守備をする。つまり、攻撃と守備のやりたいことを整えるため、切り替えに長めの時間を使っていたのです。これこそ湘南が準備してきたマリノス対策だったのでしょう。

■マリノス対策として準備してきた

 浮嶋監督の試合後コメントより抜粋。

 今日の勝利については、(中10日の試合間隔が空いたことで)今季初めて5日間練習することができた。われわれは相手の対応も含めて、自分たちのやるべきことをしっかりトレーニングして、試合に臨むことが大事だなとあらためて思いました。

 この試合にむけて、マリノス対策を講じていたことが伺えます。それは攻守の切り替え時間を長くすることでした。もう少し踏み込んで言うと、それぞれの陣地にボールが行き来する回数を少なくしたかった、ということになります。

 今のマリノスは攻守の切り替えを早くし、相手が整う前に攻め切ることを得意にしています。これは敵陣と自陣で頻繁にボールが行き来する形。いわゆるオープン展開を好んでいるということになります。能動的に崩すより、既に崩れた状態で攻略したいからですね。

 しかし、この試合は素早くボールが行き来しません。ボールを奪ったが、前へ素早く展開できない。ボールを奪われたが、相手がすぐに攻めてこない。このテンポだとマリノスらしさが出ません。これだけ期間があれば、相手への精緻な対策を表現できる。浮嶋監督はそういう方なのだと感じました。

5.自らをオープンにして

 後半開始からサントスと大然を投入。思ったより試合のテンポが上がらないため、自らがオープンになることを選択しました。

 今夜のピッチはいつもよりも少し狭かったように思います。前半はチャンスを作れませんでしたが、後半はダイナミックな展開を生み出しました。

 ボスの試合後コメントからもそういった意図が伺えます。この変化について見ていきましょう。

■縦への速さを追求して

縦に早い攻撃

【POINT】
相手の攻撃が終わってすぐに前へ展開することで、戻り切る前に攻撃する

 縦への最速メンバーを揃えたことで、何回か惜しいシーンを作ることができました。いずれも相手の攻撃が終わった瞬間、すぐに前へ繋げられたとき。相手が整う前に攻撃することで、崩す手間を省きます。

 ただ、これを行うには相手がマリノス陣深くまで攻撃することが必須。湘南の攻撃する機会が減るほど、こちらが遅攻を仕掛ける回数が増えていきます。そうなるのは湘南が守備固めするときですよね。なので、相手に先制点を与えると辛い展開になることが予想されました。そして、くしくもそのような形に…

 そして、先に決められてしまうと、守備的なチームがもっと守備的になります。スペースがなくなり、どうスペースを作っていくかというところでしたが、ネットを揺らすことができませんでした。やはり先に点を取らないと何も始まらないということです。

 ボスも言及していました。0-0で試合が運んでいたのなら、湘南はどこかのタイミングで攻勢をかける必要があります。そうなると、今まで遅くしていた試合展開を早めなければいけません。しかし、それはマリノスも本領を発揮できる状況です。チャンスが訪れるとしたらこの時だったでしょう。しかし先制点を与えたことで、湘南がリスクを負う必要がなくなります。サッカーの4局面サイクルを遅くしたいので、自身が攻撃を受け続けることも想定内だったはず。マリノスにとって難しい試合になってしまいました。

■プレースピードを上げて、試合のサイクルを早める

 固い相手を崩せなかったのは仕方ないと思います。海外のビッグクラブも人海戦術守備には手を焼いてますしね。なので、この試合は先制点を奪えなかったことを悔やむべきだと思います。

 では、どうすればよかったのか。個人的には、遅い試合サイクルを能動的に早めればよかったと思います。相手からボールを奪ったら、すぐ縦へ展開する。ボールを奪われたら、素早くボールホルダーに寄せる。ボールが早く動く状況を何としてでも作り出す。これが重要だったでしょう。

 素早い攻撃はできていましたが、素早い守備はどうだったでしょう。ボールホルダーに近い人が遮二無二走って追いかける。別にこちらの陣形がぐちゃぐちゃになっても構いません。それ以上に相手をぐちゃぐちゃにできていれば、カウンターが決まりやすくなるでしょう。この考え方はストーミングに近いですよね。元々マリノスはポジションレスなサッカーを志向しているので、おあつらえ向きだと思います。

 遅攻は一朝一夕には成りませんが、このやり方は全員が意識を揃えるだけでできます。後先考えず常にフルスロットル。今季の異常な日程だとできる回数は限られますが、チャレンジする価値はあるはずです。

6.スタッツ

マッチレポート - J1レポート note用-1

■sofascore

■SPAIA

■トラッキングデータ

7.おわりに

 自分たちのストロングであるスピードが出なかったというのはすごく感じています。湘南はそのような対策をしてくるチームですし、どう5枚を崩していくかが大事でした。3人のトライアングルで崩さないといけなかったのですが、なかなかそういったシーンを作れませんでした。どこから入るのかの共通認識を試合中にオーガナイズできなかったことも課題だと感じています。

 小池の試合後コメントです。やはり、スピードが出なかったことを実感していたようです。自分も見返すとき、倍速で見るとちょうどいいって感じましたよ…

 また、スペースの共通認識についても言及しています。これって遅攻はもちろんなのですが、速攻にも同じことが言えますよね。誰がどこを使うかの認識を早めることは、試合サイクルの速度上昇にも繋がります。この課題について、みんなで話し合っていたら嬉しいですよね。

 さて、また連戦が再開されました。次は中2日で浦和。そこから中3日でフロンターレです。それぞれ手強い相手ですが、選手やボスはどのようなサッカーを見せてくれるでしょうか。

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