しおのおし 番外編 夢の端々1話感想・考察

あまりにも好きで、きもいほど人に勧めている「夢の端々」。喜代子とミツの出会いから死を描くには2巻という巻数はあまりにも短すぎる。もっと描いてほしいと思う一方、大変考察しがいのある作品なので、各話ごとに考察してみる。ちなみに夢の端々にはサブタイトルはないので、個人的サブタイトルも考えてみる。

表紙について

1話目の表紙は最終話の「きれいな空」で黄昏ている喜代子とミツ。ミツは空を見上げて足を延ばし、リラックスしているように見えるが、喜代子は三角座りでうつむいていて現世にみれんがあるように見える。生きるよすがだった娘の存在の有無から態度が違ってるのかも

内容考察・感想

喜代子(85歳)は認知症を患い、文字が欠けて見え、記憶も欠け家族の顔も分からなくなる状態。そんな状態でも訪れたミツのことは認知していて2人の特別な関係性がうかがえるシーン。生まれた時期や記憶を失うことを悲観する喜代子に対してミツは喜代子の状態やこれまでの人生を肯定する。記憶に関しては「昨日今日のことは忘れても昔の記憶はずっと残ってるってよく言うじゃない。きよちゃんの家族よりも私との時間のほうがずっと長い。(中略)そうだとしたらこれ以上ない名誉だわ」当時公務員試験でレミニセンス・バンプを学んでいたこともあって思い出深いシーン。2人は共に心中未遂をした関係で、喜代子の家族はほぼデキ婚で熟年離婚をした関係だからこそ「1番最後に残るのはきっと私との思い出」と断言できたように見える。最終話の小指の話も同じくだが、ミツは失ったものを肯定してくれる。ほとんどの場合、「喪失」は悲しい体験だ。喜代子は実際記憶を失うことで現状を悲観している。そんな体験すらも肯定してくれるミツの存在が喜代子にとってどれほど心強がっただろうか。初めて読んだときは「助けられてきた」のは喜代子だと思ったが、2人の出会いを知ってからだとミツが話しているようにも見える。このセリフは吹き出しがないのが憎いが、このように想像の余地を残した描写が多いところがこの作品の魅力だと思う。そして2人の印象的な記憶が夢となって表れたシーンを描写しているからこの作品は「夢の端々」なのだと思う。これ以上ない、作品を表した素晴らしいタイトルだ。

人を肯定するのってだるい。肯定的な言葉は世間体がよいから口にすることが多いけど、大抵本音じゃない。でもミツの言葉は「嘘のない目」で力強くて裏表を感じない。親の言いなりの結婚から「助けられた」から感謝していて、喜代子の魅力を知っているからこそ力強く、世間体というよりも相手を想って言葉を返しているのが分かる。結婚相手を「若葉を食いあさる獣」と例える力強さがあった喜代子が仕事の挫折でしおらしくなった様子が悲しくてミツは元気づけるために励ましていたんじゃないだろうか。

残念ながら次の日の朝にミツは事故死する。まだ次の日で良かった。もし喜代子に出会ったあとに事故に遭っていたら、「自分に会いに来たからみっちゃんは亡くなった」と余計苦しむことになりそうだから。
以上をふまえて#1のタイトルは記憶や大事な人がなくなることから「喪失」かなあ。たった1話でも過去の話を何度も読み返しながら考察したので疲れた。本当に味わい深い作品だ。

疑問点

表紙の花の種類
喜代子はなぜ小指の本を手に取ったのか
「あなたの嘘のない目に~」の話者

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?