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九井諒子はすごい

 初投稿 新年度が始まりましたが, コロナの影響で出会いもクソもなく, 語り合う相手もまともにいません そこで, 同作者のダンジョン飯が大変面白く, 軽い気持ちで手を出したショートショート集についてご紹介します 

 3冊で50作品ほど (ひきだしにテラリウムは1作品毎のp数は少ない) ありますが, いずれの作品でも導入がユニークかつ独特なので, 飽きませんでした 全体的な雰囲気としては竜や人魚といった空想上の生き物がよく出てきます しかし, よくある位置づけとは異なることが多く, 特に多いものは「現代社会に存在したらどうなるか?」という観点から話が展開されます (ex. ケンタウロス, 人魚, 竜, 天使)  さすがにすべては紹介しきれないのと, 是非手に取って読んでもらいたいので, 写真にある3冊の中から個人的に面白かった5作品について紹介します

第5位 狼は嘘をつかない (竜のかわいい7つの子より)

3冊通して, 全体的にダンジョン飯と似た画風ですが, 九井諒子さんは書き分けが大変上手です その点がこの漫画では強調されます 最初は育児の片手間でとある母親が, わが子のもつ稀有な病についての紹介から始まり, 中盤からダンジョン飯と似た画風で描かれています この病がオリジナルの狼男症候群といい, 一定の周期で外見や行動が大きく変化するものを指します この変化が表れる時期を「充電期」といい, 本人曰く泥酔した状態になるようです 「おおかみこどもの雨と雪」の場合はコントロールできていたので似ているようで違いますね 中盤から視点は成長し, 大学生となったその子がいまだに多く困難を抱えており, 母親に対して「ルポ漫画書いてアピールするな」と激昂するコマがあります ここで, 読者は実際にそのルポ漫画を序盤に読んでいるため, 説得力が高く, 漫画でしかできないであろう表現に感動しました

第4位 帰郷 (竜の学校は山の上より) 

魔王を倒した勇者が故郷に帰郷し, これからの自分の人生を憂う話 筆者はRPGが大好きで, 魔王を倒したときは大きな達成感を得ていたが, あまり見かけられない倒したその先を描いてくれた作品なので選出 この勇者は魔王という人類共通の敵を失ったことで, 人類同士の戦争に巻き込まれること, 王の望みで思い人のいる王女と結婚させられること (多分政略結婚) を嘆きます 対立するグループを仲良くするには共通の目標を見つけると良いと社会心理学で学びましたが, その逆もまた真なのではないかと考えさせてくれる作品でした コロナが収束したとき, 国単位の面倒な問題には発展しないでほしい…

第3位 春陽 (ひきだしにテラリウムより)

人間がペットとして飼われている世界の話 人間とのサイズの違いから, 多分この世界は人間よりもかなり大きな巨人が牛耳っているようで寿命が人間よりもかなり長い ちなみにこの人間は言語能力がないからか, 複雑な感情は持たず, 実際の人間ほど扱いが面倒ではないようです これらのことから, 現実の人間と犬や猫の関係に近いものを築いているんじゃないかと 筆者は人間の残酷な面をこれでもかと描写した藤子不二雄のSFが大好きなので, この人間は殺処分でもされるんじゃないかと思いましたがそんなことはなく ただただ巨人と人間のおだやかな日々を描いています 個人的にもし猿とかじゃなくて小人が目の前に現れたらどんな関係になるかは気になるところ ペットにはならなくても, 単純な力関係から人間上位の関係にはなるんだろうなー

第2位 ショートショートの主人公 (ひきだしにテラリウムより)

この主人公はうまれながらにショートショートの主人公と自覚しており,  ショートショートにありがちな, ひょんな「オチ」で死ぬことがないよう, 父親から生活は厳しく管理される…というお話 この作品も書き分けが上手であることが説得力につながっています さらに九井諒子さんのページの使い分けの上手さも際立つ作品です 

第1位 パラドックス殺人事件 (ひきだしにテラリウムより)

ある男性が恋人を失い, この世界を作った神を憎む…というシーンの撮影中に, その男性が突然走り出し, 脚本家を殺したという事件の犯人は誰なのか協議される話 検事側は「神である脚本家が死ねば劇中自体存在しないこととなり, 犯行動機にパラドックスが生じている」弁護側は「映画製作には大勢の人間が関わっている つまり劇中世界は多神教であり…」などやりとりしているさまがくだらなくて1番好きな作品 着眼点がすばらしい

筆者は「ひきだしにテラリウム」から読み, 序盤の話から「星新一と似ている」と思いましたが, 竜や神をふんだんに取り入れる作風は九井諒子さん独特のものと認識を改めました 昨今の漫画はこういったショートショートがあまり見られませんが, 独特の切り口や, 考察の余地を残す幕引きは他にない魅力だと思います 正直ほとんどの作品が好き






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