バニラヨーグルトと私

物心ついたくらいの年齢によく食べていたヨーグルトのことを、今でも覚えている。

昔、祖母の家の近くには移動販売のトラックが巡回していた。豆腐やがんもどき、納豆などを購入していたから豆腐屋だったのだろう。

トラックの荷台には、他にも瓶の牛乳やお菓子なども並んでいて、私が遊びに行く日には一緒におやつを買って待っていてくれた。
そこで買ってきてもらうヨーグルトが好きだった。

小さな容器に入ったヨーグルトは、まだハンバーガーをまるまる一個食べられなかった未就学児にもちょうどよい量で、何よりもつるんとした触感と甘くてやさしい味わいが私を虜にした。

時代の流れか、いつの間にかトラックは来なくなってしまったし、祖母にももう会えなくなってしまったけれど、優しかった祖母の思い出と相まって豆腐屋のヨーグルトは記憶の中に強く残っているのだ。


思えば、ヨーグルトの話をする機会というものがなかった。
例えばアイスだったら「ひとつ頂戴と言われて許せるのはどのアイスまでか」などという議論を一度は耳にしたことがあると思うが、ヨーグルトは聞かない。
他のデザートに比べて種類が少ないことや、シェアしにくい食べ物であることも話題にあがりにくい要因のひとつなのかもしれない。

「アイスで何が一番好き?」と聞かれたとき、あなたならば何と答えるだろうか。
そしてその後「ヨーグルトの中で何が一番好き?」と聞かれたとき、あなたは同じ熱量で好きなヨーグルトをあげることができるだろうか。

私はできる。アイスクリームはNO.1がその時によって変わるのだが、マイベストヨーグルトは決して揺らぐことがない。

「バニラヨーグルト」を知っているだろうか。
いや、知らなくてもいい、これから覚えていただければそれで……。
とにかく、私はバニラヨーグルトが好きだ。

「そんなこと言って、なんかキャンペーンとかやってるから媚びてるんじゃないの?」というご意見もあるかもしれないので、念のため、私が過去にバニラヨーグルトへの溢れんばかりの想いを思わず吐露したときのスクリーンショットを載せておきます。

お分かりいただけただろうか



バニラヨーグルトは、「日本ルナ」というメーカーから販売されている、甘くてぽったりとした口触りが何ともたまらないヨーグルトだ。
これまたぽってりとした壺のような小さな容器に入っており、3個入りで販売されていることが多い。
恐らく、家族で仲良く食べられるように3個入りになっているのだと思うが、私は誰かに分け与えられた試しがない。気付いたときにはすべて空き容器になっているので……。
(こんな卑しい人間がいることを知ったら日本ルナさんは悲しむかもしれない)

バニラヨーグルトとの出会いは、小学生の時だった。
少なくとも私はそう認識していた。

電車に乗って学校に通っていたのだが、当時はまだ小学生が携帯を持たせてもらえる時代ではなかったので、行き帰りは本を読むか、電車内の広告を眺めて時間を潰していた。その日、本は読み終えてしまい、車窓から眺める景色にもだいぶ飽きていた私は、ドア窓に貼られていたステッカーを眺めることにした。
それが、バニラヨーグルトの広告だったのだ。『バニラヨーグルトの3つの秘密』といった感じの、なかなかに説明的なステッカーだったと記憶している。
生クリームが入っていて、酸味がない。まろやかでコクがある。そういったことが、やさしい文体で、丁寧に書かれていた。読んでいくほどに、私は生クリーム入りのデザートのような、甘いヨーグルトという存在に心を奪われていった。
食べたい。食べてみたい。だって、そんなの絶対美味しいに決まってる。

家に帰ってすぐ、「バニラヨーグルトというものを食べてみたい」とおねだりをした。イケてるクラスメイトに進●ゼミを勧められたときの子どものようなテンションだったと思う。

数日後、冷蔵庫にはバニラヨーグルトが入っていた。広告で見たものと同じものだった。

こんなにすぐ食べることができるなんていいのかしら。
はやる気持ちを抑えながら、ピリピリと銀紙の蓋をめくる。小さな容器の中には、みっちりと白いヨーグルトが入っていた。スプーンで表面を数回なでてから、スッとすくう。小さなスプーンにぽってりと乗ったヨーグルトを、ドキドキしながら口に含んだ。やさしい冷たさととろけるような甘さが、じんわりと舌に広がっていく。どこか懐かしい味わいだった。
これだ、と思った。広告を見ながら想像したあの時の味そのものだ。夢中で食べた。スプーンですくうたびに、容器にあたってカシュっと音が鳴るのだって心地が良かった。

本当のことを言うと、昔はヨーグルトが苦手だった。
「栄養があるのだから食べなさい」と毎朝出されるプレーンヨーグルトは舌を刺すような酸味があって、はちみつやジャムを混ぜてもそれは決して消えることがなかった。食べた瞬間、鼻から抜ける匂いも嫌だったのだ。
バニラヨーグルトが、それをすべて覆した。約10年、人生の転機でもあった。

そこから私はバニラヨーグルトを食べ続けた。別れの季節も、出会いの季節も、部活をはじめたときも、試合の結果に涙したときも、定期試験の勉強のときも、受験の時も、入社1週間目で会社に泊まることになったときも、風邪をひいたときも、健やかなるときも、バニラヨーグルトが常に私のそばにいてくれた。
私の人生はバニラヨーグルトと、ニチレイの本格炒め炒飯で構成されているといっても過言ではない。(突然炒飯が登場して驚かれたと思いますが、この2つの食べ物だけは幼少期から食べ続けても全く飽きないのです)


大人になって、自分でバニラヨーグルトを買うようになった。3個一気に食べていたのを、理性で何とか2個までで止めることもできるようになった。

冷蔵庫をあけた母が、ひとつだけ残されたバニラヨーグルトを見て、「これ好きだねぇ」と言う。
私は2つのバニラヨーグルトを食べたあとでとても気分が高揚していたので、「私はとてもバニラヨーグルトが好きだ」というようなことを繰り返しながら、ふと「おばあちゃんが昔買ってくれた豆腐屋のヨーグルトに似ているのも好きな理由かもしれない」と話した。

小さな容器、甘くてなめらかなヨーグルト。買っておいたよ、と笑う祖母のやさしい表情。
はじめてバニラヨーグルトを食べたとき、懐かしいと感じたのは確かにあの豆腐屋のヨーグルトの記憶があったからだ。

今まで、もうないものは仕方ないと諦めていたが、母ならあのヨーグルトがどんなものだったか覚えているかもしれない。
ふと思いついてそんな話をしてみる気になった。

もうオチは読めたと思う。
母は言った。「似てるも何も、あれはバニラヨーグルトだったよ」と。

何故だろう、私はずっとあれを豆腐屋のオリジナルヨーグルトだと思っていた。
HPで検索すると、バニラヨーグルトは1993年販売となっていた。計算は、合う。
そういえば容器の形状も味も、スプーンが当たった時のカシュッという音も、あまりにも似すぎている気がしてきた。というか、同じなのだろう。母がそう言ってるのだから。

バニラヨーグルトとの縁は、自分が思っていたよりずっと深かったのだ。
もっと早く気付かなかったものかと思いながら食べた3つ目のバニラヨーグルトは、やっぱり未就学児だった頃食べたときと同じ味がした。


追記

バニラヨーグルトを水切りするとレアチーズケーキみたいになっておいしいのでおすすめです(公式おすすめレシピ)

お茶パックで水切りしたバニラヨーグルトの図


ビアードパパコラボのバニラヨーグルトクリームシュー、ハイクオリティでたまげました。
本当にバニラヨーグルトのシュークリーム(こっちもチーズケーキのようなおいしさ)

クリームがしっかり甘いのでクッキーシューよりパイシューがおすすめ。また来年も食べたいです


日本ルナさんへ
メガバニラヨーグルトを食べるのが夢です。商品化よろしくお願いいたします。


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