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グルテンフリーのデメリット(2/2)

こんにちは。
前回に続いて、グルテンフリーのデメリットについて科学的に検証していきます。2回目の今日は、③~⑧です。

デメリット2

グルテンフリーで太るというのは、事実誤認

健康な人がグルテンフリーの食生活に変え、市販のグルテンフリー食品を食べるようになると、ビタミンB群や食物繊維が不足して太る可能性がある、という考えは、欧米ではおおむね受け入れられています。

前回のブログでも説明しましたが、海外の小麦には、微量栄養素としてカルシウム、鉄、ナイアシン(ビタミンB1)、チアミン(ビタミンB3)が添加されている場合があります。またアメリカなどでは、微量栄養素や食物繊維を多く含む全粒粉の消費を推奨しています。一方で、代替のグルテンフリー食品で使われる米粉やトウモロコシ粉には、微量栄養素や食物繊維は添加されていません。また代替食品は、小麦粉を使わずに元の食品に似た味、食感を出すため、糖質、脂質、食品添加物を多く含む一方で、たんぱく質が少ないことが、研究によりわかっています。
ですから、元の食品をグルテンフリー食品で置き換えた場合、食物繊維の摂取量が減り、糖質、脂質の摂取量が増えるため、太る可能性があるというのは、科学的に正しいと考えます。

繰り返しになりますが、海外の論文や記事に書かれているのは、欧米の食生活の中で、市販のグルテンフリー食品に置き換えた場合、ビタミンB群や食物繊維が不足して太る可能性があるということです。日本と欧米では、もともと食べているものが違います。それに日本でグルテンフリーにしたとき、海外と同じ代替食品を食べることはまずありません。したがって、海外の論文や記事を引き合いに出して、日本人に対して、グルテンフリーにすると太る可能性がありますよと言うのは、全く筋が通りません。

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一方で、みなさんよくご存じのように、グルテンフリーはダイエット法として広がっており、グルテンフリーの食生活に変えることで痩せる可能性もあり、実際に痩せたという報告も多数あります。この事実を無視して、グルテンフリーは太る可能性があるというのは、全く意味がわかりません。

2型糖尿病のリスクも、冠動脈疾患のリスクも同じ理屈

2型糖尿病とは、血糖値を下げるインスリンが分泌されているにもかかわらず、その働きが悪くて血糖値が下がらない、あるいはインスリンの分泌量が減ることで、血糖値が高い状態が継続する病気で、食べ過ぎや飲み過ぎ、運動不足と遺伝的な要因(体質)が関係して発症するといわれています。日本の雑誌にグルテンフリーが2型糖尿病のリスクを増加させるという記事が載っていましたが、この根拠になっているのが、アメリカ心臓協会(American Heart Association)のウェブサイトに掲載されたニュースリリース¹⁾です。内容は次の通りです。

・アメリカで実施された3つの長期健康研究A、B、Cから、これに参加した約20万人の1日あたりのグルテン摂取量を推定したところ、Aで5.8 g /日、Bで6.8 g /日、Cで7.1 g /日であり、主要な食事源はパスタ、シリアル、ピザ、マフィン、プレッツェル、パンだった。
・ほとんどの人のグルテン摂取量は12g/日未満で、その中でグルテン摂取量の多い20%の人は、グルテンの摂取量が4 g/日未満の人に比べて、2型糖尿病を発症した人が13%少なかった。
・グルテンの摂取量が少ない人は、2型糖尿病発症の保護因子として知られている穀物繊維の摂取量が少なくなる傾向があった。
・グルテン摂取量は自主申告によるもので、研究は観察によるものなので、別の調査による確認が必要。
・この研究はグルテンフリー食が普及する前に行われたため。グルテンフリー実施者からのデータはない。

この発表を行ったGeng Zong氏は、同じテーマで医学論文も出しており²⁾、こちらもほぼ同じ内容でした。

整理すると、市販のグルテンフリー食品を摂ると、食物繊維の摂取量が減るために、2型糖尿病になるリスクが高くなるということです。アメリカでは食物繊維の多い全粒粉の使用が推奨されていますが、日本で消費されている小麦を使った食品には、食物繊維はほとんど含まれていません。したがって、グルテンフリーにしても、食物繊維の摂取量は減らないので、2型糖尿病になるリスクが上がることはありません。

冠動脈疾患のリスクが増加するというのも、同じ理屈です。冠動脈は、心臓に酸素やエネルギーを供給するための動脈です。また冠動脈疾患とはコレステロールなどが冠動脈の内壁に沈着することで、冠動脈を流れる血液量が減少して起こる、狭心症や心筋梗塞の総称です。食物繊維を多く摂取すると、冠動脈疾患のリスクが低下することがわかっています。
グルテンフリー食品が冠動脈疾患のリスクを増加させるというのは、市販のグルテンフリー食品に変えることで、食物繊維の摂取量が減るのが理由です。

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日本の雑誌に載っていた記事には「セリアック病でない人がグルテンフリーを実践しても、全粒粉摂取量の低下によりむしろリスクを増やす可能性がある」と書かれています。これは医師が執筆しているものです。でも日本人はもともと全粒粉をそれほど食べていません。したがって、グルテンフリーにしたところで、食物繊維の摂取量が減るわけではないので、冠動脈疾患のリスクは上がることはありません。引用している論文³⁾に、グルテンを避けると、有益な全粒穀物の消費量が減少し、心血管リスクに影響を与える可能性があると書いてあるのを、何も考えずに引用したようです。

グルテンフリーが腸内の健康状態を悪くしてしまうというのは、何の根拠もない

グルテンフリーにすると腸内の健康状態が悪化するというのも、2型糖尿病、冠動脈疾患と同じ医師が書いているのですが、この原稿を書いた医師本人が、「(研究の)対象人数が非常に少ないため、説得力が強いとは決して言えません」と但し書きをしています。そんなに自信がないのなら、なぜこんなことを取り上げたのか、疑問に思います。
グルテンフリーの食事と腸内細菌の関係については、いくつか論文が出ていますが、2018年に執筆された論文⁴⁾では、ある結果から何らかの結論を導き出すことはできないと結論付けています。この医師が引用した論文は2009年の論文⁵⁾で、被験者はたったの10人です。そのあとさまざまな研究が行われているにもかかわらず、新しい論文を無視して「説得力が強いとは決して言えない」2009年の論文⁵⁾を引き合いに出して、自説を述べるというのは、科学者としてどうなんでしょうか。
なお、グルテンフリーと腸内細菌の問題については、別の機会に説明したいと思います。

健康でない人が多いから、グルテンフリーを試すことを勧めている

「健康な人にはグルテンフリーは意味がない。」「グルテンフリーというのは、もともとグルテンが原因の自己免疫疾患であるセリアック病の人の治療食」というのは、事実です。
欧米では人口の1%がセリアック病であるといわれており⁶⁾、これらの人はグルテンを含まない食事を摂ることが、唯一の治療法です。そして「グルテンフリー」は、セリアック病の人が食べても安全な食品に対する表示です。

しかし、セリアック病の人だけが、グルテンによって影響を受けているわけではありません。最新の研究では、人口の6%の人がグルテンをはじめとした小麦に含まれる成分によって、体にさまざまな症状が出ることがわかってきました⁷⁾。
多くの人がさまざまな不調を抱えており、その原因がわからず、お薬で症状を緩和しているか、我慢している、というのが現状ではないでしょうか。グルテンがさまざまな症状と関係していることが研究の結果明らかになってきました。もしこれらの症状に心当たりがあるなら、ぜひグルテンフリーを試すことをお勧めします。

グルテンフリーの効果について未だ医学的な証明がないというのは全くのウソ

「グルテンフリーは腸内環境の改善をはじめ、体質改善やアレルギー症状の緩和などの効果があるといわれているが、このような健康効果は未だ医学的な証明がなく、全ての人に効果が出る確証はない」という文章をネット上で見つけました。医学的な証明がない、というのは、グルテンや関連物質について研究をしている世界中の研究者に対して、失礼です。

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わたしは自説を展開するうえで、根拠を示すことが重要と考えているので、このブログや関連するウェブサイトでは、できる限り出典を明記しています。それを見ていただければわかるように、たくさんの医学的証明があります。
またグルテンフリーが「すべての人に効果が出る確証はない」があるとも書いていますが、そんなことは当たり前です。すべての人に効果が出る確証のある薬、治療法など、どこにもありません。新型コロナウイルス感染症のワクチンだってそうです。すべての人に効果が出る確証がないからやらない、のならば、ワクチン接種もやめておけばよいと思います。

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ネット上の情報のいい加減さに辟易して、少し厳しい論調になってしまいました。
一人でも多くの方に、このブログに書いた内容を知ってもらいたいと、心から思っています。
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参考文献
1) Search News Releases, Low gluten diets may be associated with higher risk of type 2 diabetes, American Heart Association Meeting Report Presentation 11, Published: March 09, 2017
https://newsroom.heart.org/news/low-gluten-diets-may-be-associated-with-higher-risk-of-type-2-diabetes?preview=ee39
2) Geng Zong et. al,, Gluten intake and risk of type 2 diabetes in three large prospective cohort studies of US men and women, Diabetologia, 61 (10) 2164-2173 (2018)
3) Benjamin Lebwohl et. al., Long term gluten consumption in adults without celiac disease and risk of coronary heart disease: prospective cohort study, BMJ, 357, j1892 (2017)
4) Garcia-Mazcorro J.F. et. al., The effect of gluten-free diet on health and the gut microbiota cannot be extrapolated from one population to others, Nutrients, 10 (10) 1421 (2018)
5) Giada De Palma et. al., Effects of a gluten-free diet on gut microbiota and immune function in healthy adult human subjects, Br J Nutr, 102 (8) 1154-1160 (2009)
6) Benjamin Lebwohl et. al., Coeliac disease, Lancet, 391(10115) 70-81 (2018)
7) Jessica R et. al., Neurologic and Psychiatric Manifestations of Celiac Disease and Gluten Sensitivity, Psychiatr Q., 83 (1) 91-102 (2012)

まとめ

・グルテンフリーにすると、太る、2型糖尿病のリスクが増える、冠動脈疾患のリスクが増えるというのは、欧米のグルテンフリー食品が通常の食品に比べて、糖質、脂質が多く、食物繊維、微量栄養素が少ないというのが根拠。これは日本で行うグルテンフリーには当てはまらない。
・グルテンフリーが腸内の健康状態を悪くしてしまうというのは、古い不確かな論文に基づいている。
・さまざまな不調に悩んでいる人が多くいること、またその不調とグルテンとの間に因果関係があることが報告されていることから、症状に心当たりがあれば、グルテンフリーを試すことを勧めている。


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