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新型コロナウイルス感染症(Covid-19)と抜け毛・脱毛の関係

こんにちは。
今回はグルテンにもFODMAPにも関係ないのですが、新型コロナウイルス感染症(Covid-19)と抜け毛の関係について説明しようと思います。

この原稿を書いている2月8日現在、新規感染者数は減少傾向にありますが、10都府県に緊急事態宣言が発令されたままです。そのような中で、感染した人の後遺症に関する報道も増えてきました。ただその中身は、取材した人の体験談をそのまま流しているだけで、客観性はなく、単に不安を煽っているだけのような気がします。不安を煽ることで、感染抑止になればいいのですが、いまコロナと戦っている方にとっては、不安が増すだけです。
後遺症の中で、特に最近よく耳にするのは、抜け毛、脱毛の話です。そこで、抜け毛がどれくらいの割合で起こるのか、その原因は何なのかについて、海外の医学論文を読んだ結果を紹介したいと思います。

アメリカ国立衛生研究所(NIH)のアメリカ国立医学図書館が運営している医学文献データベースPubMedで、”hair loss(抜け毛)”、”Covid-19”というキーワードで検索したところ、61件の論文が見つかりました。いずれも2020年以降に発行されたもので、最新のものは2021年1月です。関係がありそうな論文の要約に目を通し、さらに1/3については全文を読みました。感染が始まってから1年数か月しか経っておらず、お医者さんは対応に精いっぱいであったことから、統計的に整理された症例が少なく、比較研究も十分ではないのですが、だいたい次のようなことがわかっています。

Covid-19で起きる抜け毛にはいくつか種類がありそう

①ストレス、体調悪化などがきっかけで起きる円形脱毛症

円形脱毛症は、自分のTリンパ球が成長期の毛根を異物と間違えて攻撃する自己免疫疾患です。免疫攻撃はヘアサイクルの周期を混乱させ、健康な毛が突然抜け落ち、局所的に十円玉くらいの大きさの脱毛が起きます。どのようにしてこの自己免疫疾患が起きるのか、はっきりとはわかっていませんが、遺伝的素因があることはほぼ間違いなく、これにストレス、感染症やそれに伴う体調悪化が関係して発症するのではないかと考えられています。

②栄養不足に伴う休止期脱毛

感染やステイホーム、失業などによるストレスによって交感神経が優位になり、血管が収縮して毛母細胞に十分な栄養が届かなくなります。また闘病中の栄養吸収阻害や、ステイホームによる偏食によっても、毛母細胞は必要な栄養を得られなくなります。その結果、もともと成長期にあった髪の成長が止まって、休止期に入ってしまいます。休止期に入った髪は伸びることはなく、脱毛期に移行して抜けてしまいます。

③薬の副作用による脱毛

Covis-19の治療にはさまざまな薬剤が使用されますが、抗ウイルス薬のリバビリン、インターフェロン、抗マラリア薬のクロロキンやヒドロキシクロロキン、抗痛風薬であるコルヒチンは、その副作用で脱毛が起きることが知られています。またチェックポイント阻害剤や、静脈内免疫グロブリン治療も、脱毛を伴うことがわかっています。

④過度の炎症反応のための脱毛

Covid-19に感染すると、ウイルスを除去するために体内で炎症反応が起き、成長期に脱毛が起きる考えられています。

⑤男性型脱毛症

男性型脱毛症はAGA(Androgenetic Alopecia)とも言われます。最近、テレビCMでもよく見かけますよね。このタイプの脱毛症は男性ホルモンの一種テストステロンが、頭皮に存在する酵素の作用でジヒドロテストステロン(DHT)に変換され、DHTは毛乳頭にあるホルモンレセプターと結合して、脱毛因子TGF-βが生産されることで起きることがわかっています。脱毛因子TGF-βが増加すると、毛母細胞の活動が停止し、退行期から休止期へと移行するので、髪が成長する前に抜け落ちてしまいます。その結果、細く短い毛が多くなり、地肌が見えるようになります。Covid-19との関係については、最後に説明します。

脱毛が起きる時期とその頻度

最初に述べたように症例や報告が少ないため、確定的なことは言えないのですが、日本の国立国際医療研究センターの研究者らが出した論文¹⁾の内容について紹介します。この論文は、Covid-19で入院し、退院した人に対して、電話で聞き取り調査をした結果をまとめています。それによると、

・Covid-19の患者で退院後、追跡できた人の26%で脱毛症が見られた。
・これらの人について、Covid-19症状の発症から脱毛症の出現までの期間は平均58.6日
・追跡調査の時点で脱毛症が完治していた人の、脱毛症であった期間は、平均76.4日
・追跡調査の時点で脱毛症の症状が続いていた人の、脱毛症であった期間は、平均47.8日。

とのことです。Covid-19にかかると、発熱、咳、倦怠感、呼吸困難、嗅覚障害、嗅覚障害、喀痰、胸痛などが起きますが、脱毛症は発症から2か月が経過してから起きており、またその期間も2~3か月と長いのが特徴です。この脱毛症の原因は不明ですが、男性型脱毛症や休止期脱毛症が起きる可能性があると、論文では指摘しています。なお脱毛症は、エボラ出血熱やデング熱などのウイルス感染症でも見られるそうです。

男性ホルモンとウイルスの感染性の関係が注目されている

話は変わりますが、感染者が増えるにつれ、疫学的なデータが蓄積され、年齢・性別・人種によってウイルスへの感染しやすさに違いがあることがわかってきました。具体的には次の通りです。

・Covid-19に感染した男性は、女性よりも重篤な合併症のリスクが高い。
・14歳未満の子供の症状の重症度は非常に低い。
・アフリカ系アメリカ人のCovid-19患者は他の人種の患者より死亡率が高い。

これは、男性ホルモンとウイルスの感染性の関係から説明することができます。詳しい説明は省略しますが、男性ホルモンの一つであるアンドロゲンは、新型コロナウイルスが宿主細胞へ侵入するのを促進する働きがあることがわかっています。アンドロゲンは女性より男性の方が多く分泌されています。また2歳から思春期を迎えるまでは分泌量が減少します。またアフリカ系アメリカ人は白人に比べて血中のアンドロゲンの濃度が高いこともわかっています。
これらのことから、アンドロゲンと新型コロナウイルス感染症のリスクについて、さまざまな研究が行われています。そしてこの知見は感染や重篤化のリスクを評価するだけでなく、感染後の治療にも役立てようという動きがあります。すなわち、アンドロゲンの作用をブロックする薬剤を用いることで、ウイルスの侵入を阻止することができるのではないかと考えられています。

最後に、脱毛の話に戻りますが、先ほど述べたように、男性型脱毛症(AGA)は、アンドロゲンの一種、テストステロンが原因で起こります。アンドロゲンが多く分泌されている人ほど、AGAになりやすいことがわかっています。実際、Covid-19の患者にAGAの人が多いことが報告されていますまたAGAの人は、感染時に重篤化する恐れがあるため、AGAをリスクサインとして用いています。
アメリカで最初にCovid-19に感染して亡くなった医師、フランク・ガブリン博士は、AGAを患っており、両側精巣癌の長期生存者でした。AGAも精巣癌も、アンドロゲンの分泌量と関係があります。このことから、Covid-19感染後の重篤化するリスクが高い患者を視覚的に識別するために、AGAの進行具合を示す「ガブリンサイン」というものが提唱され、使われ始めています²⁾。
日本ではAGAとCovid-19の関係についてほとんど報道されていないのは、なぜなんでしょうか。

さらに多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)との関連性を指摘する論文もいくつかありました³⁾⁴⁾。PCOSは、1) 月経が不順である、2) 卵巣に小さな嚢胞(卵胞)がたくさんある、3) 男性ホルモンが高くなるなどホルモン値のアンバランスがみられる、の3つが揃うと診断される病気で、妊娠が可能な年代の女性の約5~8%に発症すると言われています⁵⁾。男性ホルモンの値が高いのはAGAと同じなので、今後、疫学的な調査が進むものと思います。

いかがでしたか。今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。Covid-19はいま現在、広がっている感染症であるため、不確かな情報を流すのは慎むべきです。一方で、遅発性症状として脱毛症の実態や、男性ホルモンがウイルス感染と関係があること、さらにはAGAがCovid-19の重篤化リスクを識別する手段として使われ始めていることは、広く知っていただくべきと考えました。

参考文献
1) Yusuke Miyazato et.al., Prolonged and Late-Onset Symptoms of Coronavirus Disease 2019, Open Forum Infect Dis, 7(11) ofaa507 (2020)
2) Carlos Gustavo Wambier et.al., Androgenetic alopecia present in the majority of patients hospitalized with COVID-19: The "Gabrin sign," J Am Acad Dermatol, 83(2) 690-682 (2020)
3) Fatemeh Moradi et.al., The role of androgens in COVID-19, Diabetes Metab Syndr, 14(6) 2003-2006 (2020)
4) Carlos Gustavo Wambier et.al., Androgen sensitivity gateway to COVID-19 disease severity, Drug Dev Res, 81(7) 771-776 (2020)
5) 多嚢胞性卵巣症候群、日本内分泌学会ホームページ
http://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=75



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