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撮影前の大ピンチ!(記憶に残っている撮影エピソード13 チャイニング・テイタムさん)

 2006年の終わりにチャイニング・テイタムさんの撮影をしました。カメラマン1年目の話です。独立して2年間ぐらいは本当にお金がなかったので中古のバイク(スクータータイプで後ろに大きなテールボックス付き)を知り合いに安く譲ってもらい、機材を沢山積んで撮影に出掛けていました。カメラマンはカメラだけでなくストロボやスタンドなどの機材が沢山あるので、バック紙(2メートル弱の長さの筒みたいなもの)も含めたフル装備の時はすごい状態で走っていました。警察に止められなかったのが不思議なくらいです。10年以上東京で車を運転していますが、僕のような状態で運転しているバイクはなかなか見かけません(笑)。

 チャイニング・テイタムさんの撮影場所は六本木のホテルでした。いつものように246から六本木通りに入るルートで向かっていました。スタジオマン時代から使っていた通い慣れた道でした。

 事故は突然やってきました。

 青山トンネルに差し掛かったところで前の車が急停車しました。「えっ!ここで急ブレーキする?」と思いながら条件反射で慌ててブレーキをしました。前の車にぶつからないように咄嗟に左側に避けながらブレーキをかけてしまったためバランスを崩してしまい見事に転倒してしまいました。走っていた勢いもあってバイクだけが斜め前方にシャーっと滑っていきます。やっぱりこういう時ってスローモーションになるんですね。「止まれー!バイクー!」と強く念じるも当然バイクは止まるわけもなく隣の車線の停車している車の後方部にドーン!と衝突してしまいました。

 僕は一瞬で考えました。僕のバイクに衝突された車には一切落ち度がありません。完全に僕の責任です。警察を呼んで待つ時間。そして事故書類を書いてもらう時間を考えると早くても30分から40分。そこから現場に向かうとなると完全に集合時間に間に合いません。僕はとりあえず転がったカメラバックを拾い、バイクを道路の脇に寄せました。衝突された車の運転手さんが出てきました。びっくりしただろうな。本当に申し訳ない気持ちでいっぱいの僕はとりあえず「すいません!」と謝りました。スーツを着たその人は僕の荷物を見て、信じられない事にこう言いました。

 「カメラマンさんですか?撮影大丈夫ですか?」と。

 僕はこれから六本木のホテルでこれから撮影があることを伝えました。するとその人は「警察を呼んだりしていたら集合時間に遅れちゃいますね。とりあえず連絡先を交換して、まずは撮影に行ってください。細かい事はあなたの撮影が終わった後にどこかで待ち合わせて打ち合わせしましょう。」と言ってくれたのです。この車は会社の営業車で保険に入っているので、僕が石にでもぶつけた事にして自己負担分(1〜2万円ぐらい)だけあなたに支払っていただければそれでいいですよと。僕はこの人は天使か神様なんじゃないかと思いました。予想もしていなかった展開です。もう泣きそうです。自分が逆の立場だったらこんなことが出来るのかと思います。自分は何も悪いことをしていないのにも関わらず、相手のことを思いやってわざわざ自分の時間を犠牲にして即座に行動出来るなんて!ちょっと信じられません。「ありがとうございます!お言葉に甘えさせていただきます!」と伝え、撮影現場に向かいました。

 そのお陰もあって、無事に間に合い予定通り撮影がはじまりました。僕からするとこうやっていつも通りに撮影できること自体が奇跡のように感じていました。撮影をする前からもう一種の興奮状態です。良い写真を撮った後のように心は高揚していました(まだ1枚も撮っていないのに!)。そして、その感覚で撮影した写真がすごく良かったのです。今まで撮れなかった距離感というか立体感でポートレート写真を撮ることが出来ました。この撮影を経験したお陰で何か新しい撮影の感覚を掴めた気がしました。つまりは自分が撮りたいイメージで撮影する方法を手に入れたのです。怪我の功名とはよく言ったもので、僕のような仕事はトラブルも味方にしたら強くなれます、なんて調子良いこと言っていると罰が当たりますね。

 あの事故があってからはあのドライバーさんのような人間に僕もなりたいと思うようになりました。正直なところまだまだ全然なれていないのでさらに精進しないとなと思う今日この頃です。

 

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