見出し画像

その場で思いついたコミュニケーションも自分の武器だと気づいた話(記憶に残っている撮影エピソード2 2007年と2020年の北野武さん)

 写真の整理をしていて、13年前(2007年)に撮影した北野武さんが出てきました(左の写真)。カメラマンになって2年目の写真です。当たり前ですが、撮影の時は体が震えるほど緊張していました。この写真を見るといまの僕にはないものを感じます。当時はとにかくもの凄い気合いで撮影していました。技術も経験もほぼゼロ。僕の唯一の武器は気合いだけでした。

 こっちは必要以上に挑むように撮影しているので武さんもグッと見つめ返してくれています。この時はフィルムで撮影していたのですが、撮影時間が残りあと1、2分しかないのをわかっていて、図々しい自分はもう1ロール(10枚分)撮りたくなりました。ダメ元で「武さん、あと1ロールだけ撮影してもいいですか?」と聞きます。武さんはすんなり「いいよ。」と言ってくれました。すぐにフィルムチェンジをはじめました。時間オーバーでも武さんが「いいよ。」と言えば、周りは止めることが出来ない空気を読んでの行動でした(こういうことをやると担当の編集者さんが後で宣伝担当の人から怒られるので、今はほとんどやらないです)。当時の僕はとにかく必死だったのです。本気でこの撮影が僕の最後の撮影と思ってやっていました。

 せっかくのボーナスタイムがはじまったので、少しだけ武さんと雑談をしようと思いました。撮影の数日前にたまたまモディリアーニの展覧会に行ったのと武さんは絵が好きなことを思い出し、「武さん、渋谷の文化村でやっているモディリアーニの展覧会に行きましたか?すごくよかったですよ。」と話したら「行ってないけど、モディリアーニはさぁ・・・」って僕が知らないモディリアーニのことを色々教えてくれました。そして少しだけリラックスしてくれた写真が撮れた気がします。撮影が終わり、そそくさと機材の片付けをしていたら黒いスーツをビシッと着た武さんの事務所の人がやって来て「あんな風に殿に話しかけられるカメラマンはなかなかいないぞ。みんなだいたい殿を前にすると萎縮するんだよ。お前やるじゃねえか。これからも頑張れよ。」と言ってくれました。嬉しかったなぁ。僕はそうか、こういうその場でパッとおりてくるコミュニケーションも自分の武器になるのかもしれないと気がつきました。

 そして右の写真は今年(2020年)に撮影した北野武さんです。あれから13年が経ちました。かなりの撮影の場数を踏んできた自分は、すでに挑戦するような気合いだけで撮影するカメラマンではなくなっています。でも2007年の武さんも2020年の武さんの写真もどちらも好きです。ポートレートは普遍的です。そこが僕は大好きなんです。その時の自分の能力と体調でその日の被写体のベストを撮影するということはずっとぶれていません。これからもそれだけはブレずにやっていくつもりです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?