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良い役者の条件(記憶に残っている撮影エピソード6 妻夫木聡さん)

 良い役者の条件ってなんだろう。僕はカメラマンだから、演技のことはわかりません。でもプロのカメラマンになって14年間、カメラのファインダーを覗いて何百万回シャッターを押していてわかるようになった事があります。感性が豊かな役者は以心伝心みたいなことを息をするかの如く自然に出来てしまうのです。

 役者の以心伝心能力に初めて出会ったのは独立して2年目の2007年に妻夫木聡さんを撮影した時の事です。撮影中、今しているポーズ(まさに上記の写真のポーズ)のまま目線だけ右斜め上を見てもらいたいと思いました。それを彼にお願いしようと思い、カメラから顔を離そうとした瞬間に妻夫木さんは右斜め上を見てくれたのです。角度も表情も僕がイメージしていた以上の雰囲気を作ってくれました。僕はシャッターを押した後に、「僕が今、右斜め上を見てくださいってお願いしようと思ったことをなんで出来たんですか?」と思わず妻夫木さんに聞いてしまいました。当時、新人カメラマンであった僕は本当にびっくりしたのです。この人はエスパーなのか!とさえ思いました。すると彼はフフッと笑っただけでした。

 きっと妻夫木さんは映画の監督やカメラマンがイメージしている表情や動きを越えた演技をして彼らをゾクッとさせる事が出来る人なのでしょう。だからまた彼と一緒に映画を撮りたくなる気持ちにさせるのでしょう。カメラマンを続けていると、こういう以心伝心みたいな事が出来る人は妻夫木さんの他にもいる事がわかりました。みんなそれぞれたくさんの言葉を交わさなくてもコミュニケーションが取れて撮影が出来るのです。そして、みんなそれぞれ表現の違いがあって本当に面白い。不思議とそういう役者さんは映画やドラマや舞台で主役が出来る人が多い。もちろんそうじゃなくても活躍している人ももちろんたくさんいる。その人にはその人の武器があるんだと思う。映画の主役を何本もやれる役者にはきっと理由がいくつもあります。

 ちなみに2016年に再び妻夫木さんを撮影する機会がありました。その時に、2007年の撮影のエピソードを彼に話しました。すると彼は「そんな生意気な対応していたんですか。すいません」と謝り、こう続けました。

「いまはその先にいきたいんですよね。」

 第一線で活躍している人はずっと進化をする努力を続けています。

 

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