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20240108 宙吊り、機械仕掛けの神様

優秀な舞台監督さんから「この劇場だとタッパ(天井までの高さ)が4mくらいしかないので上からロープで吊り上げようとしても、実際のところ1m位しか浮かせることはできないと思います」という説明を受けてなるほど、と感心していた。

▼ギリシャ劇にはデウスエクス・マキナ(機械仕掛けの神様)という様式美みたいなものがあり、本編で人間たちがさんざん業の深い振る舞いをしまくって舞台上の状況がとっ散らかってしまったとき、最後に大掛かりな機械で空中に吊り上げられた俳優が神様役として登場し、「お前はあそこに行け」「君はこいつと結婚しろ」「そしてお前が王様になれ」といった感じで手際良く交通整理をしてくれて、晴れて大団円を迎える。

▼「どれだけとっ散らかしたとしても最後に人を宙吊りにすればなんとかなるのだ。根拠はギリシャ演劇」という短絡的な思い違いを元に、ぜひ次の公演でデウスエクス・マキナを試してみたいと思って劇場の下見にいった時に舞台監督の方に相談したのだった。

▼しかしながら小さな劇場では人を吊り上げるといってもせいぜい1mくらいのもので、一生懸命上げたとしても「だから何…?」というほどの効果しか生まれない割に安全のための装具や仕掛けなどのコストはかかるので、あまり現実的ではないようだった。

▼「いいですか、Fさんが白塗りになり、最後にデウスエクス・マキナとして舞台上に現れることでこの作品は完結するんです。ひとつ騙されたと思って吊られてください」と、私が口説いて神様役として出演してもらおうとしていたFさんという同期はすんでのところで宙吊りを免れた。

▼思いつきだけではなかなか人を宙吊りにすることはできない。作品としての必然性や戯曲上の根拠、安全とコストのバランスなどが噛み合ってはじめて人を宙吊りにすることができる。だからいつか、確信をもってFさんを宙吊りにしたいと考えている。彼ならどんな混沌とした状況でも、みごとに整理して見せてくれるだろうから。

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かえるのおたま

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