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20240105 教室の隅の仄暗い方

居並ぶ俳優たちが誰も彼も見目麗しくきらびやかで華やかで爽やかで、作者による台本もありうべき若者たちの青春を甘酸っぱいいい感じに描く劇団のことを、ちょっと苦手だと思っていた。

▼舞台上の彼らが輝けば輝くほど、「自分は決してそちら側の人間ではないのだ」というコンプレックスみたいなもので、客席で勝手にひとり押し潰されそうになっていた。眩しくて見ていられないような気持ちになり、息が浅くなってしまう。

▼翻って自分の主宰している劇団の面々を思い浮かべるに、多少のグラデーションはあるにせよ総じてそんなにキラキラはしておらず、派手でもないし世に言うオシャレでもないし、どちらかと言えばみんなしずかで地味である。

▼もし許されるのなら、オシャレでキラキラしていたかった。イケていたかった。屈託なく青春を過ごし日本社会の「陽キャ」として、上昇志向で社会的地位を爆上げしていたかった。キャリアアップして今頃ゴルフとかしていたかった。しかし30数年生きてきて、そんなことできなかったことは自分が一番よく知っているのだった。

▼同級生が地元のゴルフコースに繰り出しているのをSNSで眺めながら、劇団の人たちと、かの和室で午後の昼下がり、柔らかな日差しの中でなにくれとなく喋りながら時間を過ごしている時に感じていたのは、なんとなく学校の教室の仄暗い方でお互い出会ったかのような(表現としては妙だが)安心感だった。

▼冒頭のキラキラとした劇団の方々もまた、よく知る人から言わせればそのきらびやかな見た目とは裏腹に、みんなネクラの人たちなのだと聞いてちょっと驚いた。ほの暗い客席の片隅で、憧れや屈託が響き合っていた。

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かえるのおたま

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