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蛙読天

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主宰による毎日の連載です。
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記事一覧

20240519 『若き日の詩人たちの肖像』終演の御礼。

私たちの劇団にとってはじめての野外劇が昨夜無事に終演した。最終日は準備の最中から雨のぱらつく天気だったものの、上演の最中はなんとか雨が降らずに最後まで上演することができた。雨の予報の中でご来場くださったお客様には感謝しかない。本当にありがとうございました。 ▼本番が終演し、楽屋テントの方へと戻っていくと一人の女性が待っていてくれて、劇場の上の通路から最後まで私たちの舞台を見てくれていたらしく、立ち見だったのだけれどどうしてもお代を支払いたいからと、千円札をギュッと私に手渡し

20240518 月がとっても蒼いから

公演の二日目も無事に終了した。 たった三日間の公演に、たくさんの観客の方が戸山公園へと足を運んでくれることがとても嬉しい。今週末は都内でも野外劇やコンクールや、たくさんのイベントがあるのである。 ▼舞台上に資材がきれいに収納されている状態から客席と舞台を含めた野外の劇場を展開するまで、今となっては45分を切るくらいですべて完了できるようになった。ものの置き場所や整理の仕方もわかるようになって、ひとりひとりの中にそのノウハウがすこしずつ積み重なってきているからだ。 ▼昨夜

20240517 「呼吸は私を生き返らせる、何度でも何度でも生まれ変わる」

Photo by Mikio Kitahara さて、初日の幕が無事に開けた。野外劇でいちばん大きなファクターでもある天候にも恵まれ、5月という季節の一番いいところを感じられるような夜だったのではないかと思う。数ある演劇の公演の中から昨夜私たちの公演を選び、あの場所に立ち会ってくださった皆様には、本当に感謝の念に堪えないという気持ちでいっぱいである。誠にありがとうございました。 ▼野外劇に慣れている舞台監督の齋藤さん、熊野さんという要がいなかったら全然無理だっただろうな、

20240516 はじめての野外劇、開幕します。

舞台稽古を終えて、いよいよ明日私たちの劇団の初の野外劇の初日です! やることがいろいろありすぎて、書きたいことも山ほどあるのですが、今日は一足先に舞台の雰囲気を感じていただけるような写真をご紹介させていただくことでおたまの代わりとさせてください。 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼戸山公園野外演劇祭参加作品 平泳ぎ本店第8回公演『若き日の詩人たちの肖像』本日初日です。何卒よろしくお願いいたします。 ***** ◆現在資金調達に挑戦しています!ぜひご一読ください。 【平泳ぎ本店 ク

20240515 大久保鷹さん、現る。

今回の野外劇の会場となる戸山公園で設営をしていたところ、58年前の1966年にまさにこの場所で唐十郎さんと一緒に野外劇を上演された俳優、大久保鷹さんがフラッと通りかかられたのでびっくりしてしまった。 ▼劇団唐ゼミ☆の齋藤さん、元劇団員の熊野さんは慣れた様子で大久保さんとお話をされていたけれども、私のような者(大久保さんをふつうに観客として見ている側)からすれば「わあ、本物だあ!」というような気持ちだった。なにしろ数々の伝説(不忍池からタンスを背負って泳いで上がってきて、テン

20240515 たとえば床を敷くだけで俳優が。

野外劇のため、会場となる戸山公園に入っての設営が進んでいる。朝から荷物を搬入し、1日をかけて舞台の床を敷いていく作業を進めていく。この床をつくるために今回資金調達に挑戦している。 https://motion-gallery.net/projects/hiraoyogi_toyamaopenairtheater ▼昨夏幸運にも参加させてもらうことができた利賀村のサマーシーズンで、『果てこん』と呼ばれる野外劇に出演するためにひと夏野外劇場で過ごしていた。磯崎新さんが設計された

20240513 雨の積み込み

野外劇というのを自分の劇団でやるのは初めてなので、スタジオでの稽古が終わってから会場に入るまで、なんだか落ち着かず、ちょっとドキドキしている。そうこうしているうちに会場入りする予定だった今日は思いきり雨に降られて設営の予定を後ろ倒しにすることになったりして、野外劇、というか自然からのジャブを食らったような格好になった。 ▼「そっち(お天道様)がその気ならこっちにも考えがある」というのがこういう時の劇団主宰の心境であって、雨予報がチラついた時に舞台監督の方からアドバイスをもら

20240512 音楽は歓びだから

完全に自業自得なのだけれども公演が近くなると頭がずっと煮えているような感覚になる。公演のための制作業務、日々のリハーサルやありとあらゆる連絡、情報共有、タスクの数々に追われまくるようになり、ずっとうっすらテンパっている状態が続き、起きている間はずっと集中していなければもうぜんぜん公演に間に合わないような錯覚を覚えたりする。 ▼公演がない時はかなりゆるゆるとした日常を送っているので、こういう時に本気を出さなければ生きている意味がない、というくらい張り詰めた気持ちで毎日過ごして

20240511 野外劇『若き日の詩人たちの肖像』に寄せて

稽古場での最終通し稽古として、お客様をお招きしてのオープンリハーサルが終わり、すこしホッとして気がゆるみ、おたまを書くことができずに爆睡してしまっておりました。楽しみにしてくださっている方々申し訳ありませんでした! ▼本編の上演が終わってから、観に来てくださった方々の前で自分たちの創作についてすこし話をさせていただく時間があって、そこで話しながらいろいろなことを考えていた。それは『若き日の詩人たちの肖像』という作品、それは小説としても、今回の私たちの演劇としての上演としても

20240510 心の中に、どどーん!!

photo by Eri Iwata 「この人と出会ったことで、もうこの人と出会う前には戻れないほどに深く影響を受けてしまった」というような人や作品というものが、誰しも一つや二つはあるものかなと思う。私、そして私たちの劇団にとってその一つが、他ならぬひげ太夫さんである。 ▼ひげ太夫さんに出会ったのはコロナ禍の只中の2021年のことだった。感染症の影響で思うように公演を行うことができなくなったこと、その中断によって劇場を通じた世代間の表現の継承が途切れてしまうのではないかと

20240509 小説を演劇へ。

そもそも今回の創作の前に『若き日の詩人たちの肖像』を読んでいてまず驚いたのはそこに描かれる人たちの知的なタフネスというか、ひとりひとりの教養の深さ、そこで交わされる議論の高度なこと、思想や思索が縦横に走り、そして成熟していることだった。 ▼実在の歴史上の作家や俳優たちがあだ名でしれっと登場する自伝的な小説というのも好奇心をくすぐられる要素の一つだった。ちょっと調べるだけでもこうした記事が出てきたりするし、下巻の巻末の後書きにも具体的な名前が並んでいたりする。 https:/

20240508 クラウドファンディング に挑戦します(9年ぶり二度目)。

劇団をはじめようと思った2015年にクラウドファンディングに挑戦したことがあった。どう考えても自分たちが想定している動員とチケット代の収入だけではすべての支出を賄うことができないと思って資金調達に挑戦したのだったけれども、その時に御礼として設定した「永年会員」というパスを使って今も私たちの公演に足を運んでくださる方々もいて、単に作品を見てもらうだけではなくて、そうして若い劇団が四苦八苦しながらなんとか公演を続けるのを共に歩んでくれる方がいたことはとてもうれしいことだと思う。

20240507 みんなで話し続ける

かつて演出家の鵜山仁さんがアフタートークに来てくれて、演出という仕事についていろいろと話をしてくれた時に印象に残っているのが、「Aという意見とBという意見があった場合に、Cを導くのが演出という仕事」という話だった。 ▼個人的にはその話を創作過程のコミュニケーションの質が創作の質につながるということなのかなと理解して、今もその話を折に触れて思い出す。ある意味では弁証法的に、その途中に生まれるコミュニケーションにもきちんと丁寧に時間をかけて進めていくことができたら理想的だなと思

20240506 殺された鉄棒

『若き日の詩人たちの肖像』で有名な一説というのはいろいろあるにせよ、主人公の男が藤原定家の『明月記』を引きながら「日本の最悪の時」にあって文筆家がどう過ごしていたかを確かめるようにして、いよいよ本格的な戦争を迎えるこれからの日本のことを考えているのは小説を読んだ人にとっては結構印象的な描写なのかなと思う。 ▼東京に上京してきてすぐに二・二六事件と鉢合わせるという、数奇といえば数奇な運命を辿った堀田善衞さんだけれども、思えば自分が生きてきただけでも学生の時に東日本大震災があっ