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ずっとあなたがいてくれた第二十七話

「でもそれではご迷惑がかかりますよね」「いいんです。もう」
もういいって? どういうこと?
「そろそろこの仕事もいいかなって。なんか、色々きついんですよね。もうやめ時かなって」「本当にいいんですか?」「はい」力強い答えが返ってきた。「わかりました、じゃあよろしくお願いします」「もちろんです、任せてください」「あ、でも、中へ入るときは一緒じゃないほうがいいですよね。私を連れていって、あそこですと案内するまではいいけど」「そうですね、近くに行けば我々の声も聞こえるでしょうし」「じゃあ、タカシのいるところに入るとき、続いて入ってもらって、その上で物陰に身を隠すというのは」「いいですね、そうしましょう」

 話がまとまり、私たちは車を降りた。タカシのいる場所へ一緒に歩いていく途中、一人じゃないってなんて心強いんだろうと思っていた。本当は、彼と一緒にここで散歩したかった。アトリエの隠し部屋で彼が言っていたみたいに。でも、彼とはもう、元には戻れない気がする。高校時代の楽しかった日々。私はずっと戻りたいと思っていた。でも、楽しかった日々なんて、本当は存在しなかった。まがい物だったのだ。知らないほうがよかったと言う人もいるだろう。でも私は、知ってよかったと思う。どんな真実であれ、真実と向き合うことが本当の幸せにつながるのだと、今の私は知っているから。
「ここです」「この中に、タカシが?」
 わざと声のボリュームを上げる。母屋から少し離れたところにある、一回り小さな建物だった。離れと言うのだろうか。扉は施錠されている。楢島さんが鍵を取り出し、開けてくれた。「ありがとうございました、じゃあ」「はい、お気をつけて」
 タカシにも聞こえるように言ったあと、私は扉を開け、タカシを呼びながら中に入る。後ろを見ると楢島さんが中に入ろうとしていた。さらに大声でタカシを呼ぶ。「こっち......かすみちゃん......」「タカシ!」「電気、つけて」「電気? どこにあるの?」「扉のすぐそば。入って右側にあるはず」「右側ね、了解」
 その瞬間、明るくなった。楢本さんがつけてくれたんだ。でも姿はない。うまく隠れられているようでよかった。「つけたよ、どこにいるの?」目が慣れるのに少しかかったけど、タカシの姿が見えた。「――タカシ!」思わず駆け寄る。「大丈夫? 今、縄をほどくから」「無理だよ、如月のやつがきつく縛り上げたから」「なんでそんなひどいこと――」「言っただろう、かすみちゃんに復讐するつもりだって。それを俺が邪魔したから」「だからって、そんな......」「いいんだ。あいつがそういうやつなのは前から知ってたから」
 胸が痛む。彼がタカシのことを話したとき、とても懐かしそうだった。タカシとは元に戻らないと感じていたのだろう。思い返せば彼が事故に遭った日も、私が友達なのにと言ったら、タカシはすごく冷たい目で、誰が友達だって? みたいなことを言っていた。あのときはもう、二人は......。悲しくて、そしてやりきれなかった。

第28話へ続く

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