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ずっとあなたがいてくれた第二十三話

「たのむから、もう首を突っ込まないでくれないか。うんざりなんだよ」予想もしなかったことを言われ、呆気にとられていると、「勝手なことを言ってるのはわかってる。巻き込んでしまって本当にすまない。最初から君を巻き込むべきじゃなかったんだ。これは僕とタカシの問題だから――」彼は力なく微笑んで、「そんな顔しないで」と私の頬に触れた。つられて私も自分の頬に触れ、濡れていることに驚いた。全然気づかなかったけど、私は泣いていたんだ。「じゃあね、かすみちゃん。タカシのことはもう心配ないから。ゆっくり休んで」

 彼は立ち上がり、病室を出ていった。外で何か話しているようだ。母がまた何か言っているのかも。さっきの顔、すごく怖かった。自分がそんなに重篤な状態だったなんてとても信じられないけど、母の様子を見るかぎり、私が今こうしていること自体、奇跡なのかもしれない。そんなことを考えていたら、母が入ってきた。さっきのとげとげしい雰囲気はなくなって、とても穏やかな様子だった。

「まだ目が覚めたばかりなんだから、無理しちゃダメよ」ほら、横になって、と母に言われ、おとなしく従う。「また明日来るからね」私はうなずき、小さな声でありがとう、とつぶやいた。「お礼なんていいから大人しくしてなさい。わかった?」「うん」母は安心したように笑うと、じゃあね、と出ていった。

 一人になると、彼に言われたことが気になった。首を突っ込まないでくれ、これは僕とタカシの問題なんだ。たしかにその通りだけど、私だって無関係ではない。子どもの頃の私と一緒に敷地内を散歩していた、そう彼は言ったのだ。そして、彼のお兄さんの事故……。考えただけで動悸がしてくる。深呼吸して、落ち着けと自分に言い聞かせる。私のせいじゃないと彼は言ってくれた。その言葉にウソはないと思う。

 病院で目を覚ます前、アトリエで彼が言おうとしていたこと……。たしか、講師として私のいる高校に来たのは偶然じゃなかったとか、なんとか。さらに突っ込んで考えるとまた気を失いそうなので、今はやめておこう。「なんか疲れた……」

 ため息をついたら眠気がおそってきた。大きなあくびが出る。母にも言われたように、無理しないで大人しくしていよう。おやすみなさい、と誰に言うともなく言って目を閉じた。

 気配を感じた。「う~ん……」もぞもぞと身体を動かすと、ひそひそ声がする。「――さん、かすみさん」ハッとして目が覚めた。「誰?」上半身を起こし、暗い室内に目をこらす。「その節はどうも」「あなたは――」姿を現したのは、あのバーの店員だった。

第24話へ続く

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