見出し画像

ずっとあなたがいてくれた第二十四話

「なんで、あなたがここに……。あっ」バーの店員はけげんそうな顔をした。「あの、私のこと助けてくれたって、彼、如月先生から聞きました。あの、どうもありがとうございました」「なんだ、そんなことですか。いいんですよ。これも仕事のうちですから」明らかにホッとしている。責められるとでも思ったのだろうか。「あの、あなたは如月先生の協力者だと聞きました。そのあなたが、なぜここに?」

 私が尋ねると、店員は気まずそうに頭をかいた。「協力者なのは間違いありませんが、雇い主は違います」「雇い主?」「ええ。私はお父様、議員の如月先生に雇われているんです。こちらへうかがったのもその一環で」「はあ……」なんだかよくわからない。気配を感じても、無視して寝ていたほうがよかったのでは。「こんな夜中にお邪魔したことは謝ります。そうでもしないと、あなたに近づけなかったので……」また睡魔がおそってきた。もういいや、寝ちゃおう……。「あの!」

 びくっとして目を開ける。「楢本といいます。これ、俺の名刺です」両手で差し出された名刺を受け取り、目をこすって名前を見た。「ナラモトさん、ですね」「はい、それで実は、伝言がありまして」ごほん、と咳ばらいをして楢本さんは言った。

「伝言? 議員の如月さんからですか?」「いえ、そうではなく、堀田タカシさんから――」

 完全に目が覚めた。「タカシの伝言って、本当ですか?」「はい。こちらです、どうぞ」渡された紙を奪い取るようにして読む。

『かすみちゃん、本当にすまない。俺は最低の男だ。如月の怒りを買うのも当然だ。今までありがとう。高校のときから、かすみちゃんと過ごす時間は楽しかった。ウソだと思うかもしれないが、誓って本当のことだ。最後に一目会いたかったけれど無理だろう。ここから出ることはできそうにない。どうか元気で。幸せを祈っている』 

 読みながら涙があふれた。そんなこと言わないで……。「あの、タカシに会うにはどうしたらいいですか」「えっ?」「だってタカシ、閉じ込められてるんですよね。助けたいんです。そこへ連れていってください」「いや、それは……」「お願いします。タカシに会わせてください!」

 楢本さんは大きく息を吐いた。「わかりました。そこまでおっしゃるなら」「ありがとうございます!」「でも晴馬坊ちゃんには内緒ですよ。あなたをタカシさんに会わせたと知れたら大変なことになる」私はうなずいた。きっと彼がタカシを閉じ込めたのだ。なぜかは分からない。でも首を突っ込むなと私に言ったのは、タカシのことと関係があるのかもしれない。そんな気がした。

 なんとしても二人のあいだにあるわだかまりと、私とのかかわりを明らかにしたい。パジャマを着替え、外出の支度をする。今度こそ母に勘当されるかも。でも、このまま何もしないでいるなんて無理。だから前に進む。「行きましょう」楢本さんは静かにうなずいた。

第25話へ続く

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?