小説 日本を休もう2

 エッセンシャルワーカー、真司は店長からこの言葉を聞くまで、まさか自分がその一人だとは思ってもみなかった。自分は単なるフリーターで、どちらかと言うと今の状況に引け目さえ感じていた。それが今回のノアの箱舟プロジェクトでは、コンビニに係わる人々がエッセンシャルワーカーとしてばれたからだった。今日、店のオーナーでもある店長がとても嬉しそうにそのことを伝えてきた。聞けばこの店は元は代々続く酒屋だったが近所に大型スーパーやディスカウントストアができた影響で売上が下がり続けてやむなくコンビニに鞍替えしたらしく、そのとき兄弟や親戚から自分一人が悪者扱いされて悔しい思いをしたらしい。それが今回、リカーショップと名前を変えて酒屋を続けている親戚は休業となったが自分のコンビニ店はライフラインを維持する店として営業を続ける事が誇らしくもあり、一矢を報いた気持ちらしい。
正直、店長からこの話を聞くまで真司は、ノア箱の期間は実家に帰って仕事でも探すつもりでいた。マイナポータルのAI相談でも、この間の予定はエッセンシャルワーカーとして最初に考えていたストリートファイトのゲーム大会参加のスケジュール設計より、地元での職探しの方が満足度数が高くなる結果が出て家に連絡を入れていたがエッセンシャルワークを優先して合間をみてゲーム大会に参加することにした。
 ノアの箱舟プロジェクトとは、政府が名付けた訳ではなく、ネット上で知らぬ間に流通した名称で、聖書にあるように嵐が収まるまでやり過ごす姿になぞらえて広まったものだった。世間ではその間をどう過ごすかスケジュール表を早く作成するのに夢中だった。それは、スケジュール表をマイナポータルに申請した順に10万円の再給付金がもらえるからだ。

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