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妄想力を高める観察ワークショップ

はじめに

今回の「ワークショップデザインAdvent Calendar 2019」では、『妄想力を高める観察ワークショップ』を題材に、このワークショップ設計と実践するにあたって、どのようなことを考えて、創意工夫したのかをお話します。

今回の題材となったワークショップは、マニュライフ生命保険株式会社様からの依頼でした。当初、デザイン思考を学べる研修をリクエストされてました。しかし、時間が限られていたので、デザイン思考の「観察」にフォーカスし、デザイナーが見ている世界(想像モード)を体感することを目的にしました。

僕は観察時にどこを見ているのか?

一般的な観察手法として、「参与観察」や「シャドーイング」といった何かの行為を見続けて記録する方法はあります。しかし、特定の目的を持った観察手法ではなく、事前準備なしに利用できるテクニック、例えば、これから保険を契約するかもしれない家に訪問した際に利用できる観察術というのは、あまり述べられていない印象でした。このような瞬間芸的な観察のやり方とは、どういったことなのか?それを今回のワークショップでは体験してもらいたく、プログラム設計しました。なので、ビデオテープを回す必要もありませんし、何かを記述するといったやり方でもありません。つまりは、「どこ」を見ているのか?につきます。

観察の原体験

今回のプログラム設計にあたり、僕は自分の観察手法を棚卸しするところからスタートしました。僕の「観察」の原体験は、美術予備校のデッサンまで遡ります。例えば、リンゴをデッサンで描く時、僕は何を見ているのか?そして、何を考えているのか?そこにプログラム設計のヒントがありました。例えば、リンゴをデッサンする時に考えていことは、以下のような項目です。

目に見える観点や既知のこと(具象)
大きさ、カタチ、構造、重さ、色、質感、シズル感、味、光の辺り方、空間配置など。

目に見えない観点や未知のこと(抽象)
どんな農家で育てられたのか、どんな木で実っていたのか、どんな輸送経路を辿ってここに行き着いたのかなど。

このように「目に見える観点や既知のこと(具象)」「目に見えない観点や未知のこと(抽象)」に大きく別れ、前者は目の力で捉え、後者は頭の力で捉えます。つまり、後者のことを踏まえながら(妄想しながら)鉛筆を走らせるのですが、ひとつ問題があります。

前者は目の前に、その答えがあり正解に辿り着けるのですが、後者は目の前に答えはなく、想像力によって推測する必要があります。例えば、リンゴの底が傷があったら、出荷時に傷つけられたのか?もしくは、傷んでいたから見切れ品だったのか?台風の日に風で落ちたのかなどなど。妄想がスタートします。妄想をスタートするには、全体ではなく、細部の表現物をヒントに、その裏側にある印象を推測するのです。この原体験を下敷きに、プログラム設計をしました。

プログラム設計の詳細

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お題
次の写真を観察し、どんな人物像か妄想し「aibo」の購入を後押しするためのセールストークを考える。

方法

1-1:4枚の部屋の写真を見る。
1-2:その部屋に住む人のイメージ像(絵)、年齢、趣味、価値観、ライフスタイル、最近の悩みを考える。
1-3:ワークシートに記載する。

2-1:「aibo」の本質的価値を考える。
2-2:ワークシートに記載する。

3-1:人物像のパーソナリティやペインポイント (悩み)と「aibo」の本質的価値が重なるところを定め、セールストークを考える。
3-2:ワークシートに記載する。

解説
本当は、現地に行き、そのリアルな様を観察することが望ましいですが、今回は時間的制約を考慮し、4枚の部屋の写真を使ってワークショップを実践しました。

実は、この部屋の写真は、僕と妻が暮らしている部屋です。(このワークショップの最後にネタバラし。)そして、このaiboも実際に購入したものです。本物の部屋を現地観察できな分、ストックフォトなどの素材を利用するのではなく、現実の手垢があるリアルな写真を利用しました。また、次のような効果も狙いました。

・実際に住んでいるため、ここの写真の解像度を高くみることができ、ファシリテーションの助言がしやすい。

・妄想の正解・不正解は大事ではないが、妄想した結果、本当にそれが「適切だった」と伝えてあげ、妄想に対する自信を付与してあげる。

論理モードと想像モード

ワークの前半では「目に見える観点や既知のこと(具象)」を起点に、人物像に飛躍がない以下のような意見が目立ちました。

・写真が二人だけ→子どもがいない。
・動物のグッズが多い→動物が好き。

など。論理的矛盾が全く無い「論理モード」で考えた結論でした。このままでは、「想像モード」に入れないので、もう一段回、妄想レベルを上げるために、僕の方で、全体ではなく、細部を見るように助言することにしました。例えば、

「テレビの右側だけに写真が貼られている。これは、どうしてでしょうか?気になりませんか?ドライブーケが飾っている。これは、どうしてでしょうか?気になりませんか?細部にこそ表現がにじみ出ます(パーソナリティが表出します)。自宅と比較しながら、そんな細部を見つけて、グループで噂話をしてみてください。みなさん、井戸端会議で、あそこの夫婦、絶対〇〇だよね?みたいな話をしたことありませんか?今回のワークショップでも、そんな感じで、話してみてください。決めつけて良いんです。そし、そんな些細な発見で、いいんです!」

この一言をきっかけに、各グループの妄想レベルは格段にあがり、会話量も増えました。例えば、ドライブーケを飾っているところから、結婚式を大切にしている👉二人の思い出を大切にする人👉未来より二人で積み上げてきた過去を大切にする人なのでは?といった考えに至るようになりました。つまり、論理的飛躍を許容しはじめたのです。

このように、デッサンの原体験を下敷きに、

・目に見える観点や既知のこと(具象)
・目に見えない観点や未知のこと(抽象)

を捉えることを体験することができました。端的に言えば、目に見える観点や既知のこと(具象)を推察する場合は「論理モード」。目に見えない観点や未知のこと(抽象)を推察する場合は「想像モード」となります。この状態になることが、デザイン思考のポイントではないかと思っています。

そして、そのモードに入り込むトリガーは、全体を見ることではなく、詳細を見ること。特に表現されているところを見つけることが大切です。なぜなら、印象(Impression)と表現(Expression)の言葉の意味は、表裏の一体の関係であるということです。表現されている箇所(目に見える観点)は、潜在的にある印象(目に見えない観点)となりえる可能性が含んでいるからです。

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おわりに

今回は、『妄想力を高める観察ワークショップ』を題材に、このワークショップ設計のポイントをお話しました。今回のワークショップ設計のポイントは、自分の原体験を下敷きにしたこと。そうすることで、解像度を高く維持したまま、ファシリテーションができました。また、自分の原体験が軸になっているので、場が詰まった時に的確なアドバイスが可能となったり、妄想行為に対し、その成果物へのふり返りへ妄想で返答することなくできたことがあげられます。

さらに、瞬間芸的な観察術として、「全体ではなく、細部を見ること」細部こそ、パーソナルが表出しやすい表現であり、そこをトリガーに印象を、論理的飛躍をもって、妄想することへの可能性があることをお伝えしました。

そして、最後に日本人こそ、僕は妄想力に優れた人たちはいないと思っています。しめ縄を巻いた石に神が宿ると妄想できること。刀剣乱舞の世界観をつくれたことなど、妄想力に溢れた国民性だと思っています!

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