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平野啓一郎|小説『マチネの終わりに』後編

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平野啓一郎のロングセラー恋愛小説『マチネの終わりに』全編公開!たった三度出会った人が、誰よりも深く愛した人だった―― 天才ギタリスト・蒔野聡史、国際ジャーナリスト・小峰洋子。四十…
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#コンサート

大空祐飛・平野啓一郎 小説『マチネの終わりに』出会いの夜のシーンを朗読!

元宝塚歌劇団宙組トップスターの大空祐飛さんが、自由に表現を楽しむ人にお話を聞く朝日カルチ…

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『マチネの終わりに』第七章(9)

 武知は、そう言って肩を揺すって笑った。蒔野は、音楽業界の惨状は言うまでもなく知っていた…

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『マチネの終わりに』第七章(31)

 洋子は、リチャードの言い分に納得しなかったが、彼が最後に言った言葉には、胸をえぐられた…

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『マチネの終わりに』第七章(40)

 蒔野はそれを、自分の演奏に対する、最も鋭利な批評であるように感じていた。祖父江が言って…

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『マチネの終わりに』第七章(41)

 蒔野は、会えば会うほど武知を好漢だと感じ、その「きちんとした」という言葉がピッタリの演…

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『マチネの終わりに』第七章(49)第八章(1)

 早苗は、動揺した様子だったが、すぐに笑顔になった。そして、フライパンの火を止めると、蒔…

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『マチネの終わりに』第八章(13)

 蒔野の音楽的な不調のことは、あの頃も是永から耳にしていて、彼自身から届いた別れのメールにも、それが示唆されていた。しかし、その後、彼がこんなにも長い間、沈黙し続けていることなど、想像だにしていなかった。  洋子は心配になって、やはり三年ぶりに「蒔野聡史」という名前を検索してみた。ウィキペディアの更新も滞っていたが、一ページ目の途中に出てきたクラシック専門誌のサイトには、この春からスタートしたというコンサート・ツアーについてのインタヴュー記事が出ていた。  久しぶりに写真

『マチネの終わりに』第八章(18)

 この日も朝から強い日差しが照りつけていて、洋子は汗ばみながら、急いで当日券売り場に向か…

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『マチネの終わりに』第八章(25)

 確かに、蒔野のコンサートには、行くべきではないのかもしれなかった。そして、離婚前後から…

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『マチネの終わりに』第八章(27)

 そして、洋子はもう一度、心の中で呟いた。――なぜなのかしら?……  早苗に尋ねたいので…

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『マチネの終わりに』第八章(46)

 友人として、洋子の自立に協力したいというリチャードの言葉に嘘はないと感じたが、同時に、…

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『マチネの終わりに』第九章(5)

 復帰リサイタルが、こうした状況であったことは、蒔野の感情を複雑に高揚させた。固より克服…

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『マチネの終わりに』第九章(9)

【あらすじ】蒔野(まきの)は妻の早苗から偽メールの件を告白されたが、いとしい娘が誕生した…

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『マチネの終わりに』第九章(10)

 洋子の人生も、もう随分と先へと進んでいるのだと蒔野は思った。彼女の存在が、震災後の自分の音楽活動にとって、どれほどの支えになっていたかを、本人に知らせる術はなかった。世界のどこかで、自分の新しいバッハを聴いているかもしれないという期待はあったが、別れの経緯を思い、彼女の現在の活躍を目にすると、それも望むべくもなかった。  蒔野は、別れの日以後、初めて洋子の名前を検索してみて、彼女が現在所属するNGOのサイトも確認した。難民局はジュネーヴにあるらしく、今はもう、NYには住ん