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平野啓一郎|小説『ある男』

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平野啓一郎の最新長編小説『ある男』。愛したはずの夫は、まったくの別人であった。「マチネの終わりに」から2年。平野啓一郎の新たなる代表作! ーー
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2018年9月の記事一覧

ある男|19−5|平野啓一郎

城戸は、彼女の至極当然のように語ったその愛についての考えに感動していた。 「そうですね。…

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ある男|19−4|平野啓一郎

その後は、しばらく二人とも黙っていた。 美涼は、「城戸さん、何かすることあったらしてくだ…

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ある男|19−3|平野啓一郎

美涼は、それとなく窓の外を見遣って、しばらく続いた殺風景のあと、遠くに富士山が見えるのを…

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ある男|19−2|平野啓一郎

それから美涼は、「谷口大祐」名義のフェイスブックの偽アカウントも、恭一にしつこく言い寄ら…

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ある男|19−1|平野啓一郎

城戸は、美涼と連絡を取り合い、名古屋行きののぞみは、隣同士の座席にした。 彼女は東京から…

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ある男|18−5|平野啓一郎

「はい。伝えておきます。」 「それから、依頼人は、谷口恭一には、この連絡先を決して教えな…

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ある男|18−4|平野啓一郎

単刀直入に「曾根崎義彦さんの代理人をされてるんですよね?」と尋ねると、「……はい。」とあっさり応じた。 城戸は、拍子抜けしつつ、あまりに頼りないので、ひょっとすると本人ではなく、友達か何かなのだろうかと今度は逆の疑いを持った。 「ご連絡しました通り、谷口大祐さんが三年前に亡くなられたんです。それで、奥様が、生前のことで知りたがっていることがありまして。」 「谷口……さん、は、……結婚してたんですか?」 「はい。お子さんもいらっしゃいます。」 「奥さんは、何をしてる人

ある男|18−3|平野啓一郎

Yoichi Furusawaからは、翌日の午前二時過ぎに返事が来た。寝ていた城戸は、朝になってフェイ…

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ある男|18−2|平野啓一郎

美涼のメッセージは、最後に、「城戸さんはお元気ですか?」という、平凡だが余韻のある問いか…

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ある男|18−1|平野啓一郎

城戸が担当した過労死事件の民事訴訟は、二月十五日に和解が成立し、被告の居酒屋チェーンとそ…

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ある男|17−5|平野啓一郎

城戸は、彼女を見つめて、少し頬の強ばりを解いた。今この場で、何かを解決しなければならない…

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ある男|17−4|平野啓一郎

城戸も、少し表情を和らげて静かに言った。 「まず、これまで何度も言ったけど、俺は浮気はし…

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ある男|17−3|平野啓一郎

CMに入ったタイミングでテレビを消すと、先ほど来、考えてきたことを反芻して、自分は間違っ…

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ある男|17−2|平野啓一郎

城戸はとにかく、カテゴリーに人間を回収する発想が嫌いで、在日という出自が面倒なのも、それに尽きていた。当たり前の話だが、在日の中にも、善人もいれば悪人もいて、またその善人の中にも嫌なところがあり、悪人の中にも、恐らくは彼の知らない善いところがあるのだった。 リョーヴィンが、コズヌィシェフを「兄にせよその他多くの社会活動家にせよ、けっして心の声に導かれて公共の福祉への愛に目覚めたのではなく、その仕事に携わるのが良いことであると理性によって判断し、ただそれゆえにその仕事に携わっ