ある男|17−2|平野啓一郎
城戸はとにかく、カテゴリーに人間を回収する発想が嫌いで、在日という出自が面倒なのも、それに尽きていた。当たり前の話だが、在日の中にも、善人もいれば悪人もいて、またその善人の中にも嫌なところがあり、悪人の中にも、恐らくは彼の知らない善いところがあるのだった。
リョーヴィンが、コズヌィシェフを「兄にせよその他多くの社会活動家にせよ、けっして心の声に導かれて公共の福祉への愛に目覚めたのではなく、その仕事に携わるのが良いことであると理性によって判断し、ただそれゆえにその仕事に携わっ