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平野啓一郎|小説『ある男』

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平野啓一郎の最新長編小説『ある男』。愛したはずの夫は、まったくの別人であった。「マチネの終わりに」から2年。平野啓一郎の新たなる代表作! ーー
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2018年8月の記事一覧

ある男|13−4|平野啓一郎

城戸が見ていたのは、Bが描いたヌードのイラストではなかった。その隣に展示されている、先ほ…

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ある男|15−5|平野啓一郎

「かわいそうでしたよ、マコトは。」 柳沢は、懐かしそうな、遣る瀬ない表情で、しばらく何か…

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ある男|15−3|平野啓一郎

原誠も、この寂れたジムで、毎日こんな孤独な練習を続けていたのだろうかと、城戸は想像した。…

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ある男|15−2|平野啓一郎

「いつ頃ですか、彼がこのジムに通い始めたのは?」 「九五年の春ですよ。阪神淡路大震災と地…

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ある男|15−1|平野啓一郎

年末年始は、例年通り、大晦日を近所の香織の実家で過ごし、年が明けてから金沢の城戸の実家に…

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ある男|14−5|平野啓一郎

年の瀬も迫った十二月二十九日に、城戸は小見浦に会うために、再び横浜刑務所まで足を運んだ。…

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ある男|14−4|平野啓一郎

「じゃあ、ちょっと、質問を変えますが、小見浦憲男さん、ご存じですか?」 「はい。」 「──知ってる?」 城戸は、その「はい。」が何を意味しているのか、確認するように尋ねた。男は、きっぱりとした態度で、「はい。」とまた言った。 「その小見浦さんが、戸籍の交換を仲介されたんじゃないですか?」 男は、門崎の方を見て、喉に詰まっている言葉を呑み込むべきか、引っ張り出すべきなのかを無言で尋ねた。 「言ってもらって大丈夫ですよ。その方が、わたしも力になりやすいですし。本当に、

ある男|14−3|平野啓一郎

小見浦と会って、城戸は、それまでは、単に恭一の妄想ではないかと思っていた、〝X〟の重大犯…

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ある男|14−2|平野啓一郎

城戸は、〝X〟という男は、小林謙吉の息子なのではないかと考えているのだった。つまり、彼こ…

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ある男|14−1|平野啓一郎

杉野によると、小林謙吉には、誠という名の一人息子がいて、今は離婚した母親の「原」という姓…

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ある男|13−5|平野啓一郎

杉野は、まったく表情を変えることなく頷いて応じた。川村のことは、以前から知っている様子だ…

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ある男|13−3|平野啓一郎

イヴェントの時間が迫っていたので、城戸は、入り組んだ展示の壁に沿って、人を避けながら、残…

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ある男|13−2|平野啓一郎

色紙大の絵が、十点ほど展示されている。城戸は、前を行くカップルに続いて、全体が黒く塗り潰…

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ある男|13−1|平野啓一郎

城戸はその日、東京地裁で仕事を一つ済ませた後、渋谷の東急デパートの脇にある小さなギャラリーを訪れていた。クリスマスを三日後に控えて、街はいよいよ浮き足立った雰囲気だった。 杉野という名の友人の弁護士が、死刑廃止運動に熱心で、確定死刑囚の公募美術展に携わっており、その案内を貰っていた。 城戸は、死刑制度には反対だが、廃止運動に直接関与したことはなく、死刑が求刑されるような刑事事件を担当した経験もなかった。どちらかというと、小見浦が刑務所から送ってきた珍妙なハガキを見て以来、