ある男|13−1|平野啓一郎
城戸はその日、東京地裁で仕事を一つ済ませた後、渋谷の東急デパートの脇にある小さなギャラリーを訪れていた。クリスマスを三日後に控えて、街はいよいよ浮き足立った雰囲気だった。
杉野という名の友人の弁護士が、死刑廃止運動に熱心で、確定死刑囚の公募美術展に携わっており、その案内を貰っていた。
城戸は、死刑制度には反対だが、廃止運動に直接関与したことはなく、死刑が求刑されるような刑事事件を担当した経験もなかった。どちらかというと、小見浦が刑務所から送ってきた珍妙なハガキを見て以来、