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平野啓一郎|小説『ある男』

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平野啓一郎の最新長編小説『ある男』。愛したはずの夫は、まったくの別人であった。「マチネの終わりに」から2年。平野啓一郎の新たなる代表作! ーー
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2018年7月の記事一覧

ある男|11−2|平野啓一郎

普段は閑散としている古墳群公園の駐車場も、この日は県内外の様々なナンバーの車でいっぱいだ…

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ある男|11−1|平野啓一郎

十月最後の日曜日の午後、里枝は、母と悠人、それに花と連れ立って、例年よりも少し早目の満開…

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ある男|10−5|平野啓一郎

十日後に、改めて面会した小見浦は、「手土産」の礼を言い、雑誌に載っていたヌード・グラビア…

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ある男|10−4|平野啓一郎

面会時間が残り十五分ほどになったところで、城戸は堪らず口を挟んだ。 「すごく面白い話です…

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ある男|10−3|平野啓一郎

横浜刑務所は、「再犯者など犯罪傾向が進んでいる」B指標の受刑者と「日本人と異なる処遇を必…

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ある男|10−2|平野啓一郎

それから、事務所のソファで、コーヒーを飲みながら二人でしばらく戸籍の歴史について雑談をし…

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ある男|10−1|平野啓一郎

里枝から相談を受けて以来、既に十ヶ月以上が経過していたが、城戸の〝X〟の身許調査は、完全に行き詰まっていた。美涼たちがやっているフェイスブックの偽アカウントの方も、あまり期待できそうになかった。彼自身が、長時間労働の過労死事件の訴訟など、このところ多忙で、気にはなっているものの、里枝の戸籍訂正の手続きが完了したところで、一段落ついて、先に進み倦ねていた。 そんな矢先に、ひょっとすると、という手懸かりらしきものに逢着したのは、事務所で交わした中北との雑談だった。 中北は、東

ある男|9−5|平野啓一郎

「美涼さんは、実践してますよ、僕よりも。フリーランスで働いて、夜はバーでカクテル作って。…

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ある男|9−4|平野啓一郎

美涼は、特に驚くような顔はしなかったが、自分のこれまでの言動を振り返っている風の目をした…

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ある男|9−3|平野啓一郎

美涼とはその日、みなとみらい駅で十一時の待ち合わせだった。 オフショルダー気味のルーズな…

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ある男|9−2|平野啓一郎

彼は続けて、当時の契約書や退居時の書類に、大祐の電話番号や転居先の住所が載っていれば教え…

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ある男|9−1|平野啓一郎

十月に入ると、城戸の許に、思いがけず美涼から連絡があった。 みなとみらいの横浜美術館で開…

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ある男|8−5|平野啓一郎

妻がそんな風になったのは、明白に出産後のことで、その傾向は、東日本大震災後に一層強くなっ…

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ある男|8−4|平野啓一郎

城戸は、国境なき医師団やユニセフに継続的に寄付を行っているが、そうした〝社会的な優しさ〟とでも呼ぶべき態度を、香織も以前は「弁護士らしい」と笑って眺めていた。が、近頃では、その考え方の違いに、互いに不愉快なものを感じるようになって、話題にしなくなっていた。  妻の考えが、城戸にはよくわかっていた。  世界中で、この瞬間にも、刻々と人は死んでいる。それに一々、心を痛めるのかと言えば、彼とてそこまで無闇な感受性を備えているわけではなかった。  自分の死は恐ろしい。知っている