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ずいぶん遠回りをしてきたけど、岡崎京子さんの世界の先へ向かう。

岡崎京子さんは言うまでもなく「Pink」と「リバーズエッジ」なんだけど、1990年前後の時代の空気を現している作品に「ハッピィ・ハウス」がある。Kindle unlimited になっていたので読み返してみたら、あの頃の匂いまでがそのままに蘇ってきた。

結局、家庭を起点とする共同体が壊れた世の中で僕らはそれぞれ頑張ってみたけど、うまくいかなかったな、と思う。結局「失われた◎十年」って経済の話なんかではなく、人間の関係性のことだよな。そこに立ち戻るまでにずいぶん遠回りをしたし、壊れ切るのに時間がかかったけど、ようやくコロナ禍を経て「やり直し」が始まるわけだ。それは回復ではなく、まったく新しい形になるのだろう。それを何人かの言葉を繋ぎ合わせて表現するなら、「リモートでつながりっぱなしのライブ空間に参加して生きること」になる。それはまったく予想もつかないが、きっともうひとつの新しい人生を生きるくらいの感覚になるだろう。そんなタイミングに立ち会う僕らは表現者としてものすごくラッキーだ。

岡崎さんは常日頃、音楽のような漫画を描きたいと言っていた。その感覚をもっと知りたい僕は岡崎さんを追いかけて下北沢に10年暮らした。今はなきドトールで人と待ち合わせしたり、本多劇場のマンションの上から朝焼けを眺めたりもした。彼女が感じる時代の空気を自分も感じたくて仕方ない20代だった。冬、息をするだけで歯が痛くなる寒さの中で一番街の開かずの踏切を待ち続けた日のことや、夏の通り雨の後の茶沢通りのアスファルトの匂いを今も昨日のことのように思い出す。

僕は音楽も漫画もかけないけど、ソフトウェアやサービスもしくは文章で、今を生きる一員としてこの時代の感覚を思いっきり表現したい。その気持ちは、今も強くあの頃とまったく変わらずに心の奥で熱を帯びている。

ハッピィ・ハウス
https://www.amazon.co.jp/dp/B00DIXIG0M/ref=cm_sw_r_cp_api_glt_EXN8B70TKY9FQFNBDDF3


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