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デジタル社会の目指すものとは

2020年12月「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」が閣議決定されました。その中でビジョンとして以下が示されています。

デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合った、サービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会
~誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化~

デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針

それを踏まえ、2021年6月に「デジタル社会の実現に向けた重点計画」が決定され、同時にデータ戦略も決定されています。

そして2021年9月のデジタル庁の発足時に、組織のミッションとビジョンが公表されています。

ミッション
誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化を。
一人ひとりの多様な幸せを実現するデジタル社会を目指し、世界に誇れる日本の未来を創造します。

ビジョン
Government as a Service
国、地方公共団体、民間事業者、その他あらゆる関係者を巻き込みながら有機的に連携し、ユーザーの体験価値を最大化するサービスを提供します。
Government as a Startup
高い志を抱く官民の人材が、互いの信頼のもと協働し、多くの挑戦から学ぶことで、大胆かつスピーディーに社会全体のデジタル改革を主導します。

デジタル庁Webサイト

最近では、2021年12月に改訂した「デジタル社会の実現に向けた重点計画」で、「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化を」を掲げ、タイトル画像で「デジタルの活用で一人ひとりの幸せを実現するために」とメッセージを出しています。

表現は前後しているものの、一貫して「一人ひとりの幸せ」に注目していこうとしています。

データという視点からどう取り組むのか

データ戦略では、この全体ビジョンを達成するための土台を作っていく必要があります。「一人ひとりの幸せ」を達成するとはどういうことでしょうか。自己実現や活躍ができ、無駄な作業などをしなくてよく、困難に直面した時にサポートが得られるということでしょうか。しかも、誰もが参加・挑戦できることや、自分で選択できることも重要です。また、それを支える社会や経済も必要になります。

ビジョン実現に向けた取り組みは、2021年12月に改訂した「デジタル社会の実現に向けた重点計画」の中で強い意志を持って表現されています。

デジタルの可能性を最大限に引き出すことは、一つ一つの産業の成長はもとより、我が国経済の持続的かつ健全な発展と国民の幸福な生活の実現の上でも不可欠といえる。すなわち、デジタルの力によって、場所を問わず、年齢を問わず、国民一人ひとりが多様な選択肢を持ちながら質の高い生活を送ることができ、ライフステージに合った最適なサービスを選択することのできる社会の実現が可能となり、さらには、自然災害や感染症等の事態に対して強靱な社会の実現が可能となる。逆にいえば、今、覚悟を決めてデジタルを最大限活用して課題解決を図らなければ、我が国が世界最先端のデジタル国家になることはおろか、世界に伍していくことももはや不可能というマインドセットへの転換を図る必要がある。
加えて、少子高齢化や地域の人口減少が進む我が国においては、データを智恵・価値・競争 力の源泉であるとともに、課題先進国である日本の社会課題を解決する切り札と位置付ける。 また、デジタルによる国や地方公共団体の情報システムの刷新に加えて、デジタルに合致していない規制・制度、行政や人材の在り方も含む本格的な構造改革を行う必要がある。

デジタル社会の実現に向けた重点計画

チャレンジする基盤としてのデータ環境

社会には様々なチャレンジをする人がいます。新ビジネスを始めようとしたときに、マーケット分析を簡単かつ詳細にするためのデータ、起業にあたって活用できる支援制度、必要な人材等の様々な情報が必要になります。また、データを使ったサービスを行うなら、データが安定的に環境されることが重要になります。ビジネスをスタートするときに、思考を中断することなく、必要なデータが容易に入手できる社会、地域を目指します。

また、ビジネス開始する人、自分の専門分野を強化したい人には、自由に学べる環境が求められています。これらの教材やコースの情報を見つけやすくするデータ環境も求められています。

そのためには、世界中のオープンデータサイト、様々な検索エンジン、Wikipediaのような知識の蓄積、MOOCのような勉強できる仕組みが既に提供されています。一方で、まだまだ完璧な状況とは言えません。皆さんの周りを考えてみてください。あなたが何かしようとしたときに、地域の情報が簡単に入手できますか?必要な知識は簡単に手に入りますか?情報が手に入るとして、それは編集しないでそのまま使えますか?継続的に手に入りますか?自分の力を最大に伸ばしたいときに十分な環境ですか?

これらに応える一人ひとりのチャレンジを支えるグローバルに通用するデータ環境を実現していきたいものです。

社会活動をスムースにするためのデータ環境

「一人ひとりの幸せ」を考えると、全員がチャレンジしているわけではありません。ストレスない普通の毎日を過ごしたい人もたくさんいます。データを自ら使うというよりも、データを使ってサービスを高度化してほしい人たちです。
皆さん、ムリ、ムラ、ムダは嫌ですよね。
渋滞したくない、申請などに何度も住所を入力したくないという身近な課題から、相続などの時に簡易に手続きをしたいという要望まで、社会生活全般でのスムースさを求めています。

すでに、買い物サイトで自分の住所や決済方法を登録している人も多いと思います。SNS連携を使ってサービス間で個人に関する情報を複数サービスで共有している人もいます。皆さん便利になるからこのようなデータの登録や連携を既に始めています。

ライフログといった様々な個人の情報をためていこうという取り組みも始まっており、個人情報を安全に管理するパーソナル・データ・ストア(PDS)や情報銀行の議論も始まっています。

個々の情報の安全管理は重要ですが、これらの情報を匿名化して社会課題の解決に使うことも行われ始めています。例えばスマートフォンの移動データは既に人流データとして活用が始まっています。皆さん気が付かないうちに社会の課題解決に参加しているのです。

水道や電気のように利用する人が意識しないで安心して使えるデータ環境の整備が進んできています。これからも様々な場面で、社会課題解決にデータが使われていくことが期待されています。

困った人を支えるためのデータ環境

ITとかデジタルにかかわると皆さんが重視するのがデジタル・デバイドです。デジタル技術が活用できる人とできない人で差が開いてしまうという指摘です。確かに、0歳から100歳の人にスマートフォンを渡して、これで何かをしてくださいと言ったら難しいと思います。
でも、一昔前に比べて、相当環境は変わってきています。デジタル・デバイドの象徴ともいえる機器が使えない問題ですが、キーボード入力、厚い専門的マニュアル、複雑な配線の時代は難しかったと思います。
一方今では、AIスピーカーのように音声入力、AIによる対話、手書き文字認識、タッチスクリーン、翻訳などの様々な支援の技術やサービスがあります。さらにUIの改善によりマニュアルなしで直感的に使えるようになっています。
また、介護をしている支援者がデジタル機器の情報をもとにサポートをする間接的な支援も増えています。熊本の震災の時にも高齢者だけの避難所がありましたが、一人が持っていたスマートフォンにより情報を収集し、みんなで情報を共有して安心できたという話を聞いています。

デジタル・デバイドではなく、デジタルサポートへと時代は変わってきているのではないでしょうか。前向きにデジタル機器、またデータの活用を考えていくことが重要になってきています。

一方で、所得の差によるデジタル・デバイドは依然として大きな問題です。今や仕事を探すにもスマートフォンなどのデジタル機器が必要といわれています。公共施設等へのフリー端末の設置によるハード的な支援は行われています。そこでさらに一歩踏み出すためにはデータ面からの取り組みも可能です。求人情報などを容易に手に入る仕組みを提供するとともに、ベース・レジストリの一環で支援制度の情報を国、自治体で一元的に検索できるサイトを整備中です。チャレンジする基盤にも書きましたが、デジタル・デバイド対策としても、誰もが勉強できる教材やコースの情報を提供していくことが重要になります。

「一人ひとり」に必要な情報やデータを届けるには、デジタルだけではなく人による支援も組み合わせた総合的なとりくみができるような、本人だけでなく支援者の利用も想定したデータ環境が必要になります。

パーソナライズと個人情報

「一人ひとり」という言葉は、響きは良いですが、実際に実現するには様々な取り組みが必要になります。各人に関連した情報を全て届けるという方法では情報の洪水が起きてしまいます。そこで、個人の状況に基づいてピンポイントで情報を届けてほしいという要望があります。しかし、そのためには情報を選別するための個人プロファイルを事前に登録してもらうか他機関と連携する必要があります。でも、そこで個人情報を入力したくないという人も出てきます。これは、ある意味、相反する要望です。

ここで「選択できる」ということが重要になります。各利用者がオプトインで情報利用に参加する、もしくは、オプトアウトで情報利用をしないという選択です。多くの人がネットショッピングをするときに、会員登録として個人情報を登録する場合と、ゲストの一回利用で個人情報を登録しないで利用するのを使い分けるのと同じような考え方です。利便性と安全性を考慮して選択が行えるように、サービス提供者には十分な情報の開示が必要になってきています。

また、パーソナライズの要望ではプッシュでサービスを提供してほしいという要望もあります。しかし、プッシュを行うためには事前の情報登録が必要になります。個人の情報を登録せずにパーソナライズした情報を収集するためにはRSSやAPIを活用してデータをプルする方法もあります。サービスの内容や登録情報の内容に応じて、プッシュ型、プル型のサービスを選択していくことも今後は重要になると考えられます。

一人ひとりを支えるのはUI/UXか

一人ひとりを支えるため、みんなが使えるUI/UXやアクセシビリティが注目されています。一方で、行政サイトはAPIが重要との声があります。
もちろんサイトを作るならUI/UXは重要です。しかし、限られた予算と時間の中で様々な利用者に使いやすいUIを作っていくことは難しいです。そこで最近の行政システムでは、データをきちんと設計して、UIはできるだけシンプルにしたうえでAPI活用を前提にサイトの整備を行う方式も取られます。APIを提供することで、APIを使って民間がより使いやすいサイトを作ってくれることを期待しています。

行政は情報の整備、民間はUIの向上や関連サービスとの組み合わせなど、行政と民間の得意分野を活かすことができます。

また、行政には基本情報の整備としてまだまだやるべきことがたくさんあります。UI以前に日本語の説明が分かりにくいという指摘が多く、データ分類のためのタグの設計もバラバラです。このような基礎データ自体の整備などに注力する必要があります。

「誰にも使いやすい」ということを追求するには、このような官民で役割分担したアプローチも有効だと思います。

「一人ひとりの幸せ」をグローバルな展開へ

「一人ひとり」に注目するのですが、それをグローバルな視点で見ていくことも重要ではないでしょうか。「一人ひとりの幸せ」は世界全体で共有できる目標です。「一人ひとりの幸せ」を追求したサービスを輸出するくらいの意気込みが重要だと思います。
日本は、アナログ時代から「おもてなし」等のソフトサービスが充実しています。また高齢社会に向けた様々な取り組みがあります。これにデジタル時代の「一人ひとりの幸せ」を追求したサービスと組み合わせていくことになりますが、それを支える誰もが意識しないで使えるデータ環境を作っていきたいものですね。


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