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「その人らしい生き方」を叶える-宮崎・延岡「縁・在宅クリニック」

「縁・在宅クリニック」は、延岡市で在宅医療(訪問診療)を提供するクリニックです。「その人らしい生き方」を叶えたいと、延岡・島野浦出身の岩谷健志医師が2022年に開業しました。

クリニックの一日は、前日夜間から朝までに患者さんにどういう変化があったか、ないかの申し送りや、当日訪問する患者さんの状態を共有する「カンファレンス」からはじまります。ひとりひとりの患者さんのデータをスタッフで共有し、患者さん本人やご家族がいまどのような状態にあるのか確認していきます。

30分ほどのカンファレンスを終えると、実際に訪問診療がはじまります。ひとりの医師にひとりの看護師がペアになって患者さん宅へ向かいます。この日、私は岩谷医師と尾﨑由紀江看護師のお二人に同行させてもらいました。午前中いっぱいを使って5~6件の患者さん宅を回ります。

当然のことながら患者さんひとりひとりはそれぞれ別々の背景を持っています。末期の胃がんを患い、余命数カ月と宣告されながらもご家族の支えを受けて在宅で1年半以上過ごしている方。間質性肺炎といって、肺胞の壁に炎症や損傷を抱えている方。末期の肺がんを患いながらも、お出かけを楽しみにしている方。みなさんいずれも「おうちで過ごしたい」と希望されて縁・在宅クリニックの訪問診療を利用しています。

この日訪れたAさん宅では、食べることが大好きなAさんに岩谷医師はゆっくりと優しくはっきりとした口調でこう声かけをしていました。

「診察の結果、なんでも食べて大丈夫です」
「どこかきついとか痛いというときは言ってくださいね」
「また来ます。おいしいもの食べてください」

高齢のAさんを献身的に介助し支える娘さんは、訪問の間、終始明るく振る舞っています。診療が終わってAさんの寝ている部屋を離れ、玄関まで見送ってくれた娘さんに岩谷医師は笑いながら優しく声をかけました。

「先に倒れたらダメですよ」

訪問診療では、患者さんを支えるご家族にも気を配ります。ご本人と離れたときにふと見せる表情や吐き出す言葉を岩谷医師は見逃しません。「少しでも吐き出せるきっかけを作りたい」と話してくれました。

次に訪れたBさんは、化学物質が好きでなく、自然のものを愛する人です。病院は嫌いで、西洋医学の処方薬も飲まないという意志があります。みなさんはそういう人がいたら、医療者はどのようにかかわると思いますか。無理やり薬を飲ませるでしょうか。それとも諦めて見放すでしょうか。岩谷医師は、「顔を見に行ってお話を聞くことで、医療と生活をゆるくつないでいます」と話してくれました。

Bさん宅で血圧測定などをした後、このような会話がありました。

Bさん「食べ物がまずい。おいしいものしか食べたくない」
尾﨑看護師「うちの近くにね、けっこうきれいなサド(イタドリ)が出るんですよ」

Bさんはサドが大好きで、昨年も尾﨑看護師が採ってBさんに届けたそうです。

尾﨑看護師「毎年持ってきますね。野のアザミとかですよ、見たいお花があったらそれも持ってきますよ」

この場に同席して、私はあたたかいものが胸に込み上げてくるのを感じました。岩谷医師も尾﨑看護師も医療を通して、人のあたたかさ、愛情を届けているのだなと感じました。そこにあるのは徹底した患者さん目線の姿勢です。

こうした姿勢はいったいどのように培われてきたのでしょうか。私がそう問いを投げたところ、岩谷医師は「幼い頃から離島で育って、島にこういう医師がいたら、という理想があった」と話してくれました。そうはいっても、実際に医学部へ進学し、現場で働く中でたくさんの葛藤を抱えたことでしょう。あくまでも患者さん目線に立とうとする岩谷医師や尾﨑看護師の姿勢に、尊敬の念を抱くばかりです。

また岩谷医師は訪問診療にはじめて伺う際に患者さんに対して「2つの質問」をすると話してくれました。一つは、患者さんが「困っていること」を尋ね、それに対してアプローチすること。もう一つは、患者さんが「おうちでやりたいことや楽しみにしていること」を訊くこと。ややもすると、医療側の思惑と患者さんの希望がずれてしまうこともあるので、あくまで患者さんの「その人らしい生き方」ができるようにと、この2つを大切にしているそうです。延岡にこのような医療機関があることは、大変心強いですね。

この記事を読んでくださったあなたの胸に「在宅医療」という選択肢ができて、延岡にもこのような素敵な医療機関があることが伝わったなら、私もうれしいです。

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