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「eスポーツ」を授業に導入するメリットとデメリットについて

私が働く通信制高校のサポート校では今年から授業に「eスポーツ」を導入します。

昨年「eスポーツ入門」という時間を設けるなど準備をしてきて、満を持しての導入です。

やるからには大会に出られるレベルまで、とスタッフや生徒は意気込んでいますが、当初、私はあまり乗り気ではなく、今も不安を抱えたまま見守っています。

そんな私がスタッフの立場から考えたことをみなさんに共有したいと思います。

当初、これは自分の考えの整理のために書いたものでしたが、下記ニュースを見て、公開してみることにしました。

(※これは私見であり、私の勤務校および連携校の見解ではありません。)

「eスポーツ」を授業に導入するメリット

「eスポーツ」を授業に導入するということは、生徒たちが堂々とゲームに取り組めるということです。

これまでどちらかというと大人から白い目で見られることの方が多かったゲーム。

今はオンラインゲームも発達しているため、自宅の自室にてずっと一人でゲームをしている子どもたちも多いようです。

不登校や引きこもりとも隣り合わせ。

そうなると不安がいっぱい、と私たち大人はついデメリットばかりに目がいきがちですが、ここではひとまずメリットについて考えていきましょう。

私の勤務校では「チーム戦」として「eスポーツ」に取り組む予定ですので、今回は「チーム戦」に的を絞って考えてみたいと思います。

「チーム戦」となると、そこにはコミュニケーションが発生します。

チームで戦術を考えたり、チームとしての方針を話し合いで決めたりするには仲間とのコミュニケーションが不可欠です。

戦術を考える際に調べる力論理的に考える力が身につく可能性もあります。

自分の考えを相手に伝える力や、自分とは異なる考えを聞いて受け入れる能力が育まれるかもしれません。

そういった過程を経て大会に出場するとなると、「部活動」を通じて学ぶような「チームワーク」の経験も積めます。

役割分担が発生したり、自分の強みや弱みを理解する機会、また仲間のそれらを知る機会も得られます。
責任感を持って物事を遂行する能力が身につくかもしれません。

何よりゲームは子どもたちにとって「好き」なことなのです。

やりたくないことを嫌々やるよりも、自ら進んで主体的に取り組むことで、「好き」に没頭することならではの体験ができることでしょう。

その過程が達成感自信につながっていくことも十分あり得ます。

「eスポーツ」は身体的に障害があるなど体を動かすスポーツに取り組むことが難しい人ににも活躍の場を与えられる、というダイバーシティの観点からも注目されています。

運動部に所属できない生徒も今まで述べてきたような部活動で得られる経験と同じことを経験できる、というメリットもあるのです。

子どもたちは放っておいてもゲームをします。
依存を疑われるくらいなら尚のこと。

だったら授業としてチームで取り組む機会をつくれば、得られるメリットが大きくなる、ということです。

「eスポーツ」を授業に導入する不安要素

とはいえ、メリットしか見ないようでは私たちは満足できません。
それは果たして大人の責任としてどうなのか、という疑問も湧きます。

そこで今度は不安要素、つまり想定されるデメリットを洗い出してみたいと思います。

まず何より心配なのは、「ゲーム依存」を加速させてしまうのでは、ということだと思います。

ゲームに限らず心の隙間をついて入ってくる「依存」は一旦なってしまうと厄介です。

脳の性質が変わってしまうので、一度なってしまうとそこから脱するにはやめ続けるしかない、という恐ろしいものです。

しかし一つ言えるのは、対象の生徒が「ゲーム依存」かどうかは一般人には判断できない、ということです。

もしかしてゲーム依存なのでは、という視点を持つことは大事です。
しかしあくまでその判断は専門家に任せるべきです。

本人が治療をしたいと望んだとき、ゲームをやめたいのにやめられないと悩んでいるときのために専門家につなぐ道筋を知っておくことは重要です。

このように、自分ができることとできないことを明確にすることは重要です。

【参考】

「インターネットゲーム依存症を知る」

依存症かどうかの判断がつかなかったとしても、目の前にいる子どもたちが「ゲームにのめり込んでいる」という状態は身近な大人も本人も認識できることです。

そして何かにのめり込むには原因があります

それがいいか悪いかの判断は一旦保留にした上で、根本原因を考えてみるのはいいでしょう。

何かにのめり込んでいるのには、それが単純に「おもしろい」ということの他に「何か目を背けたいものがある(かもしれない)」ということがセットで考えられます。

もちろんそれを掘り下げるかどうかは本人次第なので、そこは本人に任せるとして(私は何事も本人が自発的に取り組むことが一番だという考えです。)、「何か目を背けていることはないだろうか。」という視点を大人と子どもの双方が一度は持ってみることが大事です。

そこから大事なものが見えてくることが往々にしてあるのではないでしょうか。

また、「もしゲームにのめり込んでいなかったら何をしているだろうか。」と考えてみるのもいいかもしれません。

私が本当にやりたかったり関心があったりすることは何だったんだっけ、と問い直す作業です。

その上でやっぱりゲームに一番時間を注ぎたいと思うのであればそれでいいし、そうでなければ何か考え直す必要のあることがあるはずです。

親が心配するのは「生活や学業に支障が出るのでは。」という面ではないでしょうか。

これも「こうであるべきだ。」という前提は可能な限り取っ払って、あくまで本人視点で「困っていることはないか。」と考えると良いのではないかと思います。

その時に、
過去に困ったことはあるか。」
いま困っていることはあるか。」
この先この状態が続いたらどんなことが起きるだろうか。」
時間軸で考えるのも一つではないでしょうか。

親が一番心配しているのは
「ゲームばっかりやってて将来生きていけるのか?」
ということだと思います。

ぶっちゃけ働けるの?
就職できるの?
ということです。

「eスポーツ」のプロ選手はeスポーツに取り組む人の内ほんの一握りです。それはおそらく本人も親も知っていることでしょう。

しかしこのことについては、先のことは考えすぎないことだ、と私は思っています。

将来や未来がどうなっているか、誰にも分かりません。

本人にこの先何が起きてどんな変化が起きるのかも分かりません。

だから結局は「いま」が大事です。

私はゲームをしていて「いま」の充足感が得られる人間ではないので感覚が分からないのですが、何より幸せなんだ、という人がいるならそれも否定されることではないでしょう。

大切なのは、本人が「いま自分は充足感を感じているだろうか。」と自分に問うてみることではないでしょうか。

「eスポーツ」導入に積極的になれないスタッフの立ち位置

以上のように「eスポーツ」を授業に導入するメリットとデメリットについて見てきました。

いずれも大前提としてあるのは、「生徒(子どもたち)にとっていいことは何か。」ということです。

保護者やスタッフの意見の押しつけがあってはならないし、思い込みや先入観で決めつけて生徒をコントロールすることも望ましくない、と私は思います。

それを前提として、学校として「eスポーツ」を授業に導入する、という方針が決まったときに、それに全面同意できないスタッフができる役回りは二つあると私は考えます。

一つは私が決めていることで、見守りつつ自分は別の役回りをする、というものです。

私には私の考えがありますが、それは万人にとって絶対にいいものではありません。

だったら、やってみてもいいではありませんか。
やってみてどうなるか、見守るという立ち位置もアリです。

そして自分が心から賛同できないのであれば、自分はゲーム以外の関心を引き出す役回りに回れば良いのです。

何でもそうですが、物事に全面同意出来なくてもコミットできる方法はあるのです。
学校に対しても生徒に対してもそうです。

否定する、という方法だけでなく、自分の立ち位置でできることは何か、という発想を持つことで、自分が楽になれるし、学校や生徒にもいい効果が期待できる気がします。

もう一つ、話し合うということも大事な選択肢です。

私が1と2に書いたようなメリットとデメリットの一つ一つについて、生徒本人・保護者・スタッフの三者で一つ一つ丁寧に問うてみる。

それぞれが問うて考えや気持ちをシェアする、というものでもよいでしょう。

必ずしも結論が出なくとも、方針が定まらずとも、立場の違う者同士で多角的に検討することは、良いことだらけでしょう。

大事なことは決めつけない事です。

話し合いの過程だけでも、自分を知り、他者を知って尊重する、素晴らしいきっかけになるのではないでしょうか。

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