チョコレートバースデー
「先輩あさって誕生日ですよね」
「すごいね、よく覚えてたね。明日だよ」
「うわ、まちがってた!まあいいや。なんでも一つだけお菓子を買ってあげます。プレ誕生日プレゼントです。」
「これはどうも」
「ひとり300円までです」
「そういやさ、昨日たまたま大学生のときに初めて一人で海外行ったときのメモ書きが出てきたのよ。タイなんだけどね」
「へえ。5年以上前ですか」
「そう。それがすごい汚い字で何ページも書いてあって、当時一人ぼっちで海外にいることがめちゃめちゃ不安だったことが文面を通して伝わってきて、何かすごい共感できた。」
「そりゃまあ自分ですからね」
「でもさ、当時の僕は新しいことに挑戦したいと思って、できるだけ安いチケット探して、対して目的もなく、ただ新しい経験がしたくて、自ら不安の中に飛び込んでいったわけじゃん。」
「かっこいいこと言いますね」
「今、『旅行に行きたい』って言ったら、イコール、休みたいとか仕事から逃げたいとかって意味しかないじゃん。おじさんになったなあと思ってよ」
「なるほどですねー。あ、これおいしいですよ。コーヒーに合う!的なビスケットです。」
「まじで買ってくれるのか。ありがとう」
「おやすいごようですよ!私はチョコにしようかなあ」
「あ、これ美味しいってネットにかいてたやつだ、黄色いパッケージの。」
「じゃあこれにしよー」
「とにかくさ、人間5年もあれば変わるなあと思って。これが老いなのか……と思って」
「先輩、つかれてますね」
「大丈夫だって」
「まあいいんじゃないですか変わっても。老いじゃなくて成長したってことにしましょう。仕事をがんばってるってことじゃないですか。はいこれ、がんばるあなたに」
「なんやかっこいいこと言うな君は。あれ、これチョコレートも入ってるよ」
「あげます。誕生日の人には特別に2個です。」
「歳はとってみるもんだねえ」
「とにかく明日からおじさんなんだから、今日は早く帰ってくださいよ」
コーヒー代にさせていただきたく。