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図解!原価計算基準八【製造原価要素の分類基準】

原価計算基準。制定以来、実に60年以上経った今でも、一語たりとも加筆修正されていません。 聖書が古くならないように、全47あります原価計算基準も、時代遅れの産物ではないと考えています。
で、このnote。通常は「読み物」として発信されますが、以前より「調べ物」として創作してみたいとも考えていました。原価計算基準を「一つのnote記事に一つの基準」で楽しくイラスト図解不定期で順不同の発信となりますが、全47基準が完成した時には「試験勉強や実務のお供」として使っていただければ嬉しいです。

『図解!原価計算基準』の前書き

 基準七より『第二章 実際原価の計算』に入っていきました。そして『第一節 製造原価要素の分類基準』。第一節イコール『八 製造原価要素の分類基準』になってきますので、ちょっと長めの基準になります。

原価要素は、製造原価要素と販売費および一般管理費の要素に分類する。
製造原価要素を分類する基準は次のようである。
(一)  形態別分類
形態別分類とは、財務会計における費用の発生を基礎とする分類、すなわち原価発生の形態による分類であり、原価要素は、この分類基準によってこれを材料費、労務費および経費に属する各費目に分類する。
材料費とは、物品の消費によって生ずる原価をいい、おおむね次のように細分する。
1 素材費(又は原料費)
2 買入部品費
3 燃料費
4 工場消耗品費
5 消耗工具器具備品費
労務費とは、労務用役の消費によって生ずる原価をいい、おおむね次のように細分する。
1 賃金(基本給のほか割増賃金を含む。)
2 給料
3 雑給
4 従業員賞与手当
5 退職給与引当金繰入額
6 福利費(健康保険料負担金等)
経費とは、材料費、労務費以外の原価要素をいい、減価償却費、たな卸減耗費および福利施設負担額、賃借料、修繕料、電力料、旅費交通費等の諸支払経費に細分する。
原価要素の形態別分類は、財務会計における費用の発生を基礎とする分類であるから、原価計算は、財務会計から原価に関するこの形態別分類による基礎資料を受け取り、これに基づいて原価を計算する。この意味でこの分類は、原価に関する基礎的分類であり、原価計算と財務会計との関連上重要である。
(二)  機能別分類
機能別分類とは、原価が経営上のいかなる機能のために発生したかによる分類であり、原価要素は、この分類基準によってこれを機能別に分類する。この分類基準によれば、たとえば、材料費は、主要材料費、および修繕材料費、試験研究材料費等の補助材料費、ならびに工場消耗品費等に、賃金は、作業種類別直接賃金、間接作業賃金、手待賃金等に、経費は、各部門の機能別経費に分類する。
(三)  製品との関連における分類
製品との関連における分類とは、製品に対する原価発生の態様、すなわち原価の発生が一定単位の製品の生成に関して直接的に認識されるかどうかの性質上の区別による分類であり、原価要素は、この分類基準によってこれを直接費と間接費とに分類する。
1 直接費は、これを直接材料費、直接労務費および直接経費に分類し、さらに適当に細分する。
2 間接費は、これを間接材料費、間接労務費および間接経費に分類し、さらに適当に細分する。
必要ある場合には、直接労務費と製造間接費とを合わせ、又は直接材料費以外の原価要素を総括して、これを加工費として分類することができる。
(四)  操業度との関連における分類
操業度との関連における分類とは、操業度の増減に対する原価発生の態様による分類であり、原価要素は、この分類基準によってこれを固定費と変動費とに分類する。ここに操業度とは、生産設備を一定とした場合におけるその利用度をいう。固定費とは、操業度の増減にかかわらず変化しない原価要素をいい、変動費とは、操業度の増減に応じて比例的に増減する原価要素をいう。
ある範囲内の操業度の変化では固定的であり、これをこえると急増し、再び固定化する原価要素たとえば監督者給料等、又は操業度が零の場合にも一定額が発生し、同時に操業度の増加に応じて比例的に増加する原価要素たとえば電力料等は、これを準固定費又は準変動費となづける。
準固定費又は準変動費は、固定費又は変動費とみなして、これをそのいずれかに帰属させるか、もしくは固定費と変動費とが合成されたものであると解し、これを固定費の部分と変動費の部分とに分類する。
(五)  原価の管理可能性に基づく分類
原価の管理可能性に基づく分類とは、原価の発生が一定の管理者層によって管理しうるかどうかの分類であり、原価要素は、この分類基準によってこれを管理可能費と管理不能費とに分類する。下級管理者層にとって管理不能費であるものも、上級管理者層にとっては管理可能費となることがある。

八 製造原価要素の分類基準

 ご覧のとおり、基準八から実際の計算の内容を規定しています。『第一章 原価計算の目的と原価計算の一般的基準』までで規定していますように、原価要素を「製造原価要素」と「販売費および一般管理費」の要素に分類します。そのうち「製造原価要素」に当てはまってくると、下図①の3ステップを踏むことになります。

図①:「製造原価要素」は「原価計算の流れ」の3ステップを踏むことになります。

 上図①に沿って、製造原価要素の分類をしていきましょう。
Step.1:費目別計算
 ・原価要素に科目を設定して分類する
 ・操業度に関係させて変動費と固定費に分ける
 ・管理可能費と管理不能費に分ける
 ・直接費と間接費に分ける
Step.2:部門別計算
 ・部門別に集計する
Step.3:製品別計算
 ・製品別、仕掛品別に集計する
 以下、改めて基準八に沿って、ポイント解説していきます。

(一)  形態別分類

 形態別分類とは、原価を見た目や種類によって分類する基準の事です。原価要素は大きく材料費、労務費および経費の3つのグループに分類します。
 ちなみに原価計算では、一定の生産物をつくるために消費する材料や時間などの量を「原単位」といいます。原単位は原価管理上最も重要な情報ですが、モノによって測定単位が異なりますから、原単位同士を比較することはできません。そこで「貨幣価値」の登場。物量を貨幣価値に置き換えて会計帳簿に反映させることで、会社の状態と成果が可視化されます。

図②:費目別計算の前に「原単位」を把握し、「貨幣価値」に置き換えします。

 貨幣価値で測定された「原単位」。費目と財務会計上の勘定科目を一致させ、原価計算の結果を会計帳簿に反映させることで、原価計算と財務会計は完全に連動することになります。

図③:原価計算は財務会計の「サブシステム」ともいわれています。

(二)  機能別分類

 機能別分類とは、原価が経営上のどのような機能(働き)のために消費されたか、あるいは原価が経営上どのような役割で消費されたのか、という観点による分類です。ちなみに機能とは、ある物が本来備えている働き、全体を構成する個々の部分が果たしている固有の役割のことです。ざっくり説明しますといわば「会社上の部門や組織」ということになります。

図④:原価が会社組織上、どのような機能や役割で消費されたのか探求することも重要です。

(三)  製品との関連における分類

 製品との関連における分類とは、製品に対する原価発生の態様、すなわち原価の発生が一定単位の製品の生成に関して直接的に認識されるかどうかの性質上の区別による分類であり、原価要素は、この分類基準によってこれを直接費と間接費とに分類します。下図⑤では、費目別計算から部門別計算を直接費=赤、間接費=青にビジュアル化しています。

図⑤:費目別計算から部門別計算を直接費=赤、間接費=青にビジュアル化しています。

(四)  操業度との関連における分類

 操業度との関連における分類とは、原価要素を操業度との関係で変動費と固定費に分類する方法です。操業度とは、生産設備、従業員数、販売体制など経営をおこなう能力を一定としたとき、その利用度のことです。操業度の基準として、機械時間、生産量、直接作業時間、販売数量、売上高などが用いられます。
 ここで、変動費とは、操業度の増減に応じて比例的に増減する原価要素のことで、また固定費とは、操業度の増減にかかわらず大きく変化しない原価要素のことです。下図⑥では設備部門を具体例に「操業度との関連における分類」をイラスト図解してみました。

図⑥:設備部門の視点で「操業度との関連における分類」をイラスト図解してみました。

(五)  原価の管理可能性に基づく分類

 原価の管理可能性に基づく分類とは、原価の発生を管理者が管理しうるかどうかにより、管理可能費と管理不能費に分類することで、この分類は予算管理や価格交渉と密接に関係します。
 部長や課長といった原価部門責任者には、与えられた仕事を行ううえでの責任と権限が与えられますが、仕事を達成するにはお金がかかります。この支出金額につき科目別に使える上限が予算によって決められているということです。社外にも、価格交渉の点で同様のことが言えます。意外にも下図⑦のように設備費が価格交渉されるケースが多いので、原価の管理可能性に基づく分類が重要になってきたりします。

図⑦:発注者によって設備費が管理され、価格交渉の材料になったります。

 特に上図⑦は、近年の「値上げ価格交渉」にも大きく関わってきますので、関係者の方は「原価計算基準なんて古臭い!」と吐き捨てずに、きちんと向き合っていただきたいなぁ~と感じています。

<以上となります。最後まで読んで頂き、ありがとうございました。>

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