けしか欄001(2020/06)-1

 ご投稿いただいた皆様、ありがとうございました。
 今回も以前の企画同様、ご投稿いただいた歌を作者を見ずに選をして、評を書きました。すべての歌に評は書いてます。上の方はいいと思った順に、途中からは投稿が来た順に並べます(切りかえるとこでわかるようにします)。
 また、最近の「終わったな」な出来事についても教えてくださりありがとうございました。好きだったものを最後に公開します。
 よろしくお願いします。

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やりたいことなんにもなくて眺めてる文具屋に入ってくおまわりさん
/田中はる

 「眺めてる」の対象が、ぬるっ……、っと動いていった感じ、がおもしろい歌でした。
 文具屋をぼーっと眺めてる、と、おまわりさん来て、おまわりさんをぼーっと眺めてることに、気付く、いや、気付きさえしないうちに、そうしてる、この感じ。「眺めてる」のあとのゆるい句切れが、その対象を「文具屋」にも「おまわりさん」にも、書かれていないこれ以降にもこれ以前にも係っていくことを可能にしているんだと思います。
 そういった【感じ】に直結するような「やりたいことなんにもなくて」がよくて、意味合いでも韻律でも、この一首を、そういう一首、として成立させる、受け入れさせる、ようなワンフレーズとして機能しています。
 だらっ……とした雰囲気と韻律の先に、やはりだらっ……とした言葉があることの安心感、はちょっとすごいものがありますね。文具屋におまわりさんが入っていく、をストーリーとして消費しようとしない、ただそうであるものとして眺める目線、のことがだんだんと嬉しくなってきました。
 そんなこと書かれてないのに、なんかぬるくて弱い風が吹いてる、っていうか空気が小さく揺れてる、感じ、があって、そういうことを起こせる歌って、こう、【いい歌】なんだろうな……と思いました。

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私たちを学名で呼べばシガレットクッキー齧り割る音だった
/茉城そう

 ヒトの学名はホモサピエンスで、それは到底「シガレットクッキー齧り割る音」ではない、ですね。だからこの歌は、そういう歌、ではないです。
 要するにこの「私たち」は未知なる存在で、わずかな情報として差し出されるのがこれ、っていう歌なわけですが、その情報のズレ感がおもしろいと思いました。
 そもそも「学名」ってそんなに日常で使わないし、シガレットクッキーもそんなに食べないし、齧り割る音がそんなに特殊な(こういう表現に用いられるような)ものである気もしないし、で、ぜんぜん情報として機能してない。(もちろんいろいろと人それぞれだとは思いますが)
 けっきょくのところ未知なる「私たち」は未知のままで、むしろいっかい情報をもらえたと思ったらもらえてなかった、の分より遠ざかってさえいるんじゃないか。なんなんだよほんとに……とか考えてるうちに、ふいにやってくる「学名、ついてるのかよ」が最後のひと味みたいに楽しかったです。

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 ありがとうございました。次更新分までが、今回の僕の【選んだ】歌になります。続きはまた後日投稿しますので、いましばらくお待ちください。
 よろしくお願いいたします。

平出奔
Twitter:@Hiraide_Hon
Mail:hiraidehon@gmail.com



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