「鈴の君」


夕べかそけき鈴を鳴らして
擦れ違った寡婦は何であろう

その身は、黒衣をまといて重く
その香は、橘の香にくゆり
その手は、いたいけにも、毛羽先だった櫂をたぐり
その目は、モーニングヴェールに沈んでいる

夕べ、かそけき靴音をして
過ぎ去った寡婦は何であろう
笑気を吸って、今、貴方の元に向かいますと
私の袖を手繰るのは

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?