小説 これで働かなくてすむ サン・ハウスの「説教ブルース」⑥
あー本日はこのお題 ブルースを歌うことに害はない
についてお話ししましょう
この国のあちこちにいわゆる説教師と呼ばれるものどもがおりまして
ブルースを歌う男や女についてあれこれと話しておりますが
あなたがたはブルースの意味するところをご存じない
ブルースは内側の感情を外に出すただ一つの声であります
遠い昔
アダムとイブがエデンの園からつまみだされ
地を耕すように言われたとき
アダムは歌いはじめました
アダムが何を歌ったのか、わたしにはわかりません
しかし、こんな調子で歌ったんじゃないかと思いますな
「うわっ、歌い出した」ハウスは思わず、驚きを声に出していた。レコードの溝をトレースする針の先端から、ディキンソン師が数人の女性信者とかけ合いで、アダムのブルースを歌う姿が立ち上がるようだった。師は続けて、モーセに率いられて紅海を渡ったイスラエルの民もブルースを歌ったと語り、フェリペ人の牢に捕えられたパウロとシラスの姿を描き出した。
パウロは言いました。「シラス
あー歌いたくねえか」
シラスは言います。「ああ、生きていてこんなに歌いてえと
思ったこたあねえよ」
これを監獄のブルースと呼びましょう。
シラスが歌い、祈ると
古い監獄が酔っ払いの男のようにリール&ロックしたと言われております
手から鎖が落ち
足から足かせが外れ
古い監獄の扉がぱかんと開いて
あーそれでも彼らは歌い続けました
監獄のブルースを
わなわなと体中が震えた。この人はブルースの言葉で説教をしている。リール&ロックなんて、セックスのことじゃないか。でも、セックスだって人間の営みだし、全知全能の神がそのことをご存じないわけがない。オレは説教の言葉で巷のことを、この人はブルースの言葉で聖書の物語を語る。小さき者どもの人間には奇妙に見えるかもしれないが、神さまにはどれも同じことだ。
そうだ、これでいいんだ!!
それにしても、牧師さまはどうしてオレにこれを?
「お前、知らなかったのか。あの人、牧師になる前はブルース・マンだったんだぞ。けっこうえげつない下ネタや、粋なホーカム・ソングで人気があってなア。ファッションもいつもばっちり決まっててな。毎日、違う女連れて歩いて」と、ウィルソン。
ええーっ!!
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