日本酒ベンチャー代表が語る日本酒の大きな可能性
前回の記事 僕が日本酒ベンチャーを創業した理由 では、どのような思いでどんな酒を造ったのかを書いてきた。
なかなか長い文章をこんなにも多くの方々に読んでいただき、かなりの反響があり、嬉しい。
みなさん、ほんとにありがとうございます。
さて、今回は日本酒のビジネスについて。弊社のビジョンである、「価値あるものが広がる世界を作る」は、僕自身が、全国の日本のものづくりを見る中で、こんなに価値がある物なのに、その魅力が伝わっていないという原体験からきている。
これを強めの口調で言うと、「どれだけその物に価値があっても、お客様に届いてないようであれば、それには価値がないと同じ」だと言うこと。
価値ある日本酒の魅力を今後伝えていくにあたって、重要だと思っているのは以下の2つだと思っている。
1.お酒の中を語る
ワインのソムリエのように、日本酒の味わい、ペアリング、ストーリーなどを飲食店でお客さんに直接語れる人。
2.お酒の外を語る
ビジネス、世界のお酒事情、歴史観、宗教、流通、文化、経済などを教養を勉強し、魅力を伝えていける仕組みづくりができる人
この記事では、お酒の外、つまりビジネスとしての可能性のみに焦点を絞って記事を書いていこうと思う。
日本酒の発展がどんな未来をもたらすか?
まず初めに、日本酒が発展が、日本にどんな未来をもたらすのか?について。
僕自身、フランスのワインがどのように発展してきたか?についてよく学んでいて、多くの参考すべき点がある。
例えば、シャンパンで有名なフランスのシャンパーニュ地方のエペルネという町では、人口2万3000人ほどしかいないが、住民の平均所得がフランスで1番高い。
それが、金融でも、ITでも、医療でもなく、ぶどうから作るワインのシャンパンなのだから驚きだ。
人口2万3000人の町のシャンパンだけで市場規模は6400億円もある。
これはすごい。。
ただ、これが日本酒でも同じような可能性を秘めていると思っている。
ブランディング、デザイン、魅力を伝える仕組み、値付け、ビジネス面、流通などの仕組みを整えていけば、十分可能だと考えている。
フランスの地方にあるワイナリーが各地域の経済を支え、雇用を産み、その地区に住む方々の誇りに繋がり、フランス全体の経済を支えてるように、
日本酒の発展が、地方にある酒蔵を元気にし、その酒蔵を中心に地方が元気になる。地方が元気になれば、日本はよりよくなる。
日本酒の発展は、いい未来を作る。
そんな未来を作っていくには、まず現状を把握することが重要。日本酒の国内市場や、海外への輸出、そして課題などをシェアしていく。
日本国内のお酒の市場
日本のアルコールの市場規模は、3兆5000億円ほど、その中で日本酒の市場規模は6100億円。割合は、金額ベースで約17.4%、数量ベースで6.4%ほど。
グラフを見るとアルコール市場は近年横ばいだが、日本酒の消費量は1975年の167万Klから53万Klへと、3分の1ほどまでに減少している。
歴史的背景
昔は酒といえば日本酒で、団塊世代であれば、家に一升瓶がどんと置いてあり、お母さんはそれを料理に使い、お父さんは燗にして飲むし、という風景があった。
しかし、それが今では逆に置いていない家庭のが多い。どの家庭にも当たり前に存在した日本酒は、この30年の間に、ビールから、酎ハイ、ワイン、ハイボール、梅酒など様々なアルコールが飲まれるようになり、それまで独断場だった日本酒は必然的にシュリンクしていった。
日本酒は今まさに時代の転換期を迎えている。
上記の数字だけをみると、日本酒業界って斜陽産業なのかな?と思ってしまう。ただ、この数字は合っているようで、合っていない。なぜなら、先ほどもお伝えしたように、消費が縮小しているのは、コンビニやスーパーで販売されている普通酒と呼ばれるパック酒だったり、カップ酒のような日本酒。
以下のグラフを見てみよう。
たしかに日本酒全体の数量は減少しているが、純米酒、吟醸酒などといった高価格帯に属する特定名称酒という日本酒は、徐々に消費が拡大してきている。しかも7年連続で。
このデータから何がわかるかというと、日本酒は嗜好性の高い商品へとニーズが移り変わってきている。
「安価で大量に日本酒を消費する」
↓
「高品質で味わうお酒」
時代の流れ
日本酒は、高度経済成長期前後くらいから、個性のないお酒が多くなってきた。なぜなら、日本酒は味わうものではなく、酔えればよく、日本酒しかなかった時代なら味わいは均一的なものでよかった。
ただ、様々なアルコールが入ってくる中で、日本酒は競争環境に置かれ、質を上げなければいけなかった。そのため味わいは多様化し、作り方も多様化していった。また、変化できない蔵は、消えていった。
半世紀で半分以上の酒蔵が廃業した。
出典:SAKETIMES
多くの蔵が消えていったが、逆にいうと変化してきた蔵、質の高い酒を作る酒蔵は残った。
近年、「十四代」「而今」「新政」などのスター地酒の登場が表すように、日本酒は時代の流れと共に「味わうお酒へ」とニーズが変化していった。
僕の経験則だが、今、日本酒のイベントに行けば、どこも人が多く賑わっており、例えば元サッカー日本代表の中田 英寿さんが手がける「CRAFT SAKE WEEK」では11日間で11万人の方が来場を記録している。
弊社が開催している、「JAPAN SAKE COLLECTION」では、毎月100名の20代〜30代の方々に参加していただくなど、日本酒への注目度が高まっているように感じられる。特に女性の方が半数近く来場しており、ここ20年近くで大きく日本酒へのイメージは変わり続けている。
世界へ飛び立つ日本酒
いま、日本酒は海外への輸出量が9年連続で伸び続け、9年で輸出金額は3倍にまで伸びてきた。
出典:SAKETIMES
2009年のリーマンショック後から、徐々に伸び始め、近年は伸び幅が大きくなってきている。
輸出が伸びる背景としては、以下の内容が挙げられる。
・2013年に和食が「ユネスコ無形文化遺産」に登録されたことが、日本酒の海外展開を後押ししている。
・国内市場ではなく、海外に目を向ける酒蔵が多くなった。
・政府主導の普及活動。オリンピックや国連総会など、世界の報道機関が集まる機会を利用して、日本酒のPR活動を行っている。
日本酒の輸出-国別比較
輸出先の国でみると、1位がアメリカ、2位が香港、3位が中国の順に並ぶ。
この表で注目して欲しいのが、香港。人口700万人という小さなエリアにもかかわらず、日本酒の輸出金額は世界第2位。これは、香港は富裕層が多く、「いい物には特別な体験として投資を惜しまない」という方々が多く、日本酒楽しんでくれている。
このことは、香港以外の輸出国でも富裕層の方々に多く消費されている。なぜなら、輸出されると日本酒の価格が3倍〜5倍ほどになるから。
ワインとの比較する大きな差が
世界中で飲まれているワインのフランス、イタリア、スペインなどと比べると雲泥の差がある。
特に、フランスからのワインの輸出量を比較すると、およそ85倍もの差がある。
見方を変えると、「伸びしろ」でしかない。
また、現在、海外には40近くの現地で日本酒を造る酒蔵があり、年々増え続けている。
これは、大変歓迎するべきことだ。なぜなら、日本酒も海外産の「SAKE」が増えることは、現地でより「SAKE」が飲まれるようになり、「本場の日本酒が飲みたいね」という方が増えていく。その結果、日本国内の日本酒の需要はより高まっていくと考えられる。
例えば、海外にある日本食のレストランが2006年に2万3000店ほどだったのが、2017年の調査では、約5倍の11万7568店に増えている。ただ現地で日本食を食べた人は「やっぱり本場の日本で日本食を食べたいよね」となり、訪日外国人が増え続ける一因となっている。
ワインでも、世界中でワインが造られる数が増えるにつれて、フランス、イタリア産のワインの需要は伸び、輸出量は増えていった。
海外においての日本酒の人気の高まりを象徴すること
・世界最大のワインのコンペティションにて、2007年にSAKE部門が新設。
・フランスの3つ星フレンチレストランにて日本酒が採用される。
・フランス・パリに獺祭を造る旭酒造がジョエル・ロブションとのコラボレーションで複合型レストラン「Dassaï Joël Robuchon」をオープン。
・訪日外国人の旅行における経験で「日本の酒を飲むこと(日本酒・焼酎等)」と回答した人は41.3%、そのうち満足した人の割合は84.9%となっている。
・先日、こんな記事を見つけた、「菅氏、日本酒には「大変可能性がある」…輸出拡大支援へ具体策」
世界のアルコールの消費量は今後より増加する。
上記の記事から参考にしたデータだが、世界のアルコール消費量は1990年に210億リットルだったのが、2017年には357億リットルとなり、70%増加した。
日本のような成熟した国では、アルコールの消費量は横ばい、もしくは減少傾向にあるが、発展途上国では、かなりの勢いで増加し、特に、中国、インド、ベトナムのような経済成長の伸びが大きい国ほど、消費量も大きく拡大する。
これはつまり、豊かになればなるほど、嗜好性の高い商品にお金を使う余裕ができるようになるから。
そしてこの流れは2030年まで増加傾向にあると考えられている。
世界のアルコール消費量が増えるに従って、単純に需要も増えていくので、日本酒の輸出も世界の大きな波に乗っていくことができる。
世界のアルコール消費の増加が、日本酒の世界進出を後押し
日本酒業界の課題
価格が均一
日本酒が多く揃えてある酒屋に行くとわかるが、日本酒の値段が異様にも、四合瓶で1000円~2000円ほどの価格帯で売られていることに気がつく。
価格帯が似通ってしまった背景には、日本酒がメインで消費される場として、居酒屋が多かった。単価3000円〜5000円の居酒屋が購入しやすいような値段で設定すると、自然と一升瓶で3000円前後のお酒が多くなり、逆にそれ以上あげると売れなくなってしまった。
価格均一の問題点
1.コスパのいい酒造り
酒蔵はいかに3000円以内にコスパのいい酒を作り、利益を出していくことに注力せざるえなかった。
2.ブランディング、マーケティング戦略
ブランディング、マーケティング戦略を欠いたため、日本酒は安酒代表のような地位に陥った。自由競争の中で、価格競争となってしまった。
3.価格の多様性は、日本酒の文化の多様性に繋がる。
価格がもたらす心理的な印象は大きい。
名声価格といい、価格の高い方がいい品質のようにみえる心理的な効果がある。例えば、10ドルのワインと90ドルのワインを飲み比べた時に、大多数の方が美味しいと感じてしまう実験がある。
ある5つ星の高級ホテルのルームメニューを見た時、ワインの価格はグラスで5000円、10000円、20000円ほどだったのに対し、日本酒グラスで1200円、1300円ほどだった。
「今日はお祝いだから、普段購入しないお酒を飲も!」となった際に、日本酒が選んでもらえるだろうか?
日本酒ベンチャーForbulの価格均一への課題解決。
日本酒業界に入り、様々な勉強をしていくうちに、酒蔵はコスパの良い酒のみを造っているという課題を目の当たりにした。時代は変わり、既存の流通に乗せなくても、日本酒の販売可能であるし、「良いものには特別な体験として投資を惜しまない方々が増えてきている」との信念から、効率や生産性ではない最高品質の日本酒を酒蔵と提携して、プレミアムな日本酒の開発に成功。
HP:https://hawkeye-sake.com/
評価基準が定まっていない
日本酒が評価基準を失ったのは、国の主導による「等級制度」がなくなってからだと考えている。一般的にマーケットが縮小している際は、より高い付加価値を模索して、価格を維持する必要がある。しかし、国が価格統制を離れて以降、大手酒蔵中心に安売り路線に選択した。
大手酒蔵は、ボタン1つで酒を造れるようにし、コストダウンを行った結果、日本酒のブランド価値は大きく下がった。
現在、純米酒や吟醸酒といった「特定名称酒」で付加価値をつけているが、「特定名称酒」のランク分けが、「精米歩合の数値」によって分けられている。そのため多くの酒蔵が、最高品質だと認知されている、「純米大吟醸酒」を造るようになり、これ以上、付加価値をつけていくことが難しくなっている。
※精米歩合=原材料の酒米をどれだけ削ったかという数値
また、「純米大吟醸」の中でもさらに、付加価値をつけるため精米歩合の数値を下げる、スペック勝負に陥っていった。
例えば、同じ純米大吟醸でも精米歩合 50%の日本酒と精米歩合 20%の日本酒を比較すると、精米歩合20%の方が値段は高く、価値が高いと認知されている。
つまり、造り手の技術力の高さや、酒蔵特有のオリジナリティー、酒造りのストーリーなどに、付加価値をつけることはあまりされていない。
フランスワインの評価基準
フランスのワインのブランド価値が保たれているのは、国が定める厳格なAOC(原産地呼称)という制度があるから。例えば、世界で最も高価なワイン「ロマネ・コンティ」は、ロマネ・コンティという名前の畑であり、その畑のぶどうから造られる赤ワインの名前である。
このように厳格に国が統制することによって、希少価値が生まれ、ブランドに繋がっている。
日本酒ベンチャーForbulの評価基準への課題解決。
高品質な酒造りを行うにあたって、「精米歩合」は一番に頭を悩ました部分だ。なぜなら、もし、プレミアムな日本酒を売るとなると、精米歩合の数値は低ければ低いほど、価値は高いと認知される。だから、商売としては、売りやすくなる。
ただ、実際、米を磨けばみがくほど、キレイにはなるものの、スッキリしすぎたり、味わいが均質化してしまい、せっかく高い酒米を使っているのに、米本来の良さを捨てているようなものだ。
そこで、開発した鷹ノ目は、「ウマさのみを追求する」との哲学から、精米歩合は適切な数値に設定し、酒造りを行った。また、情報にとらわれず、そのままの味わいを楽しんでほしい」との願いから「精米歩合」も非公開にするとの決断をした。
HP:https://hawkeye-sake.com/
他の課題まとめ
・ワインのソムリエのような、日本酒の魅力を語るプロフェッショナル人材が少ない。
・海外輸出においての流通・管理の仕組み。
・酒蔵の後継者不足
まとめ
日本酒のビジネス面や、業界の現状・課題などを理解し、そこから今後の日本酒業界全体が向かっていくべき方向性を模索し、未来を見据え、行動していくことが、今後の5年後をつくり、10年後を作り、そして100年後の未来をつくっていくことだと考える。
僕自身、今後日本酒は大きく伸びていくと思っている。
ただ、今のうちに土台となる仕組みづくりをしておかないと、輸出にしても1兆円の市場になる可能性があるのに、3000億円ほどで止まってしまうかもしれない。これは、日本酒業界にとっても、日本にとってももったいない。
だからこそ、多くの人が現在の状況を把握し、今後の未来の方向性を模索しながらシェアしなければいけないと考える。
今回、弊社が開発・製造に成功した「鷹ノ目」は、そんな既存の常識を疑い、次世代の価値観を示した日本酒だと思っている。
日本酒ベンチャーForbulは、今後も既成概念にとらわれない挑戦を続けていきたい。
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株式会社Forbul
代表取締役 平野 晟也
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