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『ロバート・ツルッパゲとの対話』は早めに読んだ方がいい

遂に、ワタナベアニさんの『ロバート・ツルッパゲとの対話』が発売されました。出るぞ!出るぞ!という噂は聞いていましたが、本当に出たので驚きました。と言いますか、感慨無量でしかありません。

私がワタナベさんに「本を出しましょうよ」と言ったのは、何年前か忘れてしまうぐらい前だったかと思います。リーマンショックの前だったような、バブル崩壊後だったような、高度成長時代までは遡らないと思いますけれども。

私はライトパブリシティという会社で働いていたのですが、ワタナベアニさんはその時の上司でした。私はグラフィックデザイナーとして採用されて入社しました。入社してすぐに、ライトパブリシティの作品集みたいなのをもらいました。どんなデザイナーが、どんなデザインをしているか、というものだったと思います。

ワタナベアニさんと私の関係についてはこちらのnoteにも書いてありますので、興味がありましたらご覧ください。

そのライトパブリシティの作品集の中に、ワタナベさんの仕事を発見しました。私はその作品集の中で、圧倒的に共感出来たデザインのひとつが、ワタナベさんのものでした。仕事ではなくデザインコンペか何かのものだったと思いますが、当時のヤクルトの古田選手の名刺のデザインがあったんです。

そこには「頭と肩 古田敦也」と書かれていました。確か。記憶が間違ってなければ。それを見た時に、デザイン以上の言葉のチカラを感じたんです。コミュニケーションとして、言葉を表現ではなく武器として使ってると思い、すごく共感しました。

そんな出会いでしたから、私はワタナベさんの事を、割とずっと言葉の人だと思っていたんです。ご存知のように、SNSに書いている文章にも確実に言葉のチカラがありますから。

でも、ワタナベさん本人は、「言葉に頼らない美学」みたいなものを持っている気がしています。言葉を使わずにどこまで人の気持ちを動かせるか。1枚のビジュアルに、どこまで価値を持たせることが出来るか。だからこそ、40代になってから本格的に写真を再開して、言葉に頼らない表現を追求しているんだと思います。

私から見るに、たぶん言葉による表現は、ワタナベさんにとっては割と簡単な事で、本人からしたら、言い方は悪いですが「手を抜いた表現」みたいに感じているのかも知れません。言葉を使ったらすぐに結果は出せるけど「サボってる」と感じているのかも知れません。努力すること無く人より秀でている才能に対して、人は往々にしてそこから離れようとする気がします。生まれついて持っている才能よりも、自分の力で勝ち取った能力を使う方が、人生に心地良い抵抗を感じますから。

そんなワタナベさんが、遂に文章だけで表現した『ロバート・ツルッパゲとの対話』ですから、面白いに決まってます。走れる人が走った訳ですから。

特に新鮮だったのは、ワタナベさんの文章を「紙」で読む体験です。もしかしたら初めてかも知れません。今まで読んできた文章はすべてモニタの中でしたから。そして、活字になる事によって、たくさん散りばめられている「小ギャグ」にも意味を汲み取ろうとしてしまうんですよね。実際に手に取ることが出来る「本」というカタチになることによって、体裁が整うと言いますか。アートギャラリーの真っ白な空間にモップとバケツを置いたら、何かが表現されていると思ってしまうのと同じ様に。そのモップとバケツは、ただ置き忘れられているだけなのにです。

しかしこの膨大な「小ギャグ」こそ、『ロバート・ツルッパゲとの対話』の印象をカタチ作っている最大の要素だと思います。読み進んで行くうちに、グーッとチカラが入りそうなところで、スッと小ギャグが入ってきます。ヒネリの入ったダジャレだったりします。そうやって気が緩んだところに、またズバッと本質に斬り込んで来たりするから、身構えるタイミングが難しいんですよね。そして最後には200万円の布団セットの契約をしてしまう様な、そんな緩急に引っ張られて最後まで一気に読まされてしまいます。

そして、意外だったのは、全篇が丁寧語で書かれている事でした。丁寧語で書かないと内容が強過ぎるからなんでしょうかね。でもたまに、丁寧語で話すからこそ面白いオジサンていますよね?淡々と自虐的な面白い話を丁寧語で話すオジサン。あの面白さって、面白さの最高峰にある様な気がします。『ロバート・ツルッパゲとの対話』も、丁寧語によってそんな空気を感じてしまい、小ギャグですら大爆笑してしまうんでしょうね。

私は、仮の原稿が出来た時点で一度読ませて頂きまして、「映画化権ください」と言いました。これは冗談ではなく映画になるんじゃないかと思ったからです。私が作った『SHELL and JOINT』も、割とそういう映画なんです。1本のストーリーがある訳ではないですが、全体を観ることで、何かしらを感じる事が出来る映画と言いますか。しかも、目次を見ると「殺人と不倫」とか「ビキニとオオトカゲ」とか、ぜんぶ「と」で繋がってるんですよね。『SHELL and JOINT』も「と(and)」なんです。

たぶん、『ロバート・ツルッパゲとの対話』を一気に読んでしまった人は多いんじゃないかと思います。もっと読みたいと思った人も多いんじゃないかと思います。だから「2」が早く出ないかなと思います。映画でも何でも、「2」が出るためには、「1」のヒットが必須ですから、沢山の人に買ってもらって、ヒットして「2」が出るようになれば良いなあと思います。

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