映画祭日記(2011年サンダンス映画祭)
※当時書いた日記をそのまま転載しています。
一日目
17時頃発のANAサンフランシスコ経由でソルトレイクシティへ。ソルトレイクシティ空港で待ち合わせるはずの作曲家の渡邊さんが、乗り継ぎで飲み過ぎて寝てしまい合流できず。空港からシャトル便みたいなのでサンダンス映画祭をやっているパークシティに。
もうすごい雪。外で寝たら凍死すると思う。夜遅く渡邊さんがホテルに来たので、酒の調達に行ったのだが、店もなく、バーでもIDが無いとダメだと言われ、ホテルに戻った。ホテルでジュースとポテチを食べながらダラダラする。夜に酒を飲まないなんて、マジメかよ。
そして、映画祭のスケジュール表とにらめっこして、今日から1週間の予定決め。事実上、自分の作品の上映は1回だけしか見れない感じ。とにかく、サンダンスで上映される短編を全部見る計画。短編ドキュメンタリーの1プログラムだけがどうしても無理そうで、あとは見れるはず、酒さえ飲み過ぎなければ。
明日は朝から映画祭のオフィスに行ってIDをもらって、早速短編プログラムを見る予定。
余談ですが、ホテルの部屋はダブルベッドが2台。ここに大人の男が3人。乞うご期待。
二日目
朝早く起きて映画祭のオフィスへGO!。いわゆる映画祭に参加している関係者用パスみたいなものをもらいに。いつもならそこで映画祭特製バッグなんてモノをもらえたりするのだが、サンダンスは無し。その代わり、Timberlandのジャケットとブーツをくれるとのことだが、正直荷物になるだけな気がするので、23日に合流するサウンドミキサーの飯嶋さんに押しつけようと思う。
そんな話はいいとして、そこで映画のチケットやら、パーティのチケットやらをもらい、早速午前9時からの回のチケットを取りに行ったのだが、売り切れだった!仕方なく、自分たちの作品をやっている回を見に行った。「仕方ない」というのは、この売り切れだった回は短編のプログラム1というやつで、ここで見れないと最後まで見れないからなのだ。映画祭に行ったら「短編部門を全部見る」を目標としているのだが、早くも挫折。
『Shikasha』が上映されているプログラム3には、いろんな種類の作品があった。ベルリンで感じたような、完全に負けた感を感じるような作品はなかった。1本だけ、35mmフィルムで撮って、デジタイズせずにそのまま編集してつないだ作品があったのだが、質感や解像度がもの凄く良かった。35mmの良さってそこなんだなあ。撮影してデジタイズしてしまったら35mmの意味が無くなるんだろう。
サンダンス映画祭の短編部門は30数本あるうち、アメリカ以外の作品は10本ぐらいしかない。ヨーロッパの映画祭に行くとアメリカ作品も割とマイノリティだったりするから、いかにアメリカの映画祭か。そして、そのアメリカの短編映画は、やはりアメリカっぽかった。まだよくわからないのだが、アメリカの短編映画は音楽がダサい疑惑がある。なんというか、エンディングに突然ロックがかかる感じというか。
チェコの作品で鳥の生活を人間がやっているヤツがあって、全裸でチンポ丸出し。女性も丸出し。あそこまで丸出しする作品を作ってみたい。無修正のAVってことじゃなくて。
そして、昼飯を軽く食べ、NewFrontierという実験の短編プログラムへ。全体的にもの凄い実験的な映画なのだが、もの凄く退屈だった。失笑さえ漏れてた。結局、映像やモチーフを過激にしても、観客に過激に伝わるとは限らない。例えば、第二次世界大戦をモチーフに過激なビジュアルの作品を作ったところで、逆に凡庸な作品にすらみえてしまう怖さがある。やはり、作品を作るときには「伝える」という事が本当に大事だと思う。そして、その「狙い」が狙い通りに伝わるかどうかがキモなんだろう。「狙い通りやりました」「いやその狙い、伝わって来ないよ」が一番恐ろしい。
その後、スーパーに行って、ステーキやらラムやら野菜やら調味料やらを買い込みホテルへ戻り軽く昼寝。
昼寝あけにまた映画祭のオフィスに行って、見たいチケットを取った。サンダンス映画祭はパークシティという所がメイン会場なのだが、ソルトレイクシティでもかなりの数の映画をやっている。そこで上映されているプログラムを見たかったので、ソルトレイクシティ行きのバスなんかがあるか聞いてみたら「オマエ、本気か?」みたいなリアクションで、タクシーしかないと言われた。片道80$。
ホテルに戻り、ステーキやラムをキッチンで焼いて食べた。そりゃもう大量に。渡邊さんが、お皿やらを洗ってくれた。
23時半から本日三回目の短編プログラム。物語に主軸をおいたラインナップ。半分以上がアメリカの作品で、もう英語のセリフがいっぱい。会場は大爆笑しているが何が何だかまったくわからなかった。映像として面白いんじゃなくて、シリアスな顔しながら面白いこと言ってるからもうダメだこりゃ。
そういえば、隣の席に世田谷区に住んでる外国人が来た。日本人がいると思って声をかけてきた。シカゴで勉強中でスキー合宿に来たと言っていた。ややこしいんだけど、1歳から大人になるまで日本に住んでいて、いま、アメリカに留学中。
偶然にも泊まっているホテルが映画祭の会場の一部。これはかなり楽。
三日目
時差ボケか、朝まで眠れず。ネムレーズ。午前中、渡邊さんに明日のチケットを取りに行ってもらい、サンドイッチまで買ってきてもらう始末。
昼から短編アニメーションプログラム。9本見たが、全体的にレベルが高い。コンセプトのレベルではなく、技術的なレベル。ベルリンでみた、ヨナス・オデル監督の作品もあった。なんというか、どれもこれも間違いなくお金と時間がかかっている。こんな部門には行きたくないと正直思った。海外の映画祭で活躍しているCALFの人たちはすごいんだなあとあらためて思った。
午後、昼寝した。
夕方起きてスーパーと酒屋に買い出し。吹雪いていた。氷点下だと思うんだけど、話をしながら歩いていると呼吸が苦しくなった。気温が下がるとそういうもんなんだろうか。
ホテルに戻って夕飯。サーモンを多量に焼いて、茹でアスパラガスと茹でポテトと、モッツァレラチーズとトマトのサラダ、マッシュルームとベーコンのポン酢炒め。ステーキも4枚買ってあったのだが、今日は肉抜きの野菜多めのメニューにした。このホテルのキッチンにはザルとさいばしが無いのがかなり痛手。
夕飯を食べながら、渡邊さんといろんな話をした。明日は飯嶋さんが来る。
四日目
朝8時にフィルムオフィスに行ってチケットを取った。朝一で行かないと売り切れてしまうので行くのだがすでに行列。でも朝のメチャクチャ寒い外ってのは気持ちいいモノだ。耳が凍るけど。
渡邊さんは長編映画を見に行き、そのすきに昼寝した。9時から13時まで寝たのでもはや昼寝の域を超えている。
14時半から短編コンペプログラムを見に行った。なかなか面白いプログラムだった。いかにもアメリカという短編もあったし、実験色の強い短編もあった。1本だけ自分の方法論に近い作り方で作っている作品があって、親近感と共にやられたなあと思った。限られた条件の中で一点豪華主義みたいな感じ。
夕方、日本から飯嶋さんが到着。ホテルのロビーに着いたとのことなのだが、全然別の遠いホテルのロビーにいたので、迎えに行った。
夕飯は巨大ステーキ4枚と野菜などを3人で食べきった。その様子をUstreamで中継したのだが、視聴者は4人以下。適当な話をした。飯嶋さんが日本酒を持ってきてくれた。
その後、23時半からさらに短編プログラム。マイノリティを扱った短編特集みたいな感じだった。とはいえ、まあちゃんと作られている。あまりにもちゃんと作られている作品を見ると、やる気が削がれる。でも、「ちゃんと作られているけど、驚きがないじゃないか!」と自分に言い聞かせて、前に進むしかない。
五日目
朝8時半からの短編プログラムを見に行った。良くできた作品が多かった。ていうか、全部良くできてるんだけど。良くできてるんだけど、驚きがあるかどうかは別で、驚きのある作品はなかなか無い。この「驚き」に関しては、今後、ちゃんと考えていかないとと思っている。
次の上映まで時間があるので散歩。映画祭から500ドルのお小遣いをもらっていて、その小切手を現金に換えるために銀行に行ったり、息子のおみやげがあるかどうか見に行ったり、今日の夕食の食材をスーパーに買いに行ったりした。
15時から短編ドキュメンタリープログラム。「自由」「人種」「動物」というテーマの3本の作品。テーマも作りも、これがアメリカだ!という感じ。良くできた海外のテレビ番組を見ているような感じだった。
ホテルに戻り、スーパーで買ってきたハラミの塊を焼いたり、茹で野菜をしたり、巨大マッシュルーム焼きをしたりしたが、味付けと調理方法がマンネリなのでいまいち。ハラミのステーキは歯ごたえがありすぎる。昨日まで買っていた、リブアイステーキとはまるで違う。肉の旨みも全然違うし。2mm程の細さのアスパラガスは柔らかいと思いきや、繊維の塊だし。
そうこうしているうちに夜になり、21時から『Shikasha』の上映。通訳がいたら、舞台に上がるという事になっていて、会場に入ったら通訳の方がいた。『Shikasha』のプログラム3は一度見ているのだが、上映の順番を変えてきたので、新鮮な感じ。『Shikasha』は一番最初だった。
上映後、短編の監督やスタッフ、キャストが全員スクリーンの前に行き挨拶。そこで軽く質問などに答え終了。「おいお い!その程度の日本語に通訳いらねえだろ!」という程簡潔な日本語で答えた。
プログラム終了後、いろんな監督やプロデューサーが寄ってきてくれた。ある監督が「Shkashaはpreciseだ。」と言っていた。「precise」は正確とか精密みたいな意味。そういう印象があるんだなあと面白かった。
海外の映画祭に来ると、会う人に「Congratulation!」と言われる。受賞とかではなく、選ばれただけでおめでたい事なんだろうが、一瞬何だっけ?とギョッとする。
やはり、英語の勉強は再開することにして、とにかく持続することが大事だなあと思う。
最終日
今日は短編の上映がないので、昼からメイン会場近辺を散策。メイン会場と言ってももの凄く小さい。映画祭の大きさに比べて、知名度と影響力が極端に突出している感じがする。おみやげ屋が多くあったが、「PARK CITY」と書かれたパーカーや、熊の木彫りの置物などで、あまり買いたいものがない。息子用にアメリカの昆虫図鑑を買いに本屋を探したのだが、運悪く長編ドキュメンタリーの監督のパーティをやっていて入れず。もう一件は改装中でダメだった。ネイチャー写真のギャラリーに入ったら、面白いシロクマの立体パズルがあったのでそれを買った。
夜、遠くのボーリング場へ行ってアワードセレモニー。受賞していないとわかっていながらも作品名が読み上げられる瞬間はピリッとする。あれがイヤなんだな。あの感じはベルリンでも味わった。受賞するときは必ず、受賞者が会場にいるように事務局がなんらかの手配をあらかじめしている。前日に電話が来るなり。だから、セレモニーまでに連絡が無いと言うことは、受賞してないのは確実なんだけど、2%ぐらい期待している自分がイヤになる。
受賞作品が読み上げられると、歓喜の声が上がる。と同時にスクリーンに作品が映し出される。唯一見逃していていたプログラム1からの受賞が多い。プログラム1だけ1200人入るシアターで上映していたから、もともと完成度の高い作品が多かったんだろう。
「グランプリ」みたいな賞は特になくて、アメリカから1本、インターナショナルから1本、審査員賞というモノが贈られる。あとは5本ぐらいが優秀賞。いくつか見た作品も受賞していたが、サンダンスっぽいと言えばサンダンスっぽかった。アメリカの1番は、70年代ぐらいのアメリカの映画やドラマのパロディみたいなので、スキンヘッドに鼻の下のヒゲの主人公の話。と言っても、「オー!マイキー」みたいに人形は動かず、カメラワークで見せる作品。ひたすらくだらない感じの作品だ。
今回、サンダンス映画祭に来てみて、正直なところ「得るもの」はそれほどなかった。でも「わかったこと」は多かった。アメリカの短編監督は、短編が好きなんじゃなくて、長編の足がかりとしてやっている。なんとかチャンスを掴もうとして短編を作っている。その先には夢がある。自分が今まで「アート系」と称して短編にこだわってやってきたのとはスタンスがあまりにも違いすぎる。だから、ある種下品な迫力みたいなものでは完全に負けてしまう。
で、サンダンスに来てから、今後自分がどういうスタンスで作品作りをしていけばいいのかちょっとわからなくなった部分がある。ちょっと途方に暮れた。ざっくりというと、やる気が無くなった。映画祭に来てやる気がなくなったのは初めてだ。もう短編作らなくてもいいかなあとすら思った。不思議な映画祭体験だったなあ。