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映画『SHELL and JOINT』って何?

映画『SHELL and JOINT』がどんな映画なのか分かった方が、私が『SHELL and JOINT』について書いているnoteを楽しんで頂けると思いますので、折を見て『SHELL and JOINT』とはどんな映画なのかを書いて行こうと思います。

あらすじ
幼なじみである新渡戸 ( 堀部圭亮 ) と坂本 ( 筒井真 理子 ) は、都内のカプセルホテルのフロントで働く従業員。新渡戸は節足動物と哲学が好きで、坂本は自殺ばかりしている。カプセルホテルにはいろんな客がやって来る。子どもを亡くしたフィンランド人の母親。 逃亡犯の女。ミジンコを研究する学生…。しかし、それぞれの人生が交差する事は決してない。 まるで整然と並べられたカプセルホテルの様に。淡々と流れる時のなかで。 節足動物をモチーフとして、生と死と性を テーマにした、さまざまな人生の断片が展開されていく。

このあらすじは、マスコミの皆さんに送ったプレスキットやチラシにも書いてあるあらすじになりますが、「だから何なんだ?」と思われるかも知れません。『SHELL and JOINT』の一番の特徴は、一本のストーリーで構成されている映画ではなく、たくさんのストーリーが集まって出来た映画なんです。たくさんの話が集まって出来たと言うと、オムニバス映画みたいなイメージを持たれるかも知れませんが、オムニバス映画はそれぞれ一話で完結した話がたくさん集まってるものが多いですが、『SHELL and JOINT』はたくさんのシーンが集まった映画で、そのシーンが交差することがないんです。

私は、動物園、美術館、博物館みたいな映画にしたいと思い、この構造で映画を作りました。どういう事かと言いますと、例えば私たちは動物園に行った時に、ライオン、マレーバク、イリエワニ、ダチョウを見て、ふれあい動物コーナーでモルモットに触り、昆虫館があればそこでヘラクレスオオカブトムシを見たりします。私たちはこれ全部をひっくるめて「今日は動物園に行ったね」と思います。でも、動物園の中で、ライオンとヘラクレスオオカブトムシは全く違う場所にいますし、展示の方法も違います。それでも家に帰る時には「今日は動物園に行ったね」と思います。私はこの「動物園に行ったね」と同じ様に、「SHELL and JOINTを観たね」になる様な映画を作ってみたいと思いました。

ちょっと分かりやすく動物園を例えにして書きましたが、ロイ・アンダーソン監督というスウェーデンの監督がまさにこの構造で、数々の名作を作っています。ロイ・アンダーソン監督の作品は、動物園というよりも博物館という感じです。私の勝手な印象ですが。現代美術の作家であるマシュー・バーニーの映像作品も映画ではありませんが、たくさんのシーンが積み重なって出来ています。マシュー・バーニーの映画は美術館という感じでしょうか。動物園でも、博物館でも、美術館でも、それぞれの交差しない展示物全部をひっくるめて、「動物園に行った」「博物館に行った」「美術館に行った」と思います。そんな映画を作ってみたいと思ったんです。

ここまで書かなくても、観ていただければ分かるのですが、これを知らずに観ると、たぶん多くの方々がとまどってしまうと思ったからです。「映画がすべての答えなんだから能書き垂れるんじゃないよ。しかも見る前から。」と思われる方々も多いかも知れませんが、ジェットコースターみたいな、その時だけ楽しめるアトラクションではなく、観る前から話にされ、観た後も話にされる映画が作れたら幸せだなと思っています。議論というと大げさですが、ちょっとした会話のネタになればいいなと思うんです。

出演者
堀部圭亮・筒井真理子・佐藤藍子・北川弘美・須藤温子・久住小春・東加奈子・野島直人・野本かりあ・Minna Vänskä・工藤綾乃・山崎紗彩・湯舟すぴか・石川瑠華・竹下かおり・木村知貴・橋野純平・武田知久・山本真由美・萬歳光恵・板垣雄亮・鳥谷宏之・大沼百合子・髙木直子・長谷川葉生・西山真来・烏森まど・治はじめ・原田里佳子・見里瑞穂・加藤啓・多田昌史・真柴幸平・藤村拓矢・田中真之・秋山桃子・山村ゆりか・MIKA・大駱駝艦(高桑晶子・藤本梓・梁鐘譽)・加藤白裕・晃山拓・星川愛・Sanae Margaret・曽根瑞穂・小暮広宣・太田結乃・東原武久都・国井煌・村山碧・大津苺花・藤崎卓也・平林剛・我修院達也(敬称略)

およそ60人近くの方に出演していただいています。ここに書いてある他には、私たち身内もちょいちょい出ていたりします。こう言っては何ですが、エキストラと呼ばれる人は一人もいません。強いてエキストラと言えば、私たち身内がやっている役でしょうか。

カプセルホテルのフロントで会話をしている、堀部圭亮さんと、筒井真理子さんが、メインキャストになります。堀部さんとは数々の短編映画を作り、ロカルノ、ベルリン、カンヌの順に映画祭に行きました。初めて長編を作る時には絶対に堀部さんと作りたいと思っていて、堀部さん無しでは考えられませんでした。筒井真理子さんは以前にお仕事をさせて頂いた時に、佇まいだけでも映画になる感じがしましたし、最近のご活躍も見ていたので、是非にとお願いしました。

『SHELL and JOINT』は、たくさんの俳優の方々が出演しているんですが、それぞれの方の持場は構造上ほぼ1つしかないんです。だから、ほとんどの方が、もしかしたら「私はちょい役なんで…」と思ってないか心配してます。堀部さんと筒井さんがメインキャストというのは分かりやすいのですが、このお2人以外の方々は、全員このお2人に続く助演なんです。もし映画賞で助演賞をもらうとしたら、50人ぐらいが助演賞の対象になるようなイメージです。「ベンチやスタンドにいる部員も含めて、全員で甲子園を戦ったんだ!」ではなく、60人近くが全員グランドにいるイメージです。

それぞれのシーンについて、そして、そのシーンに出演して頂いた方々については、また別のnoteで詳しく書いていく予定です。

「ここまで細かくいろいろ知っちゃうと、もう見なくても良いな。」と思われるレベルで書いてしまう予定です。『SHELL and JOINT』はネタバレしたら面白くなくなる映画ではなく、食べる前に産地とか調理方法を事細かく教えてもらった方が、美味しく食べられる料理に近い気がしていますので。

スタッフ
【エグゼクティブプロデューサー】勝俣円 / 伊東達夫【共同プロデューサー】岡崎陽子【ラインプロデューサー】石井佳美【プロダクションマネージャー】天竺桂陽子 / 春野和【音楽】渡邊崇【音楽制作助手】青木健 / 中原実優 / Lantan / Kevin Lin【歌】蔵田みどり【音楽エンジニア】片倉麻美子【音響効果・整音】飯嶋慶太郎【録音】土方裕雄【フォーリー】飯塚晃弘【カラスの鳴き声】飯嶋ももこ【イラストレーター】オガワユミエ【アートディレクター】村上健【スチール撮影】中島古英【ヘアメイク】神川成二 / 奥野展子 / 藤岡ちせ / タナベコウタ / 和田麻希子【照明】野村泰寛 / 古川隆柾【美術】後藤開明 / 水谷さやか【衣装デザイン】高橋さやか【衣装アシスタント】仲西瑛美【振り付け】我妻恵美子【オフライン編集】米澤美奈【翻訳】Anthony Kimm【マペット制作】川口新【現場サポート】天竺桂英生 / 中澤祐樹 / 四谷文音 / 佐藤凌 / 小山正博

制作側のスタッフはざっとこんな感じです。ロケ地や小道具などでご協力いただいた方々を入れたらもう少し増えますが、それでもここからそれほど増えません。長編映画にしてはかなり少ない人数なので、エンドロールにしたらすぐに終わってしまいますね。

エグゼクティブプロデューサーに、勝俣さんと伊東さんがいますが、いわゆる出資したことだけで名前が載っているエグゼクティブプロデューサーではなく、出資もしてるけどスタンドインもするし、コンビニに飲み物も買いに行くエグゼクティブプロデューサーです。それは『SHELL and JOINT』が自主制作した映画だからです。

自主制作映画という言葉は、映画界隈にいる人にはあまりにも馴染みのある言葉で、解説は必要ないと思いますが、映画界隈にいない人からはよく分からないかも知れませんので、ちょっと説明してみます。

普段、シネコンなどで上映されている映画の多くは、ビジネスの枠組みの中で作られています。ビジネスだから売れる映画を作ります。ビジネス上の優先順位の一番上にあるのは「売れる」です。もっと言うと「ヒットさせる」かもしれません。売れるためには誰が出演してどういう映画を作ればいいか考えます。クルマ、台所用洗剤、缶コーヒー、保険なんかのプロダクトと同じで、どうやったらより多く売れるかを考えて作るんです。「売れないかも知れないけど作る意義がある。」なんて理由では作れません。だから、大ヒットした原作の小説やマンガで、いま最も人気のある俳優で、もっとも勢いのある監督が映画を作るんです。当たり前ですよね。ビジネスなんで。

一方で自主制作映画というのは、作りたい人たちが勝手に作ってる映画なんです。勝手にと言うと言い方は悪いんですけど、作りたい映画を作ってると言いますか。私はよく自主制作映画をこう例えるんです。

みんなでお金を出し合ってクルーザーを借りてカジキマグロを釣りに行きます。運良くカジキマグロが釣れたんで、陸に上がってみんなでそれを刺し身やステーキにして食べます。「ああ楽しかった!美味しかった!また来年もやろうね!」というのが自主制作映画なんじゃないかと思います。釣りたいから釣ってるんです。誰かに依頼されて釣ってる訳では無いですから。

じゃあなぜ、その自主制作映画をビジネスの場である劇場で公開しようとするのか?

カジキマグロ釣りで例えると、「かなり大型で良質のカジキマグロが釣れたから、これをみんなで食べちゃわずに、漁港の市場で買ってもらおう。」と思うからです。でも基本的には市場は漁師のビジネスの場だから、買ってくれるかどうか分かりません。でも、100kg超えのカジキマグロが釣れたから試しに持っていくんです。もしかしたら、高値で買ってくれるかも知れません。「釣った魚を市場に卸してみたい」と「作った映画を劇場公開してみたい」は同じ事なんだと思います。でも、どちらも誰からも依頼されては無いんです。依頼という言い方が分かりにくいとすれば、「お金をあげるから釣ってきて」「お金をあげるから作って」と言われてないという事です。

自主制作映画の説明が長くなってしまいましたが、『SHELL and JOINT』は、みんなでお金を出し合ってクルーザーを借りてカジキマグロを釣りに行ったタイプの映画なんです。でも実はこれってYouTuberと同じなんですよね。ほとんどのYouTuberは自主制作ですから。「お金をあげるから作って」って言われてないですから。

スタッフの話を続けます。音楽は毎回作ってもらっている渡邊崇さん。渡邊さんと作品を作るようになって、10年以上になります。映画業界では私は無名ですが、渡邊さんは有名です。『舟を編む』で日本アカデミー賞の優秀音楽賞を受賞していたりと、本当に数々の映画に携わっています。ですが、渡邊さんの一番コアな部分に触れられているのは私なんじゃないかと、勝手に思っています。何て言うんでしょうか、それこそ作りたい音楽をそのまま作っている感じと言いますか。前に何かの記事で読んだことがあるのですが、「監督は何人のアーティストを自分の周りに集めて作品を作れるかにかかっている」と書いてありました。スタッフじゃなくてアーティストです。自分の言うことを聞いてくれるスタッフではなく、ハッキリした自分の世界観と考えを持ち、監督のイメージから遥か上にジャンプさせることが出来るのがアーティストです。渡邊さんは間違いなくアーティストです。

他のスタッフの方々については、また別のnoteで詳しく書く予定です。乞うご期待!

スタッフリストを見たら分かるのですが、主要スタッフである、脚本、撮影、編集のスタッフがいないのですが、それは私がやっているからです。監督としてこんな事を言ってはあれなんですけど、ゼロからアイデアを考えて、映画のフォーマットを考えて、構成を考えて、脚本を考える段階が一番面白いんですよね。映画の中に存在する世界を、神のように考えて作れるわけですから。でもやっぱり一番難しいのも脚本だなと思います。私は専門的に脚本の勉強はしていないので、映画の本と言えば脚本の本ばかり読んでいます。それにしても脚本は難しいです。

しまった!5000字も超えてしまったので、今回はこのぐらいにしておきます。こういうnoteを劇場公開に向けて定期的に書いていく予定です。

予告篇をどうぞ!


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