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もはや付加価値でもなく

私は映像の演出家として20年ぐらい働いてきました。映像の演出家というのは、いわゆる監督と言われている仕事で、出来上がる映像のクオリティに対しての責任を持つ役割です。私がやって来たのは広告などのクライアントワークにおいての監督です。

映像の監督を一番シンプルにコンパクトにやろうと思えば、手ぶらで出来る仕事です。「こういう映像にしたい」というビジョンを各方面のスタッフに伝えれば済むからです。

ひと昔前は、そういう監督がゴロゴロいました。「演出家でござい」とばかりに、演出以外何も出来ないんです。演出家なんだから演出以外出来なくていい時代でもありました。

いやしかし!

私が監督を始めた時はすでに、監督が撮影をしたり編集をしている時代でした。まあその初期の時代でしたかね。監督が撮影や編集をやるようになったのは、撮影や編集の機材の進歩とMacのおかげです。

そうやって監督がいろいろな役割を兼務する時代に突入したんです。私は元々グラフィックデザイナーでAfterEffectsも使えたので、監督をやりだした当初から兼務型の監督でした。

予算の小さい仕事だとかなり丸投げされました。演出、撮影、編集、デザイン、CG,音楽ぐらいまではやりましたね。そのスタンスで10年ぐらいやったんですが、あまりにも負担が大きくて過労死しそうになって、少し減らすようになりました。

同時に15本ぐらい仕事が動いている状態での兼務は危険です。特に編集とデザインを兼務してはいけません。集中力を長時間キープさせる必要がある仕事だから疲労が半端ないんです。死にます。死にかけました。

でも、そうやっていろいろと兼務してやっていましたが、兼務している分のギャラは貰えませんでした。私が貰っていたギャラはあくまでも演出家としてのギャラだけです。撮影をやろうが編集をやろうがデザインをやろうが、「監督のこだわりとしてやっている」という設定になるので、ギャラが増えることはありませんでした。「やりたくてやってるんでしょ?」というスタンスになるんです。いや、過去形の様に話してますが、現在進行形の話でもあります。「あの〜、撮影とか編集した分のギャラって追加でもらえるんですかね?」と聞いたら「またまた〜w」を言われるだけでしょう。

でも、私はそれらの兼務を付加価値として捉えてきたので、そもそもギャラを増やして欲しいと思ったこともありませんでした。私はデザイナー出身の監督で、助監督や制作部の経験もせずに監督になってしまったんです。だから、「演出のプロ」という自信はずっとありませんでした。自信がないから付加価値を付けたんです。

まあ、そんな風にずっとやって来ましたが、ここ数年は付加価値などと悠長なことを言っていられなくなりました。基本的に企業が出す映像制作費がどんどん安くなって行ってるからです。映像制作費が少なくなると、やれることが限られます。やれることが限られるとは、いろいろなスタッフに頼めなくなるということです。要するに人件費が払えないという事です。

そんな時代になりましたが、私は元々兼務型の監督なので兼務をすればいいんです。今でも普通に撮影、編集、デザイン、グレーディングもやってます。私が幸運なのは、監督業を始めた当初から今まで、使っているソフトが変わってないことでしょう。AdobeのIllustrator、Photoshop、AfterEffects、Premiereがあればほとんど仕事になります。もし、途中でソフトの激変があって着いて行けなくなっていたら、今ごろ私は映像の仕事をしてないでしょう。

いやしかし!(2回目)

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