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超個人的、坂本勇人への雑感

ホントにいい選手なのに…どこか感じた物足りなさ

「いい選手だけど、どこか地味なんだよなぁ」――実は数年前まで、坂本勇人に対してこんなイメージを持っていた。

 いい選手なことは十分わかっている。プロ入り2年目で開幕スタメンに入って、まもなくレギュラーに定着。3年目には打率3割超え、4年目には全試合&フルイニング出場して31本塁打(それも守備の負担が大きいショートで!)と、弱冠21歳にして、坂本は一流選手の階段を一気に駆け上がっていった。

 ただ…5年目以降の坂本は何か物足りなかった。統一球が使われた影響もあって5年目の打率は.262まで低下。自身初タイトルとなった最多安打を獲得した6年目は打率こそキャリアハイ(当時)の.311だったものの、本塁打はわずか14本止まり。

 そして7年目~9年目の間に至っては打率が.280を超えることもなければ、本塁打も最高でも16本(8年目/2014年)。いい選手なのはわかるけれど、一流選手と言うにはちょっと物足りないし、ましてやONや松井秀喜らと並んで「巨人の顔」と言われると、どうしても地味な印象が拭えなかった。

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 守備負担の大きいショート、そして2015年からはキャプテンを務めるなど、それらの負担を考えれば十分すぎるほどの成績を残していたが、2010年の成績を見ると「もっとできるはずなのに」と、どこか物足りない。

 贅沢な話ながら、巨人の歴史を振り返ると広岡達朗や川相昌弘など「堅実な守備で巧打のショート」というのは時代ごとにいた。裏を返せば巨人のショートのレギュラーになるには最低でも打率.260前後打てて、守備が優れていないとならないということでもある。

 正直、2015年時点の坂本でもそれだけの成績は残していたし、巨人の歴代のショートと比べても遜色なかったのは間違いない。もちろん、坂本のウリである勝負強さはこの3シーズンでも十分感じていたし、二岡智宏がやらかしたことで、期せずして10代ながらショートのレギュラーを獲得したように、持っているヤツという印象はあった。

 だからこそ坂本に対して、たかが打率.260台ぐらいで「よくやった!」とか「巨人の顔」とは言いたくない――そんな思いがあった。

 それはおそらく、坂本も同じだったのだろう。だからこそ2016年のシーズン前、坂本は動いた。

坂本を変えた「泥臭いまでの貪欲さ」

 直近3年の成績が芳しくないということで危機感を抱いていた坂本は、なりふり構わず他球団の主力打者にアドバイスを求めたという。スマートなプレースタイルからはとても想像できないほどの貪欲さ、求道者としての一面を持っていたからこその行動だろう。

 思えば、若手のころの坂本は縁もゆかりもほとんどないはずの宮本慎也の合同自主トレに参加したことがある。球団の垣根を超えた合同自主トレは当時の球界では異例中の異例で、主宰側ならまだしも、若手とはいえ巨人の選手が他球団の主力の自主トレに参加したというのには驚いた覚えがある。

 ただ、「上手な人に教えてもらうのが当然」と考えている坂本からしたら、その選択になんの違和感もなかったことだろう。そうした考えを持つ選手だからこそ、後輩がアドバイスを求めてこない様子にやきもきしたというのも頷ける。

そうして迎えた2016年、坂本はついに目を覚ました。

 開幕早々の3~4月を打率.352という打率を記録すると、打率は6月を除いて.330超え。チーム全体で苦手としていた広島相手でも.346と孤軍奮闘し、シーズントータルで打率は.344で自身初となる首位打者、最高出塁率(.433)のタイトルを獲得。ショートを守る選手が首位打者になるのはセ・リーグで史上初という快挙を成し遂げた。

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 さらに長打力も増したようで、本塁打も2010年以来の20本超えとなる23本をマーク。1年前までのどっちつかずな成績しか残せなかった坂本はそこにはもういなかった。2017年以降、打者の指標を現すOPSは一流選手の証である8割を切ることはなかったし、出場試合以上の安打数は必ず放っていた。

 昨季に至っては主に2番を打ちながら4番の岡本和真を凌ぐ40本塁打を記録。もはや地味で物足りない選手どころか、プロ野球界歴代最高のショートと言っても過言ではない選手となり、その存在こそがレジェンドとなった。

2000本安打はまだまだ通過点。本当のゴールは……

 通算2000本安打まで残り116安打と迫った2020年。記録多勢氏はもちろん、仮に7月半ばまでに達成すれば、坂本は榎本喜八の最年少記録(31歳7ヵ月)をも更新するため、いつ記録を更新するかも話題になっていた。

 残念ながらコロナウイルスの影響で開幕が3ヶ月近くもズレ込み、しかも開幕直前には坂本自身もコロナウイルスに感染。その影響もあったのか開幕直後こそスロースタートとなったが、徐々に調子を上げて9月以降の打率は.324にまで上げてきた。

 坂本が安打数を重ねるうちにチームは10月30日にセ・リーグ連覇を達成。残り5試合、ホームゲームでの開催はあと2試合というところで坂本の通算安打数は1998本。大記録達成に王手をかけた。

 大記録達成まであと2本と迫っていた11月7日の対ヤクルト戦、ここまで13打数ノーヒットと抑え込まれていた小川泰弘を相手に1安打を放って、大記録達成についにリーチ。この日の試合終了後、球団は翌日に通算2000本安打を達成した際は記念セレモニーを行うと発表するなど、そのボルテージは最高潮にまで高まっていた。

 そして迎えた11月8日。坂本はいつものように3番ショートで先発出場。1回の裏に回ってきた第1打席でレフトへ2塁打を放って、ついに2000本安打を記録した。割れんばかりの拍手が東京ドーム中で巻き起こり、この日1番の盛り上がりを見せた。

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 常人なら、これで緊張の糸が切れてあとの打席は凡退続きになりがち。だが、坂本は記録達成後の第2打席、2001本目のヒットとなる一打をバックスクリーンへと叩き込んだ。その姿はまるで2000本安打すら通過点と言わんばかりに。

 この日の東京ドームで日テレジータスが主催するイベントに出演した少年は坂本にこんなメッセージを送った。

「坂本選手、4000本安打目指して頑張ってください!」

 張本勲が持つNPB通算安打記録、3085本を優に超える通算4000本安打は普通なら達成不可能に思える途方もない数字だが、もしかしたら坂本ならイケるかも…という夢が見られる。

 今後も彼の一挙手一投足に想いを馳せ、夢を見ていきたい。今やプロ野球界の唯一無二の存在となった坂本勇人だからこそできることである。

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