同居人たちの抑揚のない日々(1話)

(これでもコメディ小説を書いているつもりです!)


崩れる音、倒れる音、割れる音、悲鳴が聞こえる慌ただしい部屋から美咲はリビングへ勢いよく飛び込んだ。

リビングでは朝の優雅な時間が流れている。

ホットケーキの焼く甘い匂いが部屋中に広がっていた。

台所の奥では母親の笑美がパジャマ姿で立っている。

姉の百合香がスマホに夢中で口に箸をくわえたまま止まっている。

リビングのテーブルには目玉焼きと焦げ目のあるソーセージ、味噌汁と炊きたての白いご飯。

3人分揃っている。

「ねぇ、同じ靴下で左右長さが、ち、ちがうんだけど、なんで?」

落ち着きのない様子でスーツ姿で裸足の美咲が噛みながら言った。

「ほら、これも」
と何本か手に持っていた靴下を何組かソファーに並べて見せた。

「一度気にしはじめたら全部長さが違うように感じる」

百合香が箸を口にくわえたまま振り返った。

「その藍色のと黒の靴下は長さ合うじゃない?」

寝ぼけたような話し方をした。

「うん、ぴったり」

と試しに重ね合わて確認した。

「色違いはだめよ。ビジネスパーソンは足下から気を遣わないと!取引先のところに行って挨拶するんだから」

「もう、前日に準備しとかないと」

笑美が他人事のようにおっとりとした口調で言った。

「いつもはこんなことなかった!」

腕時計を確認して、再び焦りを感じ手を震わせた。

「そう言えば片方だけ成長期って占いに出てたわよ。でも靴下のことだとは思わなかった。」

と百合香が首を振りながら言った。

「普段は当たらないのにね」

と言い残し、美咲のドアを勢いよく閉める音が聞こえた。

「お母さんパンケーキまだ?」


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