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”自然体験活動”がもたらす効果

 このメルマガや記事をお読みのみなさんは、おそらく体験活動が子どもや人を育てると信じてプログラムを提供している、あるいは子どもを送り出している方々かと思います。ところで、実際のところ自然体験活動にはどのような価値や効果があるのでしょうか。

 今回ご紹介するのは、自然体験活動(とりわけ冒険的プログラム)がもたらす効果について考察してみました。

既に日本でも様々な根拠が示されている!

 国内で子どもたちの体験活動を研究・推進している国の機関「国立青少年教育振興機構」や文部科学省は過去何年にもわたって青少年教育へ体験活動を導入する意義についてその効果を研究し発表しています。
  その中では、体験活動をたくさんした子どものほうが、家庭の経済事情等に関係なく、自尊感情の高まりや外向性の高さが得られるとされています。 調査によっては「学力や年収との関係性もある」というレポートさえ存在しており、思わずホンマかいなと思ってしまいますが、そういう効果もあるようです。

冒険プログラム分野の世界的リサーチャー「サイモン・プリースト博士」の講演会に参加して得たこと

 カナダ在住で世界を代表する冒険教育研究者のサイモン・プリースト博士が来日したことを記念する講演会に参加してみました。サイモン博士は世界中の冒険教育に関するエビデンスを検討しており、10,000を超える世界の論文から「すでに世界中の論文がサポートしている冒険プログラムの効果に関する事実」を改めてまとめてくれました。

Simon Priest, Ph,D.の講演会にて

・そもそもここで言う「冒険プログラム」とは何か…。

 体験学習には有名な「体験学習モデル」という学習の過程が定義されています。
・実施(プログラムの体験)
 ↓
・ふりかえり(体験でなにが起きたのか、何を学んだのかを浮き彫る)
 ↓
・統合/一般化(学んだことを、体験を日常にどう活かすかを考える、見定める)
 ↓
・継続(統合したことを日常で活かし続ける)
 これらのサイクルを繰り返すことが、体験活動による教育効果を最大限に引き出すヒントになるということだそうですが、この実施フィールドに自然を用います。
 そもそも自然の中での活動にはたくさんの「不確実性」が存在します。具体的に言うと下記の4つの要素が組み合わさることで、参加者からすると「何が起こるかわからない。わからない事からくる不安」が生じるわけです。この不安は同時に人間教育の「学習の材料」でもあるわけです。こうした条件下で実施されるプログラムを「冒険」と定義しています。

効果を引き出す冒険プログラムの構成要素

エビデンスから実証されている冒険プログラムが生み出す効果

 今や世界で10,000を超える野外教育とその効果を示すエビデンスが存在しているそうで、それらを統計学的に分析していくと、次のようなポジティブな効果がすでに研究ベースでは実証されているようです。

【自己・自己との繋がり】
自己効力感・自己概念・自己意識・自尊心・ローカルオブコントロール・行動の変化・自己有効感・臨床との変化・再犯率の低下・依存症の低下

【社会:他社とのつながり】
自然への気づき・環境に対する責任感・生態系の理解・自然に対する態度・環境保護に対する態度・土地への愛着・環境意識・畏敬の念・自然保護のための行動

【身体的健康・運動習慣】
肯定的環境・包括的な健康増進・身体活動の増加・肥満防止・死亡率の低下・免疫機能の向上

【メンタルヘルス・自然とのつながり】
人生の幸福感・満足感・一般的な楽しみと幸福感・生活の質・認知能力・疲労の低下・ストレスの低下・ポジティブな感情・心理的障害の治癒・ポジティブ感情・うつ病の改善・不安の軽減・ポジティブ感情の強化・ネガティブ感情の軽減

【学力向上】
読み書き算盤・生物学・一般的な科学・学生の募集・在学率・学校の満足度・学業成績・進学率・就職率

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 いかがですか?「いわれてみれば…」と過去の体験を振り返って当てはまりそうなものはありますか?
 よくアウトドアや野外活動、ひいては冒険プログラムと聞くと、「課題解決に直結しない」とか、「遊んでいるだけで意味をなさない」「時期尚早」と受け取られる方もいらっしゃいますが、それは必ずしも正しい認識とは言えないかもしれません。
 野外でのプログラムには多様な可能性があり、対象と目的に応じてデザインの仕方と価値の出し方があり、多くの効果を潜在的に有しています。どうも日本ではこの分野まだ開発途上なようで、今後さらなる発展が期待されているようです。

 ひの自然学校としても、今後さらに多様なニーズを野外の力で解決していけるようなスキルアップとネットワーキングに努めていきたいと思っていますが、今日は「野外のチカラ」を改めて知っていただくことができたでしょうか!?「外遊び」も必ずしも無駄とは言えなさそうですね。

参考文献
・かわいい子には体験をー国立青少年教育振興機構
・社会を生き抜く力ー国立青少年教育振興機構
・Effective Leadership in Adventure Programing-Simon Priest, Michael Gass
・野外教育って何?(パート1)-OUTDOOR LEADERS BLOG , backcountry classroom,Inc. 

余談ですが、サイモン博士が著した世界的な冒険教育の理論書「Effective Leadership in Adventure Programing(冒険プログラムの効果的な指導法)」のハイブリッド版が世界同時翻訳される運びとなり、ご縁がありひの自然学校から寺田(まめた)と若泉(わか)が翻訳事業に参加させてもらいました。体系立った野外教育理論が満載の日本語版書籍です。ぜひご覧ください!

ひの自然学校担当ディレクター 寺田(まめた)

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