僕と君は結ばれない③

僕が、能力を使い彼の姿を見ると前回と同じ映像が流れた。公園で彼らが出会ったこと、そして花を彼が彼女に渡したことなんかのそんな当たり前の光景が流れていた。そして、問題のシーンにたどり着いた。




 彼が、彼女を庇い車にはねられるシーンだった。彼が車にはねられると、そこで映像が一時停止した。まるでビデオテープを一時停止した時のような不自然な静止具合だった。そして、まるで運命に命や感情が備わっているかのように、焦ってビデオを巻き戻しするように高速で映像が逆回転し始めた。




そして、最初の映像に戻ると、今度は早送りで最初から終わりまでを映し出してきた。そんなことが、五往復ぐらい行われた。それから、急にテレビの電源を切るように映像がブラックアウトした。それから、十秒ほどした後だろうか。また、テレビの電源をつけたように映像がたちあがった。けどそこには何もなく砂嵐が映しだれるだけだった。




「どうだった?」
 彼は、僕にそう尋ねた。こんなことは初めてだった。僕は驚き沈黙するだけだった。そんな僕の肩を揺さぶり、彼は僕を正気に戻そうとしていた。しばらく、全ての感情を失い、茫然自失として立ちすくしたあとにようやく絞り出すように僕は呟いた。
「……運命が消えた」



 彼が、どういうことだよ、何があったんだよ、と僕に追い打ちをかけてきた。僕は、ごめん、ちょっと一人で考えたいんだ、とかろうじて言葉をひねり出すと逃げるように走り帰った。



家につくと、母親に挨拶もせず自室に逃げ帰りベッドへ行き、布団をかぶりぶるぶると震えた。何かとんでもないことが起きているのではないかと怖くてしかたがなかった。母親が心配して、真っ暗な僕の部屋に来て、何も聞かずに抱きしめてくれた。暗闇の中で温かさが染みるように、僕を包んだ。僕は、不安が紛れ、安らいだ気分で眠りについた。



 僕は、朝起きて両親の映像を見た。特に変わりはなかった。この能力がおかしくなったわけではないんだ。さらに確認するため、いつも登校時間にボランティアで立っているおばさんの映像をみた。だけど、前見た時からやっぱり変わってはいなかった。だから、おかしくなったのは彼の運命だけだ。




 クラスにつくと、彼が話しかけてきた。昨日はごめん、そう伝え僕が見た映像のことを彼に説明した。話を聞いた彼は、眉間に皺をよせ何事か考えているようだった。それから、彼は僕に急に関係のない質問をぶつけてきた。
「なぁ、佐藤。お前本当にあの噂のこと、俺のせいだと思ってないよな?」
彼は念を押すようにそう呟いてきた。


僕は、そもそもどんな噂が流れているのかすら知らないよ、と言った。彼は安堵の表情を浮かべるとまた眉間に皺をよせ考え込んでいた。
「もしかしたら、お前が運命を変えたことで何か未来に影響がおきてんのかもな」
 彼は、そう言うと僕にもう一度俺の運命を見ろと命令してきた。僕は、その頃には他人の運命を見られることによる好奇心よりも恐怖が勝ってきていた。僕は、正直見たくなかった。おそらく、ミュウが貰えることになっていなければ最後まできっと断っていただろう。結局、友情とミュウの後押しを受けて僕は彼の提案を受け入れた。



 だけど、やっぱり何も映らなかった。ただの砂嵐だった。何も映らなかった。まるで彼の存在自体が最初から存在しないように……。そこにはただひたすらに砂嵐しかなかった。僕は、それをありのまま伝えた。彼は考え込んだ後に、なら、あいつのことを見てみようぜ。もしかしたら、そっちには何か映っているかもしれないしさ、と言ってきた。



 彼が、僕と彼女を引き合わせてくれるようにセッティングをしてくれた。僕は彼女に恋心を抱いてきた。だけど、彼女のほうから話しかけてくれるようなことがなければ、僕から話しかけたりすることはあまりなかった。例えば彼女が小型の鉛筆削り器を忘れた時とか、シャーペンの芯や消しゴムがなくなったことに気づくことがあれば、こっちから話すことはあった。けど、それ以外の状況でこっちから会話をすることはあんまりなかった。



 彼女は僕の姿を見ると、真っ赤に燃えるような怒りの目を向けていた。
「琢磨に頼まれなきゃ、佐藤君と会うつもりなんかなかった。だってあんた……」
 彼女が続きの言葉を吐こうとすると、彼は彼女の口を塞いだ。それから、彼女に耳打ちする様に、さっきも言ったろ、こいつの前でそのことを話すなって……。彼女は怒りをたたえた目を僕に向けたまま黙った。


彼女を庇ったことで僕が左腕を骨折したのをそんなにも気にして怒ってくれているとは思わなかった。そのことに怒りの感情を向けられているにも関わらず、胸から喜びが湧いてくるのを感じた。それに折れてしまったこの左腕を名誉の負傷だと誇りに思うことが出来そうだった。


それに、彼も彼女が言いすぎて僕が傷つかないでいいように、彼女のことを口止めしてくれた。僕は本当に素晴らしい友人を持ち、同時になんて徳の高い人を好きになったんだと高揚した。そのことで、さきほどまであった運命を見ることへの恐怖は吹き飛んだ。彼らの力になりたい、心からそう思った。



 彼が僕に近づき耳打ちした。
「能力のことは伝えていない。お前もあいつに変な奴だって思われたら困るだろ。あいつには手相がみれるってことにしてある。お前が将来占い師になりたいからそれの手伝いとして練習台をしてやってくれって、そう頼んで連れてきた。前聞いたが体の一部分が映っていれば、お前のその能力は使えるんだろう?」



 僕は頷き、そうだと言った。それから僕は彼女の手をとった。女の子の手を握るなんて、なんて破廉恥なんだと思った。彼女の左手を両手で拝見するように見た。



 映像が描写された。そして同様に交通事故の場面まで流れ、彼が轢かれる映像すら通り過ぎた。それでも映像は流れた。そして、場面転換が起き、彼女が葬式で泣いている場面が映った。その瞬間に、映像は標本に使われる針で固定されたように身動きをやめた。それから数秒後、突然動き出すと早送りになり、彼女が老婆になり自宅で息を引き取るところまで加速した。そして、その部分から少しずつ映像が巻き戻りながら、データを消すように、映像が黒く塗りつぶされていった。


それは、まるで未来から今へ正しいデータを送りなおしているようだと思った。
「どうだ? 何か分かったか?」



 僕は頭を振り彼に、今、未来が消されていっている。そう耳打ちした。
「ねぇ、まだなの? 佐藤君の手、びしょびしょで気持ち悪いんだけど」



 僕は、申し訳なさで胸がいっぱいだった。好きな女の子に触れることなんていうのは、僕みたいな人間には劇物と変わらないのだ。塩酸が手にかかったら、皮膚が溶けるように僕が彼女に触れれば汗をかくのは必然だった。そうは言ってもやはり申し訳なかった。そうしているうちに、彼が轢かれるところまで巻き戻っていた。



 それから、僕はその映像から彼が消えていくのが見えた。そして、彼女が消えていくのも見えた。未来は白紙に戻った。そう思った。僕はそこから彼女達の続きの思い出が繰り広げられるのではないかと思った。


彼を見た時とは違い、それ以上巻き戻ることもなく砂嵐にもならなかった。それに事故当時の映像には、彼らが映っていないのに突っ込んでくる軽トラックの姿があった。だから、きっとそこに彼らの思い出が映し出されるのだろう。僕は、それを待った。そうして待っていると、まるで火であぶり出されるように二人の姿が浮かび上がってきた。



「ねぇ、まだなの。本当に嫌なんだけど……。それになんか今度は手が氷みたいに冷たいんだけど……」
 彼女は、彼に心底嫌そうな顔を浮かべそう呟いていた。
「なぁ、まだか?」
 そう言われた時の僕は一体どんな顔をしていただろう。そこには彼女にタックルする僕の姿と驚きながら倒れそうになっている彼女の姿だけが映っていた。



そう、これが昔の話さ。そして今からするのが今の話さ。何、さっきの話の続きが気になるって。まぁ、おいおい話していくから気にしないでくれよ。そんなことより、今俺は変な女に付きまとわれて困っているんだ。本当に勘弁してほしい。そいつは、俺が運命の人なんだ。だけど、控えめに言って頭がおかしい。それは今から話していくけどさ……。今まで俺のつまらない話を聞いてくれた君達だ。だから、きっとこの先も聞いてくれるにちがいない、そう思って話すことにするよ。




高校三年生になった僕の元にあいつは現れたんだ。新入生代表の挨拶を、あいつはしていた。俺は、ようやるなぁ、そんな風に思って気だるげにあいつの挨拶を聞いていた。全校集会が終わって、各自それぞれのクラスに戻った。クラスでホームルームが行われているときに奴はがらりと扉を開けてうちのクラスに入って開口一番に言った。



「佐藤 健一先輩はいますか? 話があるんです」
 俺は焦ったね。急に何が起きたんだってね。そりゃあそうだろう。だって、俺らのクラスがホームルームをやっているってことは、あいつのクラスだってそうだろう。クラスの奴らも皆も驚いていたよ。なんてったって、新入生代表の挨拶をするほどのやつなんだぜ。教師だって、そりゃ何も言えずフリーズするさ。そりゃそうだよな、もしかしたら、校長や教頭に頼まれ事をされて、ここに来ているのかもしれないからな。


入学初日で、いきなり上級生のクラスに訪れるなんてよほど緊急の要件にちがいない。だれもがそうおもった。だから教師もいったのさ。
「冴木さん、どうかされましたか? 他の先生からの伝言ですか?」
 彼女は勢いよく横に頭を振った。



「それだったら……」
教師の言葉を遮るように彼女は発言を続ける。
「佐藤先輩、いるんでしょ。いるんなら立ってください」
 周りの生徒からこづかれ、だるそうに右腕をあげながら俺は立ちあがった。



「あなたが、佐藤先輩ですね。…………うん間違いない」
「おう、俺が佐藤だ。何だよ、急に。何か用か?」
 彼女は満面の笑みを浮かべて、細胞全体を喜ばせるように体を震わせながら言った。
「先輩、好きです。付き合って下さい」


 おい、これがまともな女のすることか? なぁ、ぜってぇ頭おかしいだろ。まぁ、その時の俺は、あいつの運命の人が俺だったなんて知らなかっただけどな。この能力のおかげで俺の人生は狂いぱっなしだったよ。お陰で俺はこの年にいたるまで、色々な自分を知るはめになったよ。まぁ、それも過去の話に少しからんでくるから、後でちゃんと話すけどよ。



 はじめに言っておくが、健全な成長で俺がこうなったなんて思わない方がいいぞ。でも、よく分かんねぇよな。昔の優しい性格の頃よりも俺は断然もてるようになった。ほんっと女って分かんねぇ。


他校にも俺のファンクラブなんてものがあるらしい。俺の写真は、それなりの値段で取引もされているらしい。正直俺が欲しいわ。もちろん金の方な。何が、悲しくて自分の写真なんかもたなくちゃいけない。だから、下校中に俺に告白してくる他校の女子やひいては年下の女子中学生が校門前で出待ちしていて機会をうかがっているなんてこともあった。



俺はやつもその中の一人だと思った。やべー奴に目をつけられた。なおかつそいつの運命の相手が俺なんて……。……最高だぜ。まったく本当に最高……。そうして、俺の糞みたいな青春もどきが始まりやがった。

いつも読んでくださってありがとうにゃ。 ゆうきみたいに本を読みたいけど、実際は読めていない人の為に記事を書いているにゃ。今後も皆が楽しめるようにシナリオ形式で書いていきたいにゃ。 みにゃさんが支援してくれたら、最新の書籍に関してもシナリオにできるにゃ。是非頼むにゃ。