僕の愛した君はいない⑫

 放課後になり、保健室に行き、未紀先生に話をすることになった。既に紙に書いてあることも含め、伝えた。大空さんとの会話の内容も言うよう言われたが、本人に許可をとっていないのにそれはできないと、そこは譲れないと頑なに断ると、何とか納得してくれた。


「ふーむ、なるほどねぇ。そんなことになってるとはねぇ……。ねぇ、今ここで入れ替わってみてよ」
「いや、大空さんは部活に入っているので、急に視界が変わったりしたら部活に支障がでますよ」
 これは、断るための情報の開示だし、大空さんも許してくれるだろう。
「あー、そうなんだぁ。うーん、出来れば大空さんの話も聞いてみたいところだけどね……まぁ、それもそうか。なら仕方ないか」


 それから僕は、ふと疑問に思ったことを質問してみた。
「そういえば、先生はいつから入れ替わっていることを確信したんですか? あと、どうやって僕があのトイレにいるって分かったんですか? 一応トイレに入るときに周りを確認したんですが、誰もいなかったんですが……」
「あぁ、それでそんな苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべていたんだね」
 未紀先生は得心いったように頷いた。


「簡単だよ。一つ目は保健室で眼球が別方向に動いた時に疑問を持ったわけだよ。次にカウントダウンでひっかけをしたら、見事に引っかかってくれたからさ。泳がせておいて、さらに眼を回してもらったら、微妙に速さが違ったからね。それで確信したわけだよ」
 やっぱり、あの段階で気づかれていたのか……。まぁ、そりゃそうだろう。別々の人間が同時に眼を動かすわけだから誤差があるのは仕方がない。


「それじゃあ、次にどうしてあのトイレにいると分かったのですか」
「それも簡単だよ。君は体調が悪くないのにトイレに行っていた。君の歯切れの悪さから本当にお腹を崩していないことは明白だったしね。……つまりは、そこを入れ替わった際の密会場所にしている可能性が高いわけだ」
 それだけで、そこまで分かるのだなと感心した。
「えぇ、そこまでは分かりました。だけど、どうやってあそこのトイレだと分かったのですか? 後ろには誰もいませんでしたよ」


「青いねぇ。なーにこれも簡単な推測だよ。まず、本館のような生徒が集まるような危険な場所のトイレを密会には扱わないだろう。じゃあ、次に職員用トイレを思い浮かべた。それでも、授業が入っていない教師が使う可能性もある。そうなると、普段情報の授業や朝補修で使われる以外は誰も使わない分館のトイレを使うのは簡単に予測できるわけだよ。そうなれば、私は、入れたコーヒーでもゆっくり消化しながら、後から君を追えば、君も私には気付かない。そういうことさ」
 はぁ、頭が回るなぁ、と単純に驚いた。僕はじっくり考えて、やっと考えが一つにまとまるのに対して、未紀先生は予備動作なく、すくに最適解を導きだす。だてに医学部を出ていないわけだ……。


「おぉ、初めて君が私に感心するような表情を浮かべたねぇ。君のような普段表情を出さなさそうな人からのそういう視線は、他の人達から向けられるよりも気持ちがいいねぇ。もっと尊敬してくれてもいいんだよ」
「本当にすごいと思いました」
「いやぁ、それほどでもないよ。気分がいいなぁ。コーヒーでも出そうか。まぁ、今は看護師がいないから私が注ぐことになるんだけどね」
「ありがとうございます。あっ、自分で注ぐからいいですよ」
「いいから、いいから、君は向こうの休憩室に行って腰かけておきなよ」
「でも、そこって、学生は入っちゃいけないんじゃ?」
「いいんだってば。ここじゃ、私がルールなんだから……」


 休憩室に入ってコーヒーが出来るのを待っていると鼻歌が聞こえてきた。機嫌がいいとみえる。しかし、陽気な人というのは、機嫌がよくなると鼻歌を歌うように遺伝子に設定でもされているのだろうか。


「あっちー。あーまたやっちゃったよ。とくちゃん、ふきん持ってきて……。あっ、もう帰ったんだった。あー、私ってドジだなぁ」
「……何か手伝いましょうか?」
 少し大きめの声で尋ねてみる。


「ははっ、気にしないで。清水君はそこでゆっくりしてなって」
 不穏な声が聞こえてきたので手伝おうとも思ったが、物の配置が分からなかったので、内心はらはらしながらも先生の言う通り待つことしか出来なかった。


「おまたせ、ははっ、これでも飲みたまえ」
 何事もなかったようにかっこいい先生を演じようとしているのだろうが、さっきの声が頭をかすって、いまいち恰好がつかない。
「……あ、ありがとうございます。有難く頂きます」
「ははっ」
「…………」
「……あっ、そうだ。君に頼みたいことがあるんだけれどね。次に入れ替わるのは今日の九時半と君が言っていたけど、その時に私に大空さんのことを話していいか聞いといてくれないか? 君は頭が固いみたいだから、そこが分からないと大空さんの情報をくれないだろうし……。もし、大空さんが協力をしてくれるなら、私も君達の力になれるしね。ほら、さっき清水君が感心していたように私は頭がキレるから」
 若干、再度評価を改め直しているところにそう言われたが、確かにこの案件は僕達二人に到底負えるものではないと感じていたので渡りに舟といった形で有難く了承しようと思った。大空さんの了承が得られればだけど……。


「分かりました。それでは今日彼女に聞いてみます」
「へぇ、肌の感じと耳の大きさとかで推察出来ていたけど、やっぱり女の子で間違いないんだね」
 今更、何をという表情を浮かべていたら未紀先生は補足説明をしてくれた。


「清水君、君は入れ替わった人物のことを大空さんとは呼んでいたけれど、今まで男か、女かについては一度も言及をしていなかったよ。清水君、君はやっぱりどこか抜けているところがあるねぇ。いくら、周りが君の顔について認識できていないからといって、それだといつばれるか分からないから十分に注意しなよ。それじゃあ、今日はここまでにするから、来週の水曜日までに彼女に許可を取っておくようにね」
「……はい、わかりました」
 

正直、どの発言をどっちが言っていたかまでは、把握していなかった。そもそも誰かに聞かれないようにはしていたが、話始めてからは周りに注意を配れていなかった。ばれる恐れはないと思うが、未紀先生が言うように心掛けだけはしっかりしておこうと決めた。



新年あけましておめでとうございます。ついには2020年になりました。今年もバリバリ最高の一年にしやしょうぜ、旦那方。よっしゃ、皆は新年の抱負とかありますか? 僕は、あります。好きなことだけして生きていく。これですね。しかし、投稿期間が少し空きましたけど、その間に頭でヒロインの境遇が変わったりしていて、どういう展開になるのかが未知数です。大筋は変わらないけど、枝の部分が変わっているので、それがどうストーリーに影響してくるのかは僕も楽しみではあります。


あけましておめでとうございます。皆さんが掲げた抱負が叶い、夢を達成して幸せになることを願っています。今年も一年よろしくお願いいたします。

いつも読んでくださってありがとうにゃ。 ゆうきみたいに本を読みたいけど、実際は読めていない人の為に記事を書いているにゃ。今後も皆が楽しめるようにシナリオ形式で書いていきたいにゃ。 みにゃさんが支援してくれたら、最新の書籍に関してもシナリオにできるにゃ。是非頼むにゃ。