僕の愛した君はいない⑪

 保健室を出て、急いで分館のトイレに向かう。念のため、後ろを時折見ながら来たが、特に追ってきてはいないようだった。
「やぁ、清水君。大変だったみたいだね。まぁ、私のお陰で危機を脱することが出来て何よりだよ」
 ……この状況がいつまで続くか分からない以上は、友好的に接した方がいい。そうだ、その通りだ。自分に言い聞かす。それに、僕がメモをあのまま置いて、寝てしまったのが最大の落ち度だ。協力してくれた彼女に感謝しよう。
「突然の出来事なのに協力して頂き感謝します。お陰で危機を……」
「あー良いってば。ごめんごめん。冗談通じないなぁ。私のせいで疑われたのに感謝までされたら、居心地わるくなっちゃうよ。それと口調、先生と話しているときより固いし、普通に話してよ。私もそうしてるしさ。お互いに訳分かんないことになっていて、そういう風になるのも分かるけどさ」
 どうやら、今までの態度は彼女なりの冗談だったようだ。明らかに本気にしか聞こえなかったので、びっくりだ。今日一番の驚きだ。
「何で、そんなに驚いた顔してるのさ。もしかして失礼なこと考えてない」
 勘は鋭いようだ。
「考えていないよ。ははっ、それじゃあ普通通りに話すよ」
「あっ、今、目が泳いだ。嘘ついてるな」
 彼女のペースに巻き込まれると話が一向に進みそうもないので言葉を遮り発言する。
「ごめん、そんなことより時間がないんだ。話を聞いて欲しい」
「……うん、分かったよ」
 渋々といった感じだったが、今は時間が惜しい。
 それから、僕は仮説ではあるが、三十分でこの通信が切れるだろうということ、そちらが見た夢の内容を覚えている限り、正確に教えて欲しいと伝えた。これは、思い出すのに時間がかかりそうだから次までに思い出しておくと言われた。あと、僕の入れ替わり条件を試したかどうかを聞いた。どうやら試しに昼休みに入ってすぐに、廃校舎に行って試してくれたらしい。だが、入れ替わりは行われなかったそうだ。僕らが入れ替わった日の眠る前に考えていたことも聞いてみたが、特に思い当たらないそうだ。
「よし、こんなものかな」
「いやー、私ばっかり話して疲れたよ。まぁ、話すのは嫌いじゃないんだけど、質問攻めにされるなんて、芸能人みたいだー」
 そう言うと、彼女は鏡の前で腕を上げて伸びをする。
「君は凄いな。こんな訳が分からない状況なのにそんなに余裕があるなんて……」
 彼女は、嬉しそうに笑いながら話しかけてくる。
「何言ってるのさ、君がいてくれたからだよ。私以上に私のことを考えてくれている人がいるって分かったから、こんな風にパニックにならずに自然でいられるんだよ」
 少し照れ臭かったので濁すように言葉を吐く。
「そう、まぁ少しでも君の役に立てたなら良かったよ」
「あと清水君、私の名前は大空鈴っていうの。呼び方は清水君に任せるよ。出身は長崎。これからよろしくね」
「分かったよ。大空さんって呼ばせてもらうよ。こちらこそこれからよろしくお願いします」
 名前は分かっていたが、相手が教えてくれるまでそう呼ばないようにしていた。何が不信感に繋がるとしれなかったからだ。
「うん、よろしくね。お互いに早く元に戻れるといいけどね。…………あっ、そういえば、さっきは何で私の案を却下したんだよ」
「試しに今から僕がその時の状況を再現して見せるよ」
 僕が両目を瞑ると、あっ、という声が聞こえたので、両目を開ける。恥ずかしそうにてへへと笑いながら顔が赤くなっている。
「さぁ、清水君。そんなことよりこれからどうしようか?」
 ……理解してもらえたようでなにより。僕は鏡に彼女が腕時計をつけているのを見つけ、時間を教えてもらった。恐らく残り時間は五分を切っていると分かった。
「もうそろそろ時間が切れるかもだから、通信が切れてもいいように次に会う時間を決めよう。お互いに学校に行っているから、放課後がいいと思うんだけど部活動とかしてる?」
「うん、私バスケ部に入部しているから、ご飯とかお風呂のことを考えたら九時以降がいいな」
「了解。じゃあ余裕をもって九時半に連絡する形でいいかな? 僕もバイトがあるからさ」
「オッケー。んじゃ、九時半集合ね。それまでに私も夢の内容を思い出して書いておくから、それでいいかい?」
「うん、それで大丈夫だよ」
「………………」
「……………………うーん、やっぱり電話と違ってお互いに切りたいタイミングでは切れないみたいだね」
 僕も彼女も気まずそうに言葉を無くしていると、砂嵐が時折混じり始めた。僕は正直安堵した。自由会話というのはとても苦手だ。お互いに気が合えば別だが、こんな事態でもなければ彼女の様なタイプと僕は話をしたりしないのだ。
「それじゃ、清水君またあとでね」
「はい、大空さん、それでは」
 ほどなくして、通信が切れる。やはり、三十分で通信が切れるということで間違いはなさそうだ。お腹が減った。早く自分の教室に戻って弁当を食べよう。僕はトイレを出ようと右折しようとした。
 角ににやりと微笑む未紀先生がいた。会話を聞かれたかと焦ったが、知らぬ存ぜぬで突き通すことにする。
「先生、そこは男子トイレの範囲内ですよ。どうしました? 間違えたんですか?」
「いやー、清水君。大変面白いことになっているみたいだねぇ」
「何のことです。僕はトイレをしにきただけですよ」
「ふふっ、君ならそう言うかもと思って持ってきてよかったよ」
 未紀先生の手にはICレコーダーが握られていた。絶句していると次の言葉が紡がれる。
「いやー、こう見えて私も医師だからね。勉強会とかでよく使ったりするんだけど、まさかこんな形で役に立つとはね……」
 勝ち誇ったような笑顔を浮かべ、僕の出方を伺っている。
「いや、ただのごっこ遊びですよ」
「そうか、そうか。そうかもしれないなぁ。ただ君がそういう風に出るなら、私も学校医として出方を変えないといけないなぁ」
「どういう風にですか?」
「いや、なに簡単なことだよ。勉学に励まないといけない学生が授業をさぼって、こんなことをしているなんてただごとじゃない。ストレスが溜まりに溜まっているに違いない。であれば、私は専門が内科だからね。申し訳ないけれど、近くの精神科に紹介状でも書かないといけなくなるってことだよ。そうなれば、君も未成年だし、両親に報告しないといけないかもなぁ」
 咄嗟にいい考えがないか探ったが何も思いつかなかった。親とは少しでも関わりたくないので、こう言うしかなかった。
「何を聞きたいんですか?」
「ふふっ、君が今体験している全てだよ。まぁ、悪いようにはしないよ。一つの症例として非常に興味があるんだよ」
 それから、予鈴がなる。昼休みが終わった。
「それじゃあ、話を聞きたいから放課後に保健室に寄るように……」
「はい、わかりました」
 それから、未紀先生は笑って手を振りながらこう言い残して去っていった。
「あとね、清水君。医師には守秘義務ってのがあってね、本人が望まない限りは基本的に診察の内容を言えないようになっているのさ。君もまだまだ青いねぇ。それじゃあ放課後にね」
 唖然としてしばらく立ち尽くしていたが、授業が始まっていたのに気が付いて急いで教室に戻る。大地君が大丈夫かと声をかけてくれた。大丈夫、そう伝えると安心したようだった。授業には当然あまり集中できなかった。



おっはよー元気しとーや。さて、クリスマスも終わったのでちょっとばっかし書いていくよ。うん、ちょいと大掃除とかしてたら遅れちゃったよ。家のいらないものとか処分してたらちょいとお腹壊しててさ。寒いところで作業するのはちゃんと防寒具着とかなあかんね。お陰で後書きに筆がのらない。これは重症です。さっさと治しますぜ。僕なら三秒後には完全復活さ。……はい治った。実は6ページほど書き溜めていたのですが、それすら投稿できないくらいに弱ってましたわ。今は、おかゆを作って食べたりしてだいぶ体調が良いので残りの大掃除もさくっと終わらせていきたいと思いますぜ。よし、今日はこのくらいにしときます。


残り少ない2019年も貴方にとって良い年にしていきましょう。僕らならやれます。終わり良ければ総て良し。僕らならできます。一緒に最後に笑って年を越していきましょう。

いつも読んでくださってありがとうにゃ。 ゆうきみたいに本を読みたいけど、実際は読めていない人の為に記事を書いているにゃ。今後も皆が楽しめるようにシナリオ形式で書いていきたいにゃ。 みにゃさんが支援してくれたら、最新の書籍に関してもシナリオにできるにゃ。是非頼むにゃ。