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死の研究⑥

とあるサイトに書かれた内容
誰でも殺せます。地球の裏側にいようが、どこにいようが証拠もなく殺せます。ただし、前提条件があります。それさえ満たせれば、どんな人間でも殺せます。報酬は研究費と実験費用の負担でけっこう。
条件一 その人物の顔と名前、そして今までの経歴ができるだけ細かく分かること
条件二 主要な検索エンジンサイトの記事作成を自由に使えるようにすること。
条件三 テレビ番組で報道する一部分を私たちが管理すること。必要であればその人物に関しての放送をしばらくすること
条件四 民放の日曜朝八時からの枠に私たちが用意した映像を流すこと。
条件五 紙媒体の記事を制作している会社に関しても、記事の一部分を私たちが管理すること
条件六 潤沢な資金で私たちの研究に投資すること。名目は秘匿とし、何にお金が流れているのか探らないこと
 条件七 実験段階が最終段階に入り、十分に効果を実証された場合、速やかに海外に対しても、これまでの条件を飲ませること

とある研究室にて
 あのラットが死んだ日、宮前から連絡があった。ラットが死んでから二時間経過した頃、すなわち実験開始から五時間後のことだ。
 電話がかかってくると、西條はラットの検死を行っている手を止めて、スピーカーモードにするように手で指示してきた。俺は手早く切り替え電話に出た。
「坂口だ。何の用だ?」
 電話の相手は眠そうな声で話しかけてくる。
「いやー、あれから五時間経ちましたが、そちらから連絡がないからですね、ラットがどうなったか伺おうと思いまして」
 西條は眉間に皺を寄せていた。
「あぁ、ラットか。死んだよ。二時間前にな」
「えっ、二時間前ですか。それって実験開始から三時間経過したってことですよね。おかしいな。これまでの実験において、あいつがこんなにも推定死亡時刻を外すなんてことはなかったのに……」
 電話口からぶつぶつと独り言が聞こえてくる。
「ありえない。ありえるとしたら途中で実験協力者が減ったか、あるいはラットを見ている……。もしくは……」
「大丈夫か?」
 宮前は眠そうな声から一転して、深刻そうに考え込んでいる。
「…………あの、坂口さん、本当にそのラットはペットショップで買ったもので間違いないのですよね?」
 西條が露骨に顔を歪ませる。
「……どうしてだ?」
「いえ、今までこんなにも実験完了時刻が遅れたことがなくて……。考えられるとしたら、あいつがいる向こうで何かが起きたか、そのラットが特別な個体かどうかしか考えられなくて……。向こうで実験協力者が減っている可能性もあるのでそれは、後でこちらから確認しようと思いますが……。実際、どうなんです?」
 西條を見ると、首を振った。
「あぁ、ペットショップで買ったやつだ。何ら普通のラットと変わりがない」
 そして、手元に来た西條からのメモを読み上げる。
「それよりも、個体が特別だと死ににくいというのはどういう事だ? 宮前君たちの殺しは対象が特別だと遅れたりするのか?」
「……それは、そうでしょう。例えばですが、産まれてから予防接種を打たれている個体とそうでない個体、殺しやすいのは前者ですよね。その方が殺しの幅も広がります」
「……そうか」
 俺は助けを求めるように西條を見た。西條はずっと眉間に皺を寄せ、考えを巡らしている。またメモが渡された。
「今回、宮前君たちが対象の映像を見るだけで殺せることは分かった。だが、もしそうなら、なおさら分からないことがある。それは君たちがいう遺伝子攻撃ウィルスに似た何かを使ったという点だ。ありえないだろう。映像を見ただけで対象の遺伝子情報を特定するなんてことは……。それに、もし仮に特定できたとしても、俺が君と一緒に研究室にいたのは十五分足らず……。そのわずかな時間で遺伝情報を解析し、遺伝子が全く同一の個体だけを殺すウィルスを開発するなんてことは不可能だろう?」
「…………坂口さん、やはりあなたは科学者に向いていますよ。ですが、あなたは科学者ではない。あなたが必要なのは本当に証拠もなく殺せるかどうかでしょう? 実際にラットは死んだ。それで依頼する分には十分ではないですか?」
 西條はもういいという口の形を作った。
「あぁ、そうだな。見事に君たちは対象のラットを殺した。次は本格的に人間を殺してもらう依頼をする。前金としては少ないが、君たちを疑った詫びだ。一億円、君の指定した口座に振り込ませてもらう」
「ありがとうございます。……次からの依頼ではホームページに書かれた条件を私たちにできるだけ付与してください。お金に関してはさほど現段階では重要ではありません。権限付与にかかる費用の方が膨大でしょう。それで構いません」
「…………助かるよ。殺す対象が決まりしだい、連絡する」
 俺は電話を切った。研究室は無音に包まれ、空調の効いた部屋で、俺も西條も汗を浮かべている。
「西條、何か手掛かりは掴めそうか?」
 西條を見ると、必死にラットの検死をしていた。そんな中、勢いよく西條の部屋が勢いよく開けられた。
「主任、これを見てください」
 西條が他の研究員からもらったデータを確認している。そして、目を大きく開けて呟いた。
「どういうことだ。こんなことはありえない」
 研究のデータを凄い勢いで読み込んでいく。目が光速で左右に移動している。あっという間に何十ページもあるデータを消化していく。そして、西條は最期のページを読むとそのまま目を瞑った。
「西條、俺にも説明してくれ」
 西條は、目を閉じたまま左唇だけ上げてニヒルに笑うと言った。
「ラットの遺伝情報が全てこれでもかというぐらいにずたずたに破壊されている。つまり、この状況だけ見れば奴らが言っている通り、遺伝子を攻撃するウィルスを使っていることになる」
 西條はそれから黙り、俺を見た。
「西條、それで何か分かったか?」
 西條は手を挙げて笑う。
「あぁ、分かった」
「何でもいい。教えてくれ」
 西條は天を仰ぎ見るようにして呟く。
「何も分からないということが分かったよ」

いつも読んでくださってありがとうにゃ。 ゆうきみたいに本を読みたいけど、実際は読めていない人の為に記事を書いているにゃ。今後も皆が楽しめるようにシナリオ形式で書いていきたいにゃ。 みにゃさんが支援してくれたら、最新の書籍に関してもシナリオにできるにゃ。是非頼むにゃ。