僕と君は結ばれない⑥

 俺達はカラオケに行った。俺が歌い終わると冴木は涙をこらえながら、こう言った。
「……これは、ひどい。先輩って、結構残念スペックですね」
 …………。
そんなことがあって今俺は、冴木の叔父さんの店で雇ってもらっている。俺がバイトの時は冴木も必ず店に来ていた。バイク屋といっても、そんなに大きな店ではなく、個人でやっているようだった。叔父さんは他店からのバイクの修理依頼もあって、それなりに忙しくしていた。それでも時折手が空くとジャンクになったバイクをいじらせてくれたりもした。それを見ていた叔父さんが俺に簡単な整備を教えてくれた。それからしばらくバイクを弄っていると本格的にやってみるかと言ってきたので、お願いした。



 咲さんの彼氏である太一さんとも仲が良くなった。数日程、咲さんはこっちに来ていたが、今は東京に戻って一人暮らしをしながら大学に通っているそうだ。咲さんが次にいつこっちへ帰ってくるかを知るには、彼氏である太一さんを頼るしかなかった。だから仲良くなったといってもいい。



 太一さんの乗っているバイクは400CCで、走行距離は既に十五万キロを超えていた。バイクを売ってくれた先輩はツーリングが大好きだったらしく、定期的にメンテナンスをしていたからか、エンジン音も別に変な感じはしなかった。



 ただ、太一さん自身はバイクを引き取ったはいいが、メンテナンスの仕方はよく分かっていないようで今も特に何かをするわけでもなくバイクに乗り続けているようだ。




「太一さん、良かったら今度うちの店に遊びに来ませんか? 俺、バイクの整備が少しできるようになったんですよ。」
「まぁ、気が向いたらな。俺も大学の単位で落としそうなのがいっぱいあってよぉ。中々遊びにいけないんだわ」 
「大学の勉強ってそんなに難しいもんですか?」
「いや、遊びすぎて出席日数が足りないんだわ。あと、一日休んだら落とす単位がゴロゴロある」
「完全に太一さんの責任じゃないですか。まぁ、考えといてくださいよ。俺にバイクいじらせてくれるなら、メンテナンスの費用かなり安くしますから」




「そりゃ、助かる。俺も結構バイト漬けでお金は入ってきてはいるはずなんだが、サークルの飲み会やらの交際費ですぐ手元からお金がなくなっていてよ。ほんっと安くしてくれるのは助かる」
「まぁ、俺もまだ素人みたいなもんですから気にしないでくださいよ。その代わりといってはなんですが、メンテナンスに来るときは咲さんを絶対に連れてきてくださいよ。俺も安くするんだったら、何かモチベーションが欲しいですからね。それと、遅くとも大学の秋休みまでには絶対に連れてきてくださいよ。太一さんがそれまでに連れてこないなら、その時は通常の値段でしますから。バイクの維持費って結構かかりますよ。場合によっては諭吉が何枚か飛んでいきますから。絶対に秋休みまでに咲さんと俺の店に来てください。来てくれるなら、材料費だけで技術料はとりませんから」





 俺がまくし立てるように言葉を放つと太一さんは驚いた表情を浮かべた。
「……お、おう。分かった。どんだけ咲さんに会いたいんだよ。ただな、前にもいったが、咲さんは俺のものだからな」
「もちろんじゃないですか」
 俺はごまかして、太一さんに咲さんと会わせてもらえるよう約束をとりつけることに成功した。後は、この能力を使って俺の都合のいいように運命を操作すればいい。




「せんぱーい、またこのオンボロアパートの前にいたんですか。それに中々がさつそうな男と一緒にいましたね」
 もう、このパターンも慣れた。後ろを振り返らずに問う。
「冴木だな。何しに来た」
「いやー、カラオケした次の日にこのボロアパートにいったらですね、やたら綺麗な女性が出てくるじゃないですか。彼女の顔をしばらく見て、私ピンと来たわけですよ。これは、先輩のタイプだなとね。だから、ここをはってれば、学校で先輩に巻かれても会える、そう踏んだわけですよ」




 女の勘は鋭いというが、どんぴしゃりで当てられると恐怖を感じる。
「……へ、へー、すごいな」
「……先輩、ひいていません? ひかないでくださいよ。あぁ、何で後ずさりするんですか。怖くない、怖くないですよ。ほうら、おいで、頭を撫でてあげますからね」
 そう言うと、冴木は屈んで空中を撫で始めた。
「なんで扱いが犬や猫と同じ扱いなんだよ」



「先輩も動物も広義では一緒です。愛でるという一点において」
「…………お前の彼氏になる奴は本当に不憫だよ。牢屋に閉じ込められているって聞いても不思議と納得できそうだ」
「そんなことしないですよー。そんなことー……。…………うん? 閉じ込める。そうか、その手もあるなぁ。先輩、突然ですが、私に飼われません?」
「する気満々じゃねぇか。それで、はいって了承する奴がいるとでも思ってんのか?」




「いや、割と真面目に。そうですね。先輩が高校を卒業するまででいいですので……。あと半年ちょいですよ。今なら、可愛い天使が先輩を毎日癒してくれます。」
「その天使が俺の知っている天使ならチェンジで」
「…………先輩ってほんとノリが悪いですねぇ。せいぜい頭の上には気をつけてくださいね。いつ、私が植木鉢を上から落とすか分からないですから」
「はい、はいっと。それで、俺に何か用があってきたのか?」



「あーそうです、そうです。忘れていました。先輩が前言っていたリストを作ってきましたよ」
「リスト?」
「先輩が惚れそうな人リストですよ。食堂で私、顔を見たら先輩が好きになりそうな人が分かるっていったじゃないですか? あれ、作ってきました。と言っても初日の入学式でとった各クラスの集合写真ぐらいしか手持ちにはないですけどね。それをフルカラーでコピーして好きそうな人には印をつけてきました」



「…………冴木、病院に行こうか。大丈夫、きっと半年もすれば出られるから。俺もたまには病室に行ってやるからな」
「精神疾患の類じゃないですって、たしかに客観的に見たらかなり危ない奴ですけど、正気ですから」
「正気でこれをできる方が怖いわ。危ない奴って自覚したうえでこれを作ったお前の精神状態がかなり気になるわ」

いつも読んでくださってありがとうにゃ。 ゆうきみたいに本を読みたいけど、実際は読めていない人の為に記事を書いているにゃ。今後も皆が楽しめるようにシナリオ形式で書いていきたいにゃ。 みにゃさんが支援してくれたら、最新の書籍に関してもシナリオにできるにゃ。是非頼むにゃ。