死の研究⑦
この国の若者
「今日、午前三時半ごろ指定暴力団○○○の幹部、大磯健司容疑者が亡くなりました」
俺はあくびをしながらニュースを見ていた。母親がトースターに入れていたパンが勢いよく飛び出すさまを手持ちのハンディカメラで録画する。チンと音が鳴り、パンが飛び出してきた。
「うん、うん。今日も素晴らしい飛び出し具合、基礎点と共に芸術点も高い」
「あんた、今日拓磨君と待ち合わせしているんじゃなかったっけ。早く食べていかないと間に合わないじゃない?」
「いいんだよ。拓磨なら分かってくれるって」
俺はパンを咥えたまま、家を飛び出した。なんて奥ゆかしくレトリックなのだろう。古き良き伝統美というものがある。俺は大学にある映画研究会に行った。
「遅いぞ、修二、遅刻だぞ」
「悪い、悪い。ちょっと道で可愛い女子高生がいたから、少しだけ撮影させてもらってたのよ。駅のホームに立ってもらって風で髪をなびかせるってやつ。ほんっと絵になるよなぁ。制服を着た女学生にしか出せない魅力ってあるよなぁ。だから、小説にしろ、漫画にしろ、映画にしろ、脚本にしろ、学生時代をテーマにしたものって多いと俺は思う訳だよ。学生の服を着れるのは、中学で三年、高校で三年、この長い人生において、たったの六年なわけよ。だからこそ、男子は健全かつ不健全な欲を制服姿に抱くわけだよ。それに長い人生において、本当に相手単体を見て好意を抱くっていうのも学生の特権なのよ。大人になりゃ、何だ、経済的だの、なんだの、そういったしがらみも判断基準に入れちまう奴もいる。俺から言わせりゃ、ただの小賢しい馬鹿だよ。あのさぁ、車とかの消耗品を買う訳じゃないのよ。あんたの人生をともに生きるパートナーを探してるのよ。そりゃ、給料面は大事だろうけ……」
「もういい、もういい。許すから僕の話を聞いてくれ」
俺は黙った。たかが三十分の遅刻だ。実質遅刻していないのと同義だ。
「んで、休みなのに何よ?」
「あぁ、これを見て欲しい」
そうすると、アニメーションが流れ始めた。これよく知っている奴だなと思った。
三年前から放送が始まったアニメだ。朝八時半から流れているやつだ。だが、俺はあまり好きではない。見るのならば特撮系の方だ。あっちの方が断然面白い。それのついでに見ているだけだ。
ストーリーも単調で何ら面白いとは思えなかった。舞台はワールド・ピース・カンパニーという、いかにも幼児向けといった会社になる。そこに勤めている子供たちが現状の社会問題を解決していく。
この前だと海を綺麗にしようといって、明らかにご都合主義でしかありえない方法で解決していた。その前は食料問題だったか、それも現状では考えられない方法で解決していた。まぁ、ドラえもんが秘密道具を使って解決するようなものだなと自分の中では解釈している。
俺は黙ってその映像を見終わった。
「修二、何か気づいたことはないか?」
「いんや、つまんないってこと以外、何も」
「そうか」
そういって拓磨は機材をいじり始めた。
「お前はサブリミナル効果というものを知っているか?」
「はっ、馬鹿にしてんのかよ。映画作るうえでそんなことも知らない馬鹿なんていないだろ」
「この映像にそれが組み込まれている」
「はっ? ありえないだろ」
「僕もそう思いたいよ」
「だってよ、それって俺達が産まれる前に禁止されているよな」
「あぁ、そうだな」
「だったら……」
「まぁ、いいから聞け。一応、説明する。お前も知っていると思うが、サブリミナル効果で最も有名なのは、映画館での実験だな」
「あぁ、あれだろ。映画館において、通常の映画のスクリーン上に人間が認識できないわずかな秒数、確か三千分の一秒だったかな。その間にコカ・コーラとボップコーンの画像を五分に一度映すだったって話だよな」
「そうだ。実験の結果、コカ・コーラは18.1%、ポップコーンについては57.5%の売り上げの増加が見られたというあれだ」
「ふん、馬鹿馬鹿しい。あんなでたらめ信じる方がどうかしてる」
「何故だ?」
「お前の方が詳しいのに説明させるな。俺は、それでお前に論破されたことがあるっていうのに。……それを提唱した奴が広告会社を立ち上げたが失敗に終わっている。もし本当にサブリミナル効果なんてものがあるのなら、そいつは成功しないとおかしい。それに後年、この実験の数値自体がでたらめだと言われ始めた。だから現実的ではないってな」
「あぁ、そうだ。確かにその通りだ。だが、日本でも法律では禁止されていないが、放送局はのきなみ、サブリミナルでの放送を自粛している。他の国でも四十か国以上でサブリミナルを使用しての放送を禁止している」
「そうだな。で、拓磨は何が言いたいんだ?」
「これを見てくれ」
そう言うと、画面に文字が浮かび上がった。ワールド・ピース・カンパニー最高と書かれている映像だった。
「……」
「これが、この映像に盛り込まれている。しかも、ご丁寧に三千分の一秒に一回だ。さっきも言ったが、法律では禁止されていないが、日本民間放送連盟は禁止している。にも関わらずだ。おかしいとは思わないか?」
「確かに変だな。だが、ホームページにサブリミナル解禁とかの情報があるんじゃないのか?」
「見てみろ。…………相変わらず、禁止されている。変更されている点はない。そして、もう一つ不可解な点がある。これを見てくれ」
「何だ、これ」
「これはサブリミナルの映像が盛り込まれるようになった時期を表している。放映から一年間はサブリミナルを使っているものは全くない」
「あぁ」
「だが、放送が始まって一年と二か月後、突如としてサブリミナルの映像が盛り込まれてきた。そして、その時期からはそれは欠かすことなく毎回行われている」
「何が言いたい?」
「……僕自身も分からない。だがこれに加えてさらにもう一つおかしな点がある。僕自身はサブリミナルなんて信じちゃいないが、放送局に事実確認として連絡をした。だが、まともに取り合ってすらもらえなかった。だから、僕はサブリミナル映像が映っている瞬間を動画投稿サイトに載せた」
「どうなった?」
「投稿してわずか数分で動画は削除され、あげくアカウントの停止だ」
「……何か怖いな」
「だろ、何でこんなにも神経質なのかが意味不明だ」
「因みになんだが、そんな会社が現実にはあったりするのか?」
「一応、海外のサイトも確認したが、このアニメのような多岐に渡る支援をしてそうな会社はなかった。存在すらしない。なのに、何故こんなにも神経質なのか? そう、お前を呼んだのは、信用してもらうためだ。今から別のプラットフォームで同様に動画を投稿しようと思う」
そう言うと、あいつ所有のノートパソコンで別のプラットフォームのサイトを開き始めた。
「しかし、たかがサブリミナルだろ。昔、その当時の映像が部室に残ってたから見たけど、別のアニメのキャラが映っていたりして、遊び心があっていいと思ったもんだ。で、拓磨まだか?」
「……おかしいんだ。このパソコンは常にログイン状態になるように設定しているはずなんだが……。さっきから入りなおしても弾かれる」
「へぇ、そんなこともあるんだな」
拓磨がログインアドレスとパスワードを目の前で入力していく。そしてエンターを押す。
「よし」
画面に文字が映し出される。
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その文字だけだけが表示され、俺も拓磨も顔を見合せたまま固まった。
いつも読んでくださってありがとうにゃ。 ゆうきみたいに本を読みたいけど、実際は読めていない人の為に記事を書いているにゃ。今後も皆が楽しめるようにシナリオ形式で書いていきたいにゃ。 みにゃさんが支援してくれたら、最新の書籍に関してもシナリオにできるにゃ。是非頼むにゃ。