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暗い話

服を試着しようとした。店員さんに言わなきゃダメなのだろうかと考えながら、こっそりと試着室に向かう。

「試着なされますか?」

わたしより背の低い店員さん。
目が大きくて、オレンジのアイシャドウと長いまつ毛がよく見えた。目が、本当に大きかった。
声も可愛くて、明るい声色。

一方わたしは、目が小さいことは当たり前としても「はい」と返事をする声すら暗くて低い。そもそもマスク越しに聞こえてるのかな。目も、うまく合わせられない。

悪いことをするみたいに試着室に入る。
入ったら、すぐに出ないといけない気がした。
そうしないと、あの可愛い店員さんが話しかけにくるような感じがして、それが嫌だったのかもしれない。


可愛い人に、わたしなんかが可愛い服を試着するところを見られたくなかった。

服を着た。可愛いけど、やっぱ何か違う。
何が違うって、この顔、肌の色、溢れ出る雰囲気が違う。服だけがキラキラと輝いてて、わたしはそこら辺の土みたいだった。似合わないとか……そういうこと以前の問題。わたしに似合う服なんて、ないじゃん。

早く脱がないと可愛い店員さんが来てしまう気がして、謎の暑さを感じながら脱いだ。
脱いだら前髪がボサボサになって、それを鏡で見ながら何してんだろうと思った。思ってしまった。
カーテンを開けると「いかがでしたか?」と聞かれた。聞こえてるのかわからないような声で「少し考えます」と言って、結局、何も買わないで帰った。

帰ってから、泣いた。
自分のことが嫌で泣いた。


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