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サムライ・木津武士「やりきれ、のりきれ、わきまえろ」

 冷たい雨の降る如く、わが心にも涙振る。わが日野レッドドルフィンズは、同じディビジョンⅡの強敵、三菱重工相模原ダイナボアーズに完敗し、3連敗となった。こういう辛い時は、日野の公式サイトを“ネットサーフィン”する。

 選手紹介。みんないい顔している。フッカーの郷雄貴選手の「憧れるスポーツ選手」の欄には、こう、あった。「木津武士」。理由は「カッコ良いから」。ちょっと笑った。

 確かに、フッカーの木津選手はいいオトコである。とくに人柄が。取材してもう、10年余になろうか。

あの「ブライトンの歓喜」と呼ばれた2015年ラグビーワールドカップの南アフリカ戦の試合後も話を聞いた。後半途中から入った木津選手は最後の奇跡の逆転トライを生むスクラムの際、フッカーを務めていた。押した。特筆しておきたいのは、彼がチームメイトから絶大の信頼を得ていたことだ。

 神戸製鋼から日野に移籍してから5年。チームのためにからだを張ってきた。33歳。この日の新リーグでの三菱重工相模原戦。唯一のトライはドライビングモールを押し込んでの木津選手のトライだった。もちろん、FWの結束の押しがあったからこそのトライである。

 試合後のオンライン会見。選手としては、木津選手1人をリクエストした。なぜ、と白いマスクの下の顔は笑っていた。

 スクラムのことを聞けば、木津選手は「最初ちょっと後手を踏んでしまったなという印象でした」と切り出した。

 「でも、相手がどう組んでくるから、どうこうしようとの(チーム間の)コミュニケーションはとれていたので、後半はうまく修正できたのかなという感じはありました」

 日野の強みはセットピースである。スクラムである。接点である。ただ、チームとして、陣取り合戦では負けていた。敵陣にいかなれば、その強みの効果も出にくくなる。

 「FWが前に出て、敵陣でやれば、(トライをとる)自信はあるんですけど、それを全然やらせてもらえなかった」

 これでディビジョンⅡの第一ラウンドが終わり、2勝3敗となった。どうでしたか?

 「自分たちの今の位置を気づけたので、もう上がっていくしかない。一週休みを挟んで、ちゃんといいゲームができるよう準備していくだけです。スクラムについては…」

 と、ここで通信環境が悪くなったのか、突然、オンラインの動画が止まってしまった。20、30秒後、復旧した。「もう一度」と頼めば、笑って言い直してくれた。

 「スクラムについては、自分たちのスクラムを組んでいくことにフォーカスをあてていきたいなという印象です。だれが(FWに)入ってきても、同じスクラムを組めるようにやっていきたいな、と。相手がどうのこうのではなくて」

 話題が、北京冬季五輪に触られると、木津選手は「結構、見ていますよ。いろいろ」と言った。

 「スキージャンプもスノボーもフィギュアスケートも。いろんなドラマありますよね。すごく感動させてもらっています。競技は違いますけど、世界で戦う人たちのマインド、モチベーションは勉強になります」

 競技は違えど、挑戦する姿は一緒だろう。オンライン会見には「鉄板」というニューヨークヤンキースの黒色のキャップをかぶって出ていた。名前は「武士」と書いて、「たけし」と読む。サムライだ。日野サイトの選手紹介には、「座右の銘」として、こう書いてある。

 <やりきれ、のりきれ、わきまえろ> 

TEXT BY 松瀬 学


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